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話が終わり、部活があるからと玉滝は先に出ていった。
「一馬、先月頃にかえでさんが怪我や病気にかかったことは? それも冷たいもの関係で」
「それはもう、ひとつしか思い浮かばない。雪山で遭難したことだ」
家族で行ったスキー旅行で、吹雪の中かえでが遭難した。物を凍らせる“ファントムペイン”ならば、原因はそれ以外に考えつかない。
「多分、“発症”した時の不安な心が正義に走らせたんだろうね」
「玉滝さんの話に出てきた女の人、誘われたって言ってたよな。その人に話を聞けば何かわかるんじゃないか?」
「あの日に金畑ゴールデンホテルにいた“発症者”はみんなもれなく錯乱状態にあるそうだよ。元々いろんな意味でヤバそうな“発症者”が集められたみたいで、話ができるまで回復するのにまだ時間がかかるって」
「うーん。じゃあ怪しさバツグンの黒ローブを探すしかないのか」
外から野球部の張り上げた声が聞こえてくる。窓から差す西日が放課後の教室をオレンジ色に染めあげた。
そろそろ帰ろうと空き教室から出ようとする。
手をかける直前、扉が開いた。
「まだ残っていたのか。こんなところで何をやっている?」
一馬の担任、烏丸だった。
「ちょっと話をしてただけですよ。もう帰ります」
「そうか。逢い引きもほどほどにしておけよ、衛藤」
黒いサングラスの奥がきらりと光る。
へえ、と返事を返し、烏丸の脇を通ってありさとともに教室を出る。
どうにも、最近一馬はこの先生を見ると調子が狂う。サングラスが怖いのかもしれない。
「おい、衛藤」
呼び止められた。
「お前、夜に外出して遊んでないだろうな?」
心臓が止まる思いだった。
何故そんなことを聞くのか、真意を測りかねる。
「そんなわけ……ないじゃないですか。夜は家で宿題やってますよ。まだ宿題忘れ、ないでしょ?」
そう返すだけで精一杯。
サングラス越しの目は一馬を居抜き、全てを見透かしているかのよう。
「なら、いいんだ。最近危ない人物が多いようでな。昨夜にも喧嘩があったらしい。お前たちも巻き込まれないよう、暗くなったら外に出ないことだ」
そう言うときびすを返し、去っていった。
その背中を見送り、完全に見えなくなってから大きく息を吐いた。
「ふう、危なかった。どうもあの先生は苦手だな。ありさ、帰ろうぜ」
「ねえ、一馬。あの先生って前からこの学校にいたの?」
「いや、今年になって赴任してきたんだ。前は別の学校にいたんだって」
「そう……」
ありさはずっと烏丸が消えた方向を見ている。
「どうかしたか?」
「……何でもない。さ、帰ろっか」
視線をはずすと、さっさと歩きだしてしまう。一馬はその後を追いかけた。




