アニキとの出会い
「兄ちゃん、ちょっと待ってよー」
「はぁ、ロブはほんとにトロいよなぁ。ほら手貸してやるから早く来いよ」
俺はリュカ。10歳だ。そして息を切らして俺についてくるのは弟のロブ。
兄弟と言っても血は繋がってない。俺たちは孤児なんだ。
先生が作った教会を兼ねた孤児院で俺たちは育てられている。
戦争で親が死んだ奴、親に捨てられた奴、親から逃げてきた奴と理由は沢山あるが、俺とロブは2番目の理由だ。
だけど俺たちは運がいいほうだ。教会に保護されたお陰で先生のつてを使って、将来は真っ当な職につける。
普通だったらスラムとかで似たような境遇のやつと徒党を組んでその日その日を暮らしていくのがやっとだって先生が言っていた。
年長組は年少組の世話をしないといけないが、俺たちは教会にいる孤児の中では真ん中くらいの歳で勉強してない時は結構暇だ。
何もすることが無いから森で何か食い物でも見つけようと、俺とロブは森に来た。
俺たちが食べ物を探さないといけないほど教会はビンボーじゃないけどお金は節約したほうがいいと思ったからだ。
少し冒険してるみたいで楽しいし。
「兄ちゃん、危ないよぉ。この辺は魔獣が出るから行くなって先生が言ってたよぉ」
「ばーか。それはもっと奥に行ったらの話だろ。このへんは強くてもうさぎの魔獣しか出てこないよ。うさぎの魔獣は大人しいからこっちから手を出さない限り大丈夫」
先生は世の中にはフラグと言う不思議な現象があると言っていた。
俺はそのフラグっていうのを立てたみたいだ。
なぜなら……
ガサガサッ!
「ヒィッ!兄ちゃん、今あそこの草むらが」
「しっ、喋るな。あの音うさぎじゃない。見つかったら食べられちゃうぞ」
「う、うん」
いざとなったらロブだけでも逃さないと。俺が囮になるしかない。
草をかき分け、枝を踏み折る音がどんどん近づいてくるにつれて、俺とロブの心臓は早金を打つ。
そして音の主が姿を表した。
大きな熊の魔獣。俺が囮にすらなれない。一瞬で捕まって食べられてしまう。
「グオオオ!」
もう駄目だ!目をつむるけど何も起きない。ひょっとしてもう死んじゃったのか?
目を開けると魔獣の腕を掴んで止めてる男の人が立っていた。
新しく現れた獲物に魔獣は舌なめずりをする。
「仮にも獣なら野生の本能で己との力量差くらい分かれよ……」
「何言ってんだよ!早く逃げないと!」
意味の分からないこと言ってる場合じゃないだろ。目の前の脅威がわからないのか?
「あぁ大丈夫だよ……ほら、もう倒した」
「は……?」
気がついたら男の人が抜いたレイピアに首を切られた魔獣がドドン!と、大きな音を立てて倒れていた。
柄に手をかけたところしか見えない早業だった。
「すっげぇ。どうやったんだ?」
「無駄な動きを削ればこれくらいできるさ。それより大丈夫?」
心配そうに聞いてれる顔を見ると、ロブは緊張が切れて大声で泣き始めた。
「あーよしよし。もう大丈夫……君がお兄ちゃんかな?家まで送っていくから案内してくれるかい?」
ヨイショとロブを抱き上げて、背中をさすりながら俺に言ってきた。
見続けると落ち着いた気持ちになる不思議な人だった。
さっきの剣技を見なかったらどこかの国の文官でもしてそうな。
「こ、こっちだよアニキ」
「アニキ?」
思わずそう呼んでしまった。