父親はまともらしい
教会があった町は、王都から馬車で数時間の距離にあるらしい。
近いからこそキリャクも、この街に協会を建てようと選んだんだろう。
そしていま僕は、王都に向かう馬車の中で、キリャクと対面していた。
馬車って、初めて乗ったけど思ってたより乗り心地が悪い。普通の人だとすぐゲロゲロしそうだ。
「改めて、僕の子どもたちを助けてくれてありがとうございます。あのバカにはこちらも頭を悩ませていたところです」
「問題児だったら首輪つけて、豚小屋にでも入れておけばよかったんじゃないの?」
今回のが初犯じゃなかったのなら、何かしらの罰を与えられたことがあってしかるべきだ。
懲りないのかな?
「彼の父のグライツ男爵は、少々特殊な方で本来ならば伯爵になれるほどの功を挙げたのですが、その時死んだ部下にその功をほとんど譲って男爵止まりになったという経緯があるので、発言力は普通の男爵とは一線を画すのですよ。あのバカ息子はそのことを知ってるから好き勝手してるんですよ」
「聞いた限りだと、親はまともなんだろ?再教育しなかったのかい?」
「小賢しいことに、証拠を残さずにやらかしてたので噂止まりで、男爵の耳に入ってこなかったんですよ。噂なんかで貴族の子息を調査できるでもなく……」
あのブタはそんな頭が回るようには見えなかったけどなあ。
きっと優秀な部下がいたんだな。
「つまり今回は確固たる証拠がある訳だ。良かったじゃないか」
「ええ、僕が現場を押さえましたからね。その件で君も証言をお願いします」
「そのくらいならいいよ」
それからしばらく僕たちは無言で馬車に揺られる。
無理ぃ。乗り物の中で無言の時間は耐えられない。
「ところでさあ。キリャクは何で教会を建てて孤児院の真似事をしているんだ?」
僕の質問に何かスイッチが入ったのか、少し沈んだ表情になり、彼の過去の話を語りだした。