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17話:倉庫迷宮

「なんだったんだ、さっきの炎と網は!?」


 そう叫びながら逃げ果せた誘拐犯の仲間らしき男たちが倉庫の木箱の間を走る。

 うーん、最初は上手くいったけど、さすがにそう何度も成功しない。


(できれば相手にも怪我をさせたくはないのだけれど)

(そうは言っても向こうは武器持ってる可能性高いんだし。元から私は弱いんだから。できる手は全部使っていかなきゃダメだって)


 迷いながら、私は走る男たちの行く手に先回りした。

 陣取るのは木箱一つを挟んだ場所。そして足音が近づくのを待って、木箱に土の塊を連続で叩きつけた。


「なんだ、誰かの攻撃か!?」

「いや、木箱が…………倒れてくるぞ!?」


 警戒して足を止めてしまった男たちは、しっかり木箱の下に敷きこまれてしまう。

 木箱一つで私より大きい。それが狭い木箱同士の間に雪崩れるんだから逃げ場はない。


(念のため眠りの魔法いるかな?)

(軽くかけたつもりなのにまだ表の見張りが目を覚ましていないのが不安だわ)

(あー、そうだね。技術の進んだ日本でさえ、投薬の問題でニュースになるくらいだし)

(素人判断はやめたほうがいいでしょうね。となると後使える手は…………)


 私は木箱の上から網をかけて、網の端に魔法で生成した大きめの石で固定してからまた木箱の上を移動した。


「おい、上だ! 上にガキがいるぞ!」

「見つかっちゃった」

「あ、逃げた! 追え追え!」


 さすがに薄暗くても私のドレスは目立ちすぎた。

 あと木箱の上は急いで移動するとそれなりに音がする。位置的に優位ではあるけれど、あまり上にいることがばれるとそこにも敵は登ってくるだろう。


「捕まえて人質にしろ!」

「海賊が逃げた今、捕まえたガキだけでも!」

「おい、そっちに行ったぞ!」


 私に狙いをつけて追いかけてくるのは五人。

 しかも回り込んで捕まえようとするから一気に制圧は難しい。


(逆に考えようよ。相手がばらけてくれてるなら、私一人でも確実に仕留めて行けるって!)

(なんだか危険思想に聞こえるわ)

(なんでもいいよ! エリオットの負担減らすためにも今の作戦方針は命を大事に!)

(そうね。私が捕まるようなことがあったらエリオットが無茶しかねないものね)


 やれることが限られている今、やるしかない。

 ちょうど私を見失った一人の背後に降り立った。


「あ、こっちにいたぞ! このガキおとなしくしろ!」

「お嬢さま!」

「ぐへぇ…………!?」


 上から飛び蹴りを食らわせたエリオットに、男は鼻血を垂らして倒れる。

 エリオットは男に目もくれず、私の元に駆け寄って来た。


「危険な真似をなさらないでください!」

「い、今はそれより賊が…………」

「見つけたぞ、こっちだ!」


 言ってる間に、私を追っていた残りの四人が現われた。

 エリオットは私を背後に回すと、私の手を取る。


「危険に身を晒すのは僕の役目です。お嬢さまはどうか力をお貸しください」

「え、えぇ…………」


 エリオットの目の前には四つのパズル画面が浮かぶ。

 何か大技をしようとしているようだ。

 私の知らない魔法。それでも、パズルの最適解はなんとなくわかる。


「こうかしら?」

「さすがです、お嬢さま。生炎の花女神フローラ・コーズ・フレイム!」


 発動した魔法を、エリオットが操って四人の賊を包み込む。

 その魔法は炎の壁を細かく幾重にも生み出す魔法。

 四人の賊は炎の薔薇に包み込まれるような見た目になる。

 炎の壁を突破しようにも折り重なっていて、強硬に突撃すれば火だるまになるだろう。


 吹き付ける熱風は渦を巻いて、倉庫の高い天井に達しようとしていた。


「エリオット! さすがに倉庫を燃やすのはまずいわ。威力を弱めて」

「それが、これはそうした調整のできない魔法のようで」

「えぇ!? だったらなおのこと危ないから止めて。消したらすぐに私が対処するから」


 命じると、エリオットは悔しそうな顔をする。

 けれど口答えはせずに魔法を解いてくれた。

 炎と風が収まると、中に閉じ込められていた四人の男が一歩を踏み出す。

 と同時に、その場で膝を突いた。


「ひぃ、ひぃ…………ひへ、へ…………」


 明らかに呼吸音がおかしい。

 どうやら熱風の中に閉じ込められて呼吸が上手くいってなかったようだ。

 私が風の魔法と一緒に構えた網が無駄になる。


「おい、何だ今の火柱…………あ!?」

「あ!」


 思わず無駄になりかけた風魔法と網を投げつけた。

 三人捕獲!

 と思ったらナイフを持っていた人がいて網を切ってしまった。


(眠り薬が駄目なら、スタンガンとか魔法でできないかな?)

(やってみましょう)


 私は狭い木箱の間を一列に来る三人に、雷の魔法を放った。

 目に痛い光を放って駆け抜けた雷は、瞬く間に三人を貫通する。

 倒れて悶える三人からは、焦げたような悪臭がした。


「雷の魔法は人間に当てると内側から焼くような作用が起こるんだ~。心臓止めることもできるから、当てる所に注意だよ~」

「もっと早く言って」


 思い出したように陰から顔を出したアーチェ。

 私はともかく倒れた三人に呼吸があることだけは確認した。


(思いつきで魔法を人に向けちゃ駄目だね。こんな力、そりゃ学校で学ばせる必要があるよ)

(石や土の塊を当てて気絶させるほうが安全な気がしてきたわ)

(それもどうなの? 殴るのと変わらなくない?)

(手加減って難しいのね)

(あ、結界とかで閉じ込めるのは?)

(それよ! 網を結界で補強すればナイフでも切れないわ)


 なんて考えながら、私は魔法で倉庫内の敵を制圧する。

 やはり魔法で怯ませてから網で捕獲という形が確実だった。

 そうして私とエリオットは、誘拐犯の仲間と思われる男たちを捕まえることに成功する。


「全部で三十一人いますね」

「海賊たちは逃げてしまったのに、ずいぶん多くいたのね、誘拐犯」

「俺は違う!」

「おいらは倉庫番だ!」

「私は荷主で!」


 捕まえた者の中には無実を主張する者たちもいる。


「けれど、全員ここに海賊の仲間がいると思って入って来たのよね?」

「誘拐に関わらずとも、犯罪者である可能性は高いかと」


 暫定犯罪者たちは捕まえたまま、私とエリオットは外の様子を窺った。


「霧はもう消えていたわね」

「はい。あれが魔法で発生したのであれば、魔法使いがこの場を去ったためかと」

「私たちを荷物と呼んだ海賊には逃げられてしまったわ」

「そのような不埒者、二度とニグリオン連邦に近づけないよう、旦那さま方に徹底していただきましょう」

「どうしてエリオットが怒っているの」

「僕としてはどうしてお嬢さまがそう平気なふりをなさっているのかが不思議です」

「ふりだなんて」


 否定しようとエリオットを見れば、緑色の瞳が真剣に私を見つめていた。


「エリオット?」


 そう声をかけると同時に、激しく水が蒸発する音と共に水蒸気が木箱の間を吹きつけてくる。


「何、これは?」

「あの子たちの力が思ったより強いみたいー。爆発するかもよー」

「え!? エリオット、こっちに!」


 アーチェの間延びした忠告に、私は結界を張って構えた。

 瞬間、大きな爆発と共に積んであった木箱が雪崩を打って吹き飛んだ。


「お嬢さま!?」


 咄嗟にエリオットが私を抱え込む。

 飛んで来た木箱の残骸がすぐ近くを過ぎて行った。


「あっち、ジョーとアンディがいるのよ?」

「爆発の原因は、二人の魔法かと…………。ですが、これは…………」


 辺りに散らばる瓦礫。

 爆発が起きた方向からは何かが崩れる音が聞こえる。


「どっちも腹を立てて強い魔法を手加減なしに撃ったみたいだねー。魔法同士が打ち消し合うんじゃなくて、反発して爆発になったんじゃないー?」


 どうして爆発が起きたかなんて悠長に考えてる暇ないわよ!


 アーチェの説明を聞きながら、私は慌てて駆け出す。

 けれど進めたはずの木箱の間は瓦礫で埋まって道がなくなっていた。


「ジョー! アンディ!」

「お嬢さま、崩れるので瓦礫の上はいけません」


 焦る私の手を引いて、エリオットは瓦礫を回り込み始めた。


「大丈夫です。あの二人は令息などと言われる割に打たれ強い。こんなことで自滅するはずありません」


 そう私に言い聞かせるエリオットの手は、痛いくらい力が込められている。

 自分も心配でしょうがないのに、励ましてくれるエリオットの優しさが染みた。


 瓦礫を回り込んで水蒸気が濃くなるほうへと走ると、やがて宙づりにしていった誘拐犯たちが見える。

 いや宙づりだったはずの誘拐犯たちだ。

 瓦礫の中に一纏めで倒れ込む誘拐犯の上には天井がなく、爆発の威力を物語っていた。


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