迷惑な親子喧嘩
「私達の能力はどうしたら分かるんですか?」
「実際に発動させてみないと分からないな。表面的に出て分かりやすい能力や、ただ五感の中の一つが凄まじく良いといったしょうもない上に分かりづらい能力まであるから、気づかずに能力を使っていた例もあるからな。新世代に関しては、まだまだ研究中と言うしかない。他に気になることはあるか?」
めっちゃ気になるんだが僕って何男だ?百男か?二百男か?それとも千男か?
「僕達の兄と姉は何人いるんだ?」
「あ、それアタシも気になった。アタシもお兄ちゃんやお姉ちゃんがたくさんいるってことでしょ?」
おお、やっぱり輪名も気になってたんだ。
「さぁな、全員の顔と名前は覚えてるが人数までは数えてないな。中には、数万年会ってないやつもいるし・・・・まあ百は超えてるな。必要なら数えれるが数えてると面倒だ」
この父は年齢といい、子供の数といい数えるのが苦手なのか?それとも数億年も生きてるとその辺がだいぶルーズになるんだろうか。
まだ見ぬ兄さんに姉さん、この父をどう思っているのですか?僕は尊敬できますが、もう少し周りに興味を持って欲しいと思います。
だめか。父さんって元々ボッチらしいから。
「そんな感じで家族で楽しく暮らしていたある日、新世代の一部の者達が他の世界を侵略しようと提案してきた」
急展開すぎる。そんな提案出る生活なんて絶対に楽しくないだろ。
父さんの感覚って時々ずれてるよな。仕方ないか元々ボッチらしいから。
「侵略?何で?」
「自分達の力に溺れたんだ。自分で言うのもなんだが私の魔力量は放浪者一だった。そんな膨大な魔力量を遺伝した上に普通の放浪者が持ってない特殊能力、新世代ともてはやされたことから、自分達は選ばれた者だと自分達の力を過信するようになっていった。新世代ではない放浪者の中にも奴らに賛同する者達がちらほらと現れ始めて私達は二つの勢力に分裂した。異世界にはなるべく干渉せずに行こうと主張する私達と、力を持って異世界を侵略すべきと主張する新世代達を筆頭とした放浪者の集団。両者の主張はぶつかるばかり、いつしか彼等は私達の元から去っていった。私は去っていった子供達が何をするのか不安でたまらなかったが、何があっても私自身の手で食い止めようと誓った。
縁、輪名、お前達の兄である長男、狩矢の能力は『無限魔力』その名の通り狩矢の魔力は尽きることが無い恐ろしい力だ。なんの策も無しにぶつかれば私でも勝つことができるか分からない。あいつはその力で兄弟達のリーダー格になった。あいつが動けば冗談抜きで世界の一つや二つ滅びてしまうだろう。
私とこちらに残った新世代の息子、娘、放浪者の仲間達皆で手分けして他の世界に警告していった。狩矢の狙いそうな世界を中心にだ。伊達に親はしてなかったからな、狩矢の狙いそうな世界はある程度予想ができた。しばらくして戦いが始まった。幸いと言っていいか分からないが、予想が当たって一番警戒していて戦力を集中させていた世界を奴らは襲ってきた。
私はその世界で『英雄』と呼ばれる人物と共に戦っていた。しっかり準備したお陰で戦況は私達に有利だった。だが当然味方にも倒れる者がいた。その中に英雄もいた。
彼が倒れた瞬間・・・・・・・・・・・世界が壊れた。周りの風景が、ガラスのように割れていった。そしてそこには、私達以外何も残らなかった」
世界が壊れた・・・本当にそんな事が起こるのだろうか。もしそうなら壊れた世界の人々はどうなったんだ?世界もろとも壊れてしまったのか。
父さんはその時のことが余程恐ろしかったのか、少し青ざめていた。
「世界が壊れたことは、両陣営でイレギュラーな事態だった。それぞれが困惑しながらも、自分達の本拠地に戻り私達は今回の現象について話し合った。研究した過程で初めて世界が壊れたことを知った。
さっきの箱の話を思い出してくれ。世界が入ってる箱がいくつも浮かんでいるが、箱は密集している訳ではない。箱の外側は『無』だ。壊れた世界はまるで窓ガラスを割ったように無の空間に落ちていた。原理が分からないから世界を修復しようとしてもできない。そもそも修復できるものかも分からない。
私達が壊れた世界を調査している隙に狩矢が別の世界を襲った。私達が駆けつけた頃、狩矢達はその世界で神と敬われている偉人を手にかけようとしていた。私達はあと一歩間に合わなかった。狩矢がその人を殺した瞬間、また世界は壊れた。
そこからしばらく襲撃と応戦、そして世界の崩壊が続いた。その頃私達は、世界の崩壊が起こる時について調べてると、世界が崩壊する時、必ずその世界で重要な立場、役割の人が殺された事が分かった。しかもただ重要なだけじゃない。勇者、賢者、賢王、大国の将軍、その世界の希望になるような人々、所謂主役ってやつだな。そんな人が殺された時だけ世界が壊れたんだ。
狩矢達もちょうど同じ頃にそのことに気がついていた。世界を侵略するのにその世界を破壊しては本末転倒だからな。必然的に襲撃も無くなった。だが奴らは恐ろしいことに世界の希望となる可能性を持つ人々を全て自分の支配下に入れて、それ以外の自分達に逆らう者達とだけ戦おうとした。次男の春馬の能力は『絶対洗脳』、この作戦にうってつけの能力だったから流石に私でも気づいた。それから世界を壊さない程度の戦いが長く続いた。最終的に相手の手札を知り尽くしている上、年の功のもあった私達が勝利し狩矢達はどこかの世界へ逃げていった。
戦いが始まってどれくらいの時が流れたのか分からない。だがやっと戦いは終わった。
でも、その代償は大きかった。崩壊こそしなかったが歴史が大きく変わってしまい、大きな歪みができ、かろうじて崩壊せず世界を維持しているような危険な世界が多くできた。
問題は『歪み』だ。歪みは他の世界の歪みと繋がってしまい、本来私達しかできない世界渡りと似たような現象が自然災害のように起こり始めた。それはこの世界でも同様だ。神隠し、UMA、UFO、妖怪、全て歪みによってこの世界から連れ去られたり、逆に無理矢理こちらの世界に連れてこられた者達だ。
・・・・・これが我々放浪者の歴史だ。さて、前置きも終わったしこの組織の目的を話そう」
父さんは、一拍おいて口を開いた。
「私達の目的は三つ、一つ目は失踪した狩矢達を探し出すこと、二つ目は歪みによって世界を渡ってしまった者達を元の世界に帰すこと、三つ目は歴史を変えられた世界を歪みが無くなる程度まで歴史を変え直して歪みそのものを無くすことだ。
だが世界は数え切れないくらいある。今も同胞達が様々な世界に散らばって活動しているが、如何せん人手不足だ。それに狩矢の動向に至ってはほとんどつかめていない。
お前達は平日はこの世界で訓練とこの世界に渡ってきた者達の対処をしてもらい、週末は歪みを消す任務についてもらいたい。補足だが任務完了後は世界渡りした直後の時間に時間魔法で戻って記憶魔法で渡る直前のことを思い出せば日常生活に支障はない。以上だ」