異世界キタァ!
僕が立っていたのは森の中だった。森の木は全て背の高い針葉樹ばかりだ。中学校で習ったぞ、こんな森林を針葉樹林って言うんだ。
ここ、テストに出ますよ。
なーんてバカな事してる場合じゃないよ。ドコここ?さっきまで父さんと話していた部屋はどこへ行ったんだ。
イカン、頭がクラクラする。
「・・・・・ここは、どこだ」
「縁君大丈夫?ふらついてるみたいだけど」
「ごめん、大丈夫少し頭がクラっとした」
「きっと転移酔いね。最初の頃は皆なる症状だから少し休んだらすぐに治るわ」
そう言って鈴音は僕に肩を貸してくれた。
なんちゅうええ子や、それに比べて廻理花と輪名は僕なんて目もくれずに辺りを興味深そうにきょろきょろと見ている。
なんちゅう薄情な奴らだ。
「何よ、ただの転移魔法じゃないの。これなら私達にもできるわ」
「これがただの転移魔法だと思うのならまだまだだな。今は黙って付いて来い。森を抜けるぞ」
そう言って父さんは歩き始めた。
しかしここは森の中でもかなり深い場所なはずだ。だって周りを見渡すと木、空を見ると枝、緑と茶色しか見えない。
父さんはなんでそんなに迷いなく歩けるんだ?不思議だ。
まあ、そんな訳でここから歩いて出るのには時間がかかりそうだ。
よしっ、その間に父さんにいろいろ聞いてみよう。そうと決まれば、現場の縁さ~ん。
はーいこちら現場の縁でーす。ただいま父さんですがきょろきょろしてる三人娘をほっといて歩き始めました。早速気になるあれこれを聞いてみましょう。
・・・・こんなくだらない茶番するくらいまで疲れてるのか僕は。
「なぁ父さん」
「なんだ?」
「母さんと出会ったのって人類誕生の頃なんだろう?だったらそれまでの間、父さんは誰かと付き合ってたり結婚してた時はなかったのか?」
そう、正直種族のことを聞いたときにこれが一番気になってたんだ。
もしかしたら義理の兄や姉がいるのかもしれない。ドキドキ。
「美麗さんの前か・・・いや、居ないな。それまで割と忙しかったし、あまりいいと思える女も居なかったしな。うん、美麗さんが初恋だったな」
初恋遅くない?そんな言葉が喉まで出かかってたけど我慢して飲み込んだ。どんだけ女っ気無かったんだよ。
てか少し怪しい間があったけど、え?いないよね?隠してるとか無いよね?別に居たからどうってことは無いけど心の準備ってもんがあるんだよ。
「いや初めて美麗さんを見たときはマジで体に電流が走ったかと思ったよ。お前もわかるだろ?あの美しさまさに神の領域だ。はっ!てことは私は神に愛されし男・・・神よ!私は貴方様に感謝します!」
・・・・・まあ信仰なんて人それぞれだよな。
でも母さんが綺麗なのは認めるけどそこまで言うか。昔から父さんは母さんの話になるとこんな調子なんだよな。結婚数万年の熟年夫婦の癖に未だに新婚さながらの仲の良さだ。夫婦円満の秘訣を聞きたいってこの態度が答えのようなもんか。
しっかし不老不死か、年齢が止まるのは分かったけど戸籍やら色々どうしてるんだろう。
あれ?そういえば父さんの名前知らないな、母さんは美麗だろ?あれ?それに名字の次元ってもしかして。
「なぁ父さん、母さんの名前つけたのって・・・」
「私だ」
「へ、へぇー・・・じゃあ次元って名字も」
「私だ」
「父さんの名前は」
「無い。あだ名くらいはいくつもあるがな」
父親の名付けがまんまな件について。
そのくせ、自分には名前つけてないってなんぞや!
吾輩は父である。名前はまだ無いってか?
そんなこんなで歩いてると森の木々が少しずつ少なくなって外の景色が見えてきた。
「そろそろ森を抜けるぞ」
森を出ると僕の視界いっぱいにピンク色の夜空が見えた。
そう、青じゃないピンクだ。夕暮れはどちらかと言うとオレンジだけど、この空はまっピンクだ。
そんなピンク色の空を僕が夜空だと判断した理由、それは月があったからだ。そんな月も青、緑、黄の三つ星ならぬ三つ月だ。
あっ、鳥が飛んでる・・・・チガウ、ドラゴンダー。ワー、スゴーイ。
「ようこそ異世界へ」
そんな声が聞こえた気がしたけど僕達は目の前の幻想的な景色にくぎ付けだった。
そこは、絵に描いたような異世界だった。