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10話:マスコットの実力

(第四回自分会議ー)

(仮名アーチェの今の様子は?)

(クーリングオフ適用で仮契約した途端、影の中に溶け込んで寝てるわ)


 怠惰な精霊アーチェは、私が契約を渋ると逆にどうすれば契約してくれるのか聞いて来た。面倒臭いとはっきり言ってるのに、だ。


(理由を聞いたら、魔石に宿ったままだと精霊が歪むと言っていたわね。魔導書のような人間の手によって創られた不完全な物なら、適度に力を発散するのだとか)

(あれかな? コルセットや纏足したまま太って行くような感じ。魔石が壊れないコルセットで、人間の作った魔導書は…………ゴムパン?)

(嫌な例えね。けれどそう考えると少しわかりやすいわ)


 聞けばアーチェはここ五十年ほど支配適性の魔法使いを捜していたのだとか。


(まさか、支配適性はあくまで魔法使い本人と同じ属性からしか適性を拝借できないなんて)

(家庭教師が知ったら、また検証のために外出禁止にされるよ。本人が気づくまでは黙ってよう)

(それもそうね。我が家には半世紀ごとに生まれるらしいけれど、本人が適性に気づいてない場合が多いとアーチェも言っていたし)


 どうやらあのアーチェ、聞かないと答えない受け身を極めたものぐさらしく、今まで適性で選んでいたかどうか聞かれなかったから答えなかったそうだ。

 精霊に選ばれることに喜び、当の魔法使いにそこまで聞かれなかったとか。


(アーチェに疑り深い子だって言われてしまったわ…………)

(物は言いようってやつだよ。将来死亡フラグ満載の私は、慎重なくらいでいいんだって)


 自分で自分を慰めつつ、今後のことを考える。


(ともかく魔法学校卒業するまでは契約破棄可能にしてもらえたんだし)

(そうね。面倒臭がりなアーチェに有用性を示さなければ契約破棄すると発破をかけられたのだもの。いいほうに考えましょう)

(…………でさ、アーチェの言ってた仲間を強化できるっていう契約者の特権、どう思う?)

(どうも何も、やはり『不死蝶』がイベントのボスに付与していた力でしょうね。詳しいことは特権を使う時に教えると言っていたけれど)


 イベントで『不死蝶』が絡むと、ボスには必ず蝶のデザインが入っていた。

 あれがこの特権とやらを象徴しているなら、『不死蝶』はアーチェと契約していたことになる。


(この侯爵家に支配適性として生まれて精霊と契約する魔法使いがいたなら、父親に聞けば何かわかるかな?)

(けれど、今お父さまは詐欺師捜しでお忙しいのよ。聞くにしても自分でわかる範囲のことを検証してからでいいと思うの。これ以上心労を増やしたくはないわ)

(あぁ、お茶会で顔合わせる度に喧嘩する公爵二人押しつけられちゃったからね)


 親類とは言え仲の良い者ばかりではない。

 その筆頭がウィートボード公爵とローテセイ公爵で、お茶会の度に一度は喧嘩をする。

 親戚ももう仲裁することさえ面倒がる中、お父さまに白羽の矢が立ってしまった。

 理由は、公爵二人の子息と私の仲がいいため。

 子供同士が仲良しなら親もとひとまとめにされて押しつけられてしまったそうだ。


(早く詐欺師、見つかるといいね)

(エリオットが言うには、ご老体と呼ばれる方が暴れ出して、詐欺師捜索の邪魔になっているそうだけれどね)


 相変わらずジョーとアンディは大人たちの様子を探ってお茶会に参加している。

 エリオットから聞く限り、身を守るために魔法を鍛えるという私の言葉を実行しようと、三人で魔法の練習をしているそうだ。

 それと詐欺師捜索のため、屋敷を抜け出す方法を考えているとか。


(魔法に興味を持ってくれてる今なら、アーチェの契約の特権を試すいい機会じゃない?)

(となると、実験魔と化した家庭教師を説得して、お茶会へ同行させてもらわなければいけないわね)


 軽く考えていた私は、家庭教師の熱意を甘く見ていた。

 まさか説得に三日かかるなんて思ってもみなかったのだった。


「あ、シャノン! もう出てきていいのか?」

「お久しぶり、ジョー。ずっと屋敷に籠り切りじゃつまらないもの」


 すぐさま飛んで来たジョーは、なんの気もなしに私の手を取る。


「またこの指輪はめてるのか?」

「えぇ、ちょっと家で失敗してしまって。けれど大人の目がある所でだけよ」


 片目を瞑ってみせると、途端にジョーの手をアンディが払った。


「お菓子を鷲掴みにした手で触るなんて、気遣いが足りなすぎる。シャノン、手はべたつかないかい?」


 十歳でもう気遣いができるアンディに微笑んだ時、私は手から香る甘い匂いに気づく。


「ありがとう、アンディ。ふふ、ジョーは糖蜜のお菓子でも食べていたの? 甘い匂いがするわ」


 ジョーが答える前に、私の前に立ったエリオットがお茶とお菓子を用意した席へと誘導した。なんだか目まぐるしい。


「侯爵家は本当にどんな使用人教育をしているんだい?」

「突然どうしたの、アンディ?」

「お嬢さまが気にかけることではございません。使用人教育について聞きたいのでしたら、旦那さまにどうぞ」


 エリオットは素っ気なくアンディに答えて私の給仕をする。

 …………うん、仕える相手とそうでない人に対して極端だよね。けどそれは、エリオットだけだと思うんだ。本来王子さまだからね、エリオット。


 ひとしきり会えなかった間の話を終えたら、ジョーが私に向かって身を乗り出した。


「なぁ、俺もシャノンくらい大きな火の玉作りたい」

「そう言われても、私と同じ方法が…………できるかもしれないわね」


 そう言えば、私以外の人が魔法を使う時もパズルは見える。

 パズル画面が見えなくても、やり方を教えたらできるのかもしれない。これでジョーとアンディの魔法を強化できれば自衛に役立つだろう。


「アンディ、もしもの時は消火を手伝ってくれるかしら?」

「あぁ、もちろん。それと、ジョーの後は、僕にも教えて欲しい」


 ちょっと恥ずかしそうにお願いするアンディは、本当に将来私の知るアンドリューになるのか疑問が残る。

 ジョーはすでに片鱗があるし、エリオットに至ってはすでにイエスマンになってしまっているんだけど。

 ううん、今は将来の不安を払拭するためにも、二人を強化しなくちゃ。


 魔法を使う準備をしたジョーの手元を見つめた私の耳に、影から声が聞こえた。


「魔力注がれてるから、君が操作して大丈夫だよ~」

「え?」

「どうした、シャノン?」


 ジョーに私は首を横に振る。

 どうやらアーチェの声は私にしか聞こえてないみたいだ。


「ジョー、ちょっとそのままにしてて」


 思い切ってジョーの横からパズル画面を触って動かすと、魔法を使うことができた。


「なるほど、支配適性という名の由来はこれですか」


 エリオットが納得し様子で、出現したバスケットボール大の火の玉を見る。


「不思議だ。感じる魔力は確かにジョーのものなのに、今のは明らかにシャノンが魔法を使った」

「お、これ俺でも操作できるぜ?」


 そう言って、ジョーは火の玉を飛ばす。


「シャノン、僕にもやってみてくれるかい」

「えぇ、…………そうだわ。アンディ、私が動かすとおりに魔法を使ってみてくれる?」


 言って、私は魔法文字を書こうとするアンディの手を握る。

 驚いたみたいで体を揺らしたアンディだったけど、その後は普通に魔法の準備をしてくれた。

 そしてアンディの指で書いても、やはり魔法は発動する。しかもバスケットボール大だ。


「あ、やっぱり正しく魔法文字を書くことが大切なのね」


 しかもジョーとアンディのパズル画面を見比べて思ったけれど、パズルの初期配置にある色のついた球が属性の色に偏ってる。

 正直、これなら適当な位置でパズルを消しても魔法は発動すると思う。私は別の属性のパズルも消さなきゃいけないから手間が多いくらいだ。

 これは全属性の私ではわからない発見だった。


「これは僕の魔力だし、僕が描いた魔法文字で、魔力適性の魔法だ…………」


 アンディが水の玉を動かそうとすると、適性の違いから水が円盤のように広がる形で動く。しかも魔力を追加するごとに水は薄いながらも大きく広がっていく。


「二人とも、体に変な所とかはない?」

「魔法自体は大きくなってるのに、魔力の減りはいつもどおりなのが変と言えば変だな」

「魔法文字は効率よく魔法を使うために、魔術言語から編み出された物だ。その効率の良さを最大限にいかしたら、シャノンのような大きな魔法が使えるのかもしれない」

「その水の子が言うとおりだよ~」


 アーチェは私にしか聞こえない声で、アンディの推測を肯定した。

 もしかして、有用性を示そうとしてる?


「どうして私には効率よく魔法文字が書けるのかしら?」


 独り言のふりで聞いてみると、窺うように影からアーチェの顔が出て来た。

 影から生える猫の生首。これもどうやら私にしか見えていないようだ。


「自然に存在する魔法の元を見る力が備わってるから~」


 説明がまぁまぁ適当。

 そんな私の不満に気づいたのか、欠伸をした後にアーチェは続けた。


「どう見えてるかは魔法使いの感性だし~、本人が一番理解しやすいように見えてるはずだよ~。その力があるからこそ、僕を見られるんだ~。昔はもっと見える人多かったけど、ここ三百年は頭打ったりして衝撃を受けないと開眼しない人ばかりなんだよね~」


 ここ三百年っていったいアーチェはいくつ…………じゃなくて。頭打ったらって、あれよね?

 蝶に目を奪われた、あの…………。え、みんな寝込むほど頭打てば見えるようになるの?

 思わずその場の三人を見て、岩の塊を作る魔法文字を書きかける。


「いやいやいや…………」

「お嬢さま、如何なさいました?」

「な、なんでもないの。あ、エリオットもやってみる?」

「…………大変喜ばしいお申し出ですが、それは勤めの終わった後に二人で」


 今は仕事優先で魔法の練習には加わらないつもりらしい。


「なんだよ、自分だけシャノンに長く教わる気か? 立ってるだけなんだし今やれよ」

「そうだね。シャノンの負担を考えると今だけ教わる時間にしたほうがいいだろう」


 ジョーとアンディの棘のある指摘に、エリオットは小馬鹿にするように鼻で笑った。


「いいでしょう。お嬢さまと触れ合う時間の短すぎるあなた方に合わせて差し上げます」


 エリオットが何故か上から目線な発言をする。応じてジョーとアンディも睨むように視線を強めた。

 うわー、火花散らすようなこの空気は何? ちょっと会わない内に何があったの?

 これは…………仲が良くなったって思って流していいのかしら?


次回月曜日更新

次回:シャノンのお友達

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