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187話:恋愛フラグの行方

 ゲームでの『不死蝶』定位置である時計塔の部屋は存在した。

 なので占拠してみたのだけれど。


 時計塔は大きな機械仕掛けでそれなりに音がする。

 決して侯爵令嬢が好んで占拠するような場所ではない。


「…………知らなかったんだわ」


 時計塔の窓から見ると寮や教室、図書館への道が良く見える。

 アルティスの憑いたマリアを見張るには良い場所と言えた。


 ただ今の私はマルコから見て盗んだ感知技がある。

 これなら魔法学校の中央辺りに陣取ったほうがいい。

 それをしなかったということは、『不死蝶』はマルコと顔を合わせていない可能性が高い。


「どうした? 何を知らないんだ?」

「独り言よ、気にしないで。それより、授業はどうなのジョー?」


 一緒にいるのはジョーとアンディ、シリルという友人たち。

 エリオットはまだ物の揃っていないここのために茶器を取りに席を外している。


「まだ全然面白いことないな。あ、けど実技で杖使ったのは初めてでちょっと面白かった」

「あら? 公爵家のほうで用意しなかったの?」


 私の質問にアンディが訳知り顔で笑う。


「君がすいすい指だけでどうにかしてるのに、僕らだけ杖を使うのも負けた気がするじゃないか」


 どうやら私を気にして使ったことがなかったそうだ。


 シリルも自分のクラスで起こった実技での事件を口にする。


「私のクラスでは大きな爆発が起こってしまったの。元から杖にそんなに出力ないのに魔力を籠めすぎたせいだそうよ」


 私のクラスでは制御が上手く行かない生徒が多かったけれど、そうした問題もあるのね。

 けれど聞きたいのはそこじゃないのよ。


「…………アンディ、マリアはどう?」

「あぁ、あの全属性の? 正直拍子抜けだ」

「え?」


 予想外の反応に私は驚いたけれど、ジョーは先に聞いていたらしく頷いた。


「そうそう、シャノンみたいに色々するのかと思ったら基本の四属性だけしか使わないし、すごいもたつくって言ってたな」

「アンディ、それは可哀想よ。シャノンは魔法の大家で育ってるのよ? 才能があっても学ぶ機会が限られていたんでしょう」


 シリルのとりなしに、アンディは納得がいかないような顔をする。

 その表情はきっと、学んでさえいないのでは? という才能を生かさないことへの不満。

 つまり、あまり良い感情をマリアには抱いていない証拠だった。


「ね、ねぇ? マリアが食事時に声をかけたとか…………」

「食事? あぁ、あの時。何処かで見てたのかい?」


 そう言うわけではないけれど、食事時の会話はゲームでのアンディとの出会いイベントなのだ。

 同じクラスで顔は知っているアンディが、一人で食事をしている姿にゲーム主人公は不思議に思った。

 なにせ食堂の外で公爵家継嗣が食べているのだ。


 気になって声をかけてからが恋愛イベントの始まり。

 最初に出会いがあるのはマリアと同じクラスのアンディだと思うのだけれど。


「何があったの?」


 私の煮え切らない様子に、シリルがアンディに水を向けた。


「何も? 食堂でジョーと一緒にいたら声をかけられただけだよ。しかも外がどうとかどうして? なんてよくわからないことを言うんだ」

「仲が悪いとかどうとか言ってたから、誰かに半端なこと言われたんじゃないか? 父上たちの不仲が俺たちと思い間違ったとかさ」


 その場にいたらしいジョーが肩を竦めた。


 そして言われて気づく。

 そうだ。食堂にいかなかったのは仲の悪いジョーがいたからだった。

 けど今はそんなことない、つまり恋愛イベントは始まらない。

 そもそもフラグが立たないのだ。


「シャノン、どうしたんだい? 気分でも悪い?」


 頭を抱える私にアンディが心配してくれる。


 けれど申し訳ない。

 マリアとの出会いを台無しにしてしまった。

 そしてマリアはやっぱり知っている。

 ゲームの出会い知っているからこそ戸惑ったとしか思えない。


(ねぇ、この感じさ。あれかな?)

(や、やめて。そんなこと考えたくない)

(いや、考えなきゃ。ってか、私がこうなってるんだから主人公のマリアも前世持ちかもしれないでしょ)

(そうなると今まで頑張ったバタフライエフェクト全てひっくり返るじゃない。そんなの不安すぎて考えたくないわ)


 どうしよう?

 ここは正面から聞くべきかしら?

 上手く行けばバタフライエフェクトなんて考える必要もなく死亡フラグを折れるかもしれない。

 けれど失敗すればどうなるかしら?


 頭の中を今まで見たことのある漫画やアニメの展開が駆け抜ける。

 そんな可能性だけで悩んでいると、ジョーが頬杖をついて私を指差した。


「この感じってさ、あれだよな。シャノン、俺たちに言ってないことあるだろ」

「え、なんのこと、かしら?」


 断言したジョーは誤魔化そうとする私をじっと見てくる。

 アンディも考える様子で私を見つめた。


 突然ジョーは指を鳴らす。


「…………そうか。なんの予兆もないのに知ってる風に。予知か」


 う、気づかれた。いや、違うんだけど。

 でもジョーの看破って本当にすごい。


「勘だけど、なんか聞いとかなきゃいけないこと隠してるだろ」

「…………そんなことないわ」


 別に死亡フラグは関係ないし。


 なんて思って答えたらアンディがすごく笑顔で私に迫った。


「それなら教えてくれるよね」


 は、罠だった!


「ふふ、言いにくいなら私に言って。言うべきかどうか一緒に判断しましょ」


 シリルの優しい手助けとジョーとアンディの厳しい視線に、つい耳うちで恋愛フラグについて話してしまう。

 するとシリルが頭を抱えた。


「おい、何聞いたんだよ?」

「シリルがこれほどって相当じゃないか」


 ジョーとアンディがシリルの不審な態度に騒ぎ出す。


「それは、言ったほうがいいとは思う。というか、その流れだと私も?」

「うん。色んな可能性というならそうなんでしょうね」


 ゲームでは恋愛シミュレーションだし。


 シリルの後押しもあり、私は二人がマリアと恋愛をする可能性があったことを話した。

 途端に二人もシリルと同じように頭を抱える。

 そんなにマリアが相手だと嫌かしら?

 そりゃ、よく知らない人となんて言われて受け入れがたいでしょうけれど。


「シャノン、それ、俺たちの求婚断った時、他にいい人がって言った理由だろ?」

「く、まさかそんな可能性のせいで本気にされてなかったとか誰が予想できる?」

「二人の可能性を私の独断で潰すわけにはいかないと思ったの。でも、結局アンディの可能性は、潰してしまったみたいだけれど」


 これだとジョーも恋愛イベントが起きないかもしれない。

 ジョーは今のままでも出会いや発展はできる。

 けれど最終的な話ではアンディとの確執を語って仲を深めるのだ。

 となると不仲ではない現状ありえない恋愛フラグとなる。


「落ち込むなよ。こっちが落ち込んでるんだから。っていうか、その未来もう変えたんだろ? 俺たちが不仲になるってやつ」

「えぇ、たぶんそうなのだと思うわ」

「だったらもっと早く気づいてほしかったな。君の見た未来の僕たちと今の僕たちは別人だってことに」

「別人?」


 確かにそうだ。

 ジョーとアンディはゲームとは違う。

 だったら好きになる相手も違うのだから、マリアに固執する必要はなかった。


 というかゲーム主人公がモテモテな姿を傍から見てみたかっただけの好奇心が最初だ。

 別にそこにどうしてもジョーとアンディがいる必要はない。


「よし! シャノン、今度もう一度求婚するからな。その時はちゃんと予知とか関係なく俺を見て決めてくれ」

「え、そんないきなり」

「ふん、焦りすぎじゃないか、ジョー? 勝ち目のない今仕切り直したところでシャノンの関心は別にある」


 ジョーが突然の求婚宣言をすると、アンディは妙に自信に満ちた態度で笑う。


「あら、アンディはもう諦めるの?」

「まさか。自滅してくれるならそれを眺めて、反省を生かすことにするよ」


 探るようなシリルに笑顔のアンディ。

 二人を見てジョーは頬を膨らませる。


「なんで失敗前提なんだよ」


 ジョーが文句を言うと、エリオットが茶器を持って戻ってくる。

 瞬間、三人が私に小声でまくしたてた。


「その予知の内容、絶対に」

「エリオットには言わないでくれ」

「って言うかエリオットには別の相手いなかったの?」


 首を横に振ると三人揃ってソファに身を投げ出す。


「なんですか? お嬢さま、お三方はいったい?」

「さぁ? 私にもわからないわ」


 私はエリオットと顔を見合わせて首を傾げたのだった。


毎日更新

次回:お話を聞く

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