キリャクの決意
キリャクが自身の物語を語り終え、深くため息をついた。
「キリャク、あんたは優しい人だ。普通だったら戦争だからと割り切ってるぞ。あんたが優しいからこその苦悩だ。むしろ誇ってもいいくらいだと僕は思う」
僕がそう言うと、キリャクは少し驚いたような顔をして大きな声で笑い始めた。
「はっはっは。誇っていいですか。そんな励まし方初めてですよ」
「そうかな?」
一応本気で言ったつもりだけど。
一通り笑った後、キリャクはすっと真面目な顔になった。
「僕はまた、戦うことになるんですね。人と」
「……半分ハズレで半分正解かな。心配しなさんな。あなたはちゃんと戦える。僕が保証しよう」
この世界の歪みを治すために必要な事象。それはミグルア帝国との戦いでキリャクが軍の総指揮を取って勝利する事。
帝国との戦いになる前に件の、血桜六人衆の内三人が刺客として来て妨害してくるだろう。
僕のしなければならない事はそれの撃退。
幸いなのは奴らは脳筋さんの様なので搦手を警戒する必要が無いということだ。
「そうですか……事前に分かっただけでもある程度覚悟を決められます。教えてくれてありがとう」
少し青い顔をしながらもキリャクの瞳の奥には深い覚悟を決めた光があった。
これなら大丈夫だ。正しい事象通りに見事軍を操ってくれるだろう。
「そうだ。王城に行くと今日から将軍を危険視した関係各所から暗殺者が来るから気をつけようね」
「え?ちょ待って。僕は暗殺者を撃退できるほど察知能力は高くないのですが……」
「まあまあ。僕がなんとかするから安心して」
僕の言葉にキリャクはほっと息をついた。
「あ、でも三人ほど僕の同胞が混じってるからそのときは覚悟を決めてね」
「ちょ、詳しく教えてくださいよ!そんなこと言われたら夜もおちおち寝られないじゃないですか」
安心しきった顔から恐怖を浮かべる。なんか面白い。
「はっはっは」
馬車が僕の笑い声とキリャクの悲鳴も運んでゆく。
こんな時でも何も言わない御者さんはプロの鏡だった。