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18話:男の子の意地

「て、天井に穴? あれ、二人がいない…………?」

「お嬢さま、あちらのようです」


 目立つ外傷はないけれど、ジョーとアンディは床に座り込んでその場から動けないようだ。


「…………俺は、間違ったことはしてないって言ってるだろ、このわからずや!」

「君は、反省という言葉を、知らないのか、傲慢な気どりやめ…………!」


 安心したのも束の間、ジョーとアンディは怒鳴り合いを始める。


「はぁ!? 気取ってるのはアンディだろ! この負けず嫌い!」

「我儘勝手な君に付き合わされる僕の苦労を何もわかってないんだな!」

「つき合ってくれなんて頼んだことねぇよ!」

「他人が自分に合わせて当たり前だとでも思ってるのか!?」

「そんなこと言ってないだろ!」

「言ってるようなものだろう! 身勝手な自己犠牲に僕を巻き込むな!」

「はぁ!?」

「ふん!」


 まずい…………。これはまずい!

 二人は喧嘩をやめない。

 それどころか言葉ばかりがどんどん険悪になってる。


 きっとこれだ。二人が決裂する過去の誘拐事件。

 『不死蝶』が今の私のように関わっていたかはわからない。

 けれど、私はここで二人を止めなければいけないことだけは確かだった。


「お前なんて…………!」

「君なんて…………!」


 私は二人の言葉を遮るように、強く手を叩いた。

 響いた私の手の音に、ようやくジョーとアンディはこちらの存在に気づく。

 一歩近づくと、怒りの表情のままジョーが吐き捨てるように言葉を向けた。


「邪魔するな、シャノン」

「するわ」

「君には関係ない」

「ある」


 アンディにもはっきり言い切る。

 何せ二人の仲違いは私の死亡フラグなのだ。邪魔するし、関係もある。

 そして何より、友達の喧嘩を止めないわけがない。


 引かない姿勢の私に、ジョーとアンディも頑なな反応を返した。


「いなかったシャノンには関係ないだろ」

「さっき助けられたのは別問題なんだ」

「そうかしら? 私はおまけだそうよ」


 私は二人のおまけで攫われた。海賊のマルコが言っていたのだから本当だと思う。

 いち早く私の言葉の意味に気づいたのか、エリオットがあからさまにむっとした。


「聞き捨てなりませんね」


 私は片手を上げて、口を挟みそうなエリオットを止める。ここで君が入ると仲違いする人増えかねないからね?


「貴族子弟を攫うと知っていた海賊船の船長が、誘拐犯たちを見張っていたらしいの。そして問題なく二人を攫った後に残った私を、小遣い稼ぎとして攫ったそうよ」


 すでに起こった事象に、もしもはない。けれど、私の言葉でジョーとアンディは黙ってしまった。

 もしもジョーが屋敷から出なければ。もしもアンディが止めるために追わなければ。もしも私が二人をきちんと止められていれば。

 起こらなかったことだと考えてしまう。


「今さら誰のせいで誘拐されたかなんて不毛よ。それは、二人もわかっているはずよね?」


 つまり、喧嘩の原因は誘拐された責任についてじゃない。

 最初の怒りの理由を思い出したアンディが、ジョーを睨んだ。


「誰がローテセイ公爵家子息だ」

「あれはそうしなきゃ…………」


 言い合いになりそうなのを、私はまた手を打って止める。


「ジョー、確認よ。私がエリオットから貰った薔薇の刺繍をつけていたのは覚えてた?」

「覚えてるに決まってるだろ」

「この刺繍にはエリオットが私の居場所を知る魔法がかかってる。それでも必要だと思って行動したのね?」

「あぁ、そういう魔法って発動可能な範囲があるだろ。必ずしもエリオットがシャノンを見つけられるとは限らない。それにあの時、誘拐犯たちは対立してた。なら二つの勢力を戦わせれば逃げる隙も作れるはずだ」


 どうやらジョーなりに考えて、敵を攪乱するつもりだったらしい。


「確かにそのお蔭でアンディを助ける隙が生まれたわね」


 そう肯定すると、アンディが乱暴に手を振った。


「そんなの結果を見ただけだ! 成功するかもわからない無謀な賭けでしかないだろう!」

「何もできなかったくせに」

「なんだと!?」


 私はヒートアップするアンディを落ち着けるため、二度手を打った。


「それじゃ、アンディが考える問題点は何かしら?」

「敵の注意を引くために名乗り出るなら僕で良かった!」

「そのままアンディが名乗り出ても奴らの関係を掻き回せないだろ」

「従順なふりをして魔法で逃げ出す機会を狙えばいい! それに僕はたまたま口まで縛られてただけだろ!」


 どうやらアンディも脱出の方法を考えていたようだ。

 私が当初考えていた方法と同じらしく、大人しい振りをして、倉庫の外に出された時に逃亡しようと狙っていたそうだ。


「それを、無駄な怪我までして!」

「悠長にしてられるか! シャノンがいたんだぞ!」

「同じ船に乗せられるんだから一緒に逃げることはできた!」

「その間になにされるかわかったもんじゃないだろ!」


 話がまたおかしな方向に流れ出したので、私は手を打つ。


「私のことはご心配なく」

「僕が来る前にお嬢さまは海賊を追い払っていました」


 一言で切り上げるつもりが、エリオットが余計なことを言う。

 お蔭でジョーとアンディは絶句してしまった。


「私のほうは二人しかいなかったという状況的な優位もあって」

「いや、明らかに荒事に慣れてる二人だっただろ。どうやったんだよ?」

「君は僕たちと違って魔法道具で縛られてたのに、自力で?」

「魔法道具とは何のことですか、お嬢さま?」


 小屋から出た後で合流したエリオットも初聞きの状況に顔が険しくなる。


「えーと、あれはね、最初の威嚇で魔法道具壊れたのよ。だから行けると思って」


 私は海賊を乗せた状況を簡単に説明した。それでも三人の表情は晴れない。


「ほら、そうやって脅しておいたから、こんなに簡単に逃げを選択してくれたじゃない」


 魔法があっても数で来られると対処は無理だ。

 それは倉庫の中でやってわかった。海賊が逃げの一手に出てくれて、本当に良かったと思う。


「…………格好悪いな」

「まったくだね…………」


 私の説明を聞いて、何故か落ち込むジョーとアンディ。けれどこれは好機だ。


「二人とも、落ち着いたなら少しは考えてみて? たとえばアンディ、ジョーが口を塞がれて、あなたが自由なら、あなたはどんな行動に出たかしら?」

「ふん、僕ならもっと…………」

「やるんでしょ? 自分の身の危険よりも、行動を起こすことを選ぶんでしょう?」


 私の質問にアンディは答えない。アンディはそのままに私はジョーを見る。


「そうなった時、身代わりになったアンディを、ジョーは怒らない?」

「それは…………」


 ジョーはばつ悪い顔で髪を掻き上げる。きっと怒ると自分でも予想がついたんだろう。


「私からすれば、二人はお互いのために怒ってるように見えるのよ」


 友達を助けたいから無茶をして、その無茶に対して怒る。それはつまり、同じ思いではないだろうか。


「そんなことでいがみ合わないで。話し合えばわかるわ。二人とも、お互いが好きでしょう?」


 ジョーとアンディは同時に顔を見合わせて、視線が合った途端にそっぽを向く。

 男の子の意地か、素直じゃない。ここは私が何かきっかけを作るべきかもしれない。


「私は仲の良い二人が好きよ。だって、二人とも大切な友達だもの」


 二人の橋渡しのつもりで言ったのに、何故かジョーは首を傾げた。アンディに至っては顔を顰めている。…………何故?


 私も首を傾げると、外から騒がしい気配が近づいて来た。


「シャノン! ここか!?」

「あら、お父さまの声ね」

「ジョージ!」

「アンドリュー!」


 どうやらジョーとアンディの父である公爵方もいらっしゃっているようだ。

 倉庫の入り口から振り返ると、二人とも大人しくなっている。


「さ、喧嘩はこれでおしまい。今度は四人でお父さまたちに怒られに行きましょ」

「四人?」

「四人…………」


 ジョーとアンディの疑問に、今度はエリオットがそっぽを向く。


「エリオット、心配で一人で来ちゃったらしいの」

「だ、旦那さまには知らせました」

「そうね、ありがとう」


 エリオットにお礼を言うと、ジョーが不服げに唇を突き出した。


「なんか狡い気がする」

「狡い? どうして?」

「俺もシャノンにお礼言われたい」

「そうなの? じゃあ、心配してくれてありがとう、ジョー。けど、私も心配したのよ?」

「お、おう」


 言いながらジョーが立つ手助けをすると、背後からアンディに袖を引かれる。


「僕だって、心配はしてたんだ…………」

「えぇ、薔薇のこと気づいてくれたわね。『家の者』とそれとなく知らせたのをわかってもらえて、私も安心したわ、ありがとう」

「…………うん」


 そんなことを話しながら四人で倉庫を出ると、倉庫内部を自ら捜索しようとして部下に止められるお父さまたちがいた。


三日毎更新

次回:誘拐事件の後で

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