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4-2

「どこだぁ! 隠れてないで出てこいや!」


 遠くまで逃げられまい。必ず近くに潜んでいる。そう確信し、声を張り上げて探し回る。声に反応して出てきた人間がいたら問答無用で光線を浴びせてやる腹積もりだった。目的の少年少女ならよし、そうでなくても人が傷つく様を見て満足できる。うまくいけば、阻止しようとする少年少女たちを釣り出すことができるかもしれない。

「出てこなきゃどうなるかわからねえぞ!」


「そんなことさせるもんか!」


 男の背後から威勢のいい声があがった。足手まといの方が相手なら、心行くまでいたぶり抜いて遊べる。さっきの借りをまとめて返してやろう。

 そう目論んで振り返った。


「!?」

 少年――一馬のシルエットは変わっていた。上半身が妙に大きい。


「なんだそりゃあ。おんぶか?」

 まるで子供をあやすかのように、一馬の背中にありさが乗りかかっていた。

「はっはっは。こりゃあ傑作だ。赤ん坊をおぶって戦おうってのか。まるで子連れ狼だな」

 子連れ狼は子供を背負って戦っていたわけではないが、機動力において大きなハンデとなるに違いない。


「やっぱり、その、恥ずかしい……」

 ありさの両手は一馬の肩に乗せて前に突き出していて、見た目は間が抜けている。


「気にしてる場合じゃないって。軽いし、当たってるかどうかもわからないし、全然背負ってるって気がしないし……いてっ」


 乙女の琴線に触れたことに気づかない。


「そんな荷物背負ってちゃあ俺と戦えないだろう。置く時間くらいは待っててやるぜ」

「それには及ばないさ。俺たちは二人であんたに勝つ!」


 一馬は駆けた。

 男の光線は最小限の動きで避ける。障害物のない、広い車道では盾になる物はない。男を中心に、円を描くように回った。

「ちっ。おとなしくしやがれ…………ンビィィム!」

 一馬が通り過ぎた後を光線が通過する。


 これがありさの作戦だった。

目からの光線が脅威といっても、目は顔面に固定されている。常に横に移動する一馬を目線で追うことができても、顔の向きが追いつかない。男が光線を発射した位置は数瞬前に一馬が駆け抜けた地点だった。


 もちろん、ただ避けているだけでは戦いに勝つことはできない。一馬は周りを走りながら徐々に半径を狭めていった。


「ちっ。イライラさせるんじゃあねぇぞ!」


 じわじわと近づいてくる二人に痺れを切らして男の方から接近してきた。


「今だ!」

 一馬の合図に、ありさは突き出していた両手から力を発動した。

 両の手から伸びる炎は、さながら火炎放射機。その炎は攻撃のためのものではない。


「むわっ! 見えねえ!」

 炎の光と熱で、男の目から一馬の姿を隠す。

 煙幕ならぬ炎幕。

 炎の放射は一瞬で男の体に当たってない。すぐに男の視界は晴れる。


「姑息な手を……!?」

 そこにはありさが立っているだけ。もうひとりは?


「こっちだぜ」

 声に反応して男が振り向く。

 その顔面に、渾身の右ストレートをたたき込んだ。

「ぐはっ」

 短く声を漏らし、吹っ飛んだ。


 その先に待っていたありさが男の体を取り押さえ、その目に彼女が首に巻いていたスカーフを括り付ける。これで男は完全に無力化した。


「ちょっと……やりすぎた?」

 男は抵抗する素振りを見せず、手足をビクビク動かしているだけ。気を失ったようだ。


「暴れられるよりもいいよ。それより、ご苦労様。怪我はない?」

「殴った手が痛いけど、それ以外は何ともない。ありさの方こそ大丈夫か?」

「うん。目は一時的なものだろうから、すぐに問題なくなるよ」


 後は、ありさが呼んだ『互助会』の人間に男を引き渡せば一件落着。

 かえでの手がかりを探すための一日目からこんな戦いになろうとは、思ってもみなかった。


 と、戦いの緊張から解かれたところで当初の目的を思い出した。

「なあ、こいつから逃げ回っていれば、正義の味方とやらが来てくれたんじゃないか?」

「あ」

 目の前の脅威に対処することばかりに気が行っていて、二人とも正義の味方の噂を検証することを失念していた。


「……でも、私たちで取り押さえなかったら被害が大きくなってたかもしれないよ」

 それはありさの言う通りだった。しかし、そのためにありさはぼろぼろになった。小さな体に合わない姿を見て、一馬の心はもやもやとする。


「……今度は俺が守れるようになれればいいんだけど」

「うん。楽しみにしてるね」

 知らず口に出ていたようで、ありさに聞かれていた。


 ごまかすためにありさの頭をわしゃわしゃと撫で回す。

 ありさはされるがままだった。

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