Chapter8 僕たちの過去
僕らは十六年前、ヨルムンガンド王家に双子の兄妹として生まれた。
父上は数多くの侵略戦争や政務に明け暮れた忙しい日々を送っていたし、母上も毎晩舞踏会を開いたり、昼間でもお茶会や贅沢な遊びなんかをしたりしていた。
誰も僕たちの世話をする者はいなかった。
それどころかあからさまな虐待はなかったものの、僕たちは父上からも母上からも仕事や遊びの邪魔だと虐げられ、使用人達からも厄介者扱いされていた。
だから、せめて妹の世話は僕がしてあげようと幼い頃の僕は頑張った。
妹に勉強を教えたり(ちなみに僕は独学で頑張った)、遊んであげたりする日々を送っていた。
その一方で、僕はいつしかMSAに興味を持つようになり、宰相のDr.ウロボロスに弟子入りした。
僕がMSAの勉強を始めていくと同時に、ブルーに付き合う時間も次第に減っていった。
思えばあの時からだろうか。ブルーが僕に執着するようになったのは。
まあ無理もないだろう。
父上も母上も使用人達すら僕らに構ってくれやしなかった。
構ってくれるのが僕だけだったのだから、僕が彼女と一緒にいる時間が減るほど、彼女は僕に甘えてくることが多くなった。
そんなある日のこと、僕はウロボロスの研究室にあった装置をつい好奇心でいじってしまい、誤って爆発事故を起こしてしまった。
その結果、僕は左腕の前腕部を失うことになってしまった。まあ犠牲がこれだけだったのが唯一の救いか。
流石に父上と母上もこの事態を無視することはできなかったのか、僕を長期間入院させ、ウロボロスの研究室も城の地下に移させた。
両親はブルーを連れて何度かお見舞いに来てくれていたが、ブルーはその度に自分も病院にずっといたいとワガママを言いだし、僕と両親がなんとか説得して両親がブルーを引き摺って帰るのが定番になっていた。
また、入院している間にウロボロスは僕のために新たな腕となる、つまり僕が今まで装備している義手を作っていたらしく、退院の日に両親が退院祝いの品として僕にこれを渡してくれた。
退院後、ブルーは泣きながら僕に抱きついてきた。
「お兄ちゃんっ…!! あたし、お兄ちゃんが入院している間ずっと寂しかったんだよ…。うわああああああああああん…!」
僕は彼女を落ち着かせようと、強く抱きしめた。
「ごめんね、ブルー。今まで心配させて…。」
しかし、ブルーはなかなか泣き止まず、なだめた頃にはすでに日が暮れていた。
この時、やはりブルーにはいろいろな面で僕が必要なのだと今ここで痛感した。
それからしばらくは、僕は妹といつもの日常を過ごしていたが、僕が十二歳になった時に、転機が訪れた。
僕は再び、MSAを学ぶことを許されたのであった。
今までは魔法や科学に関する知識からMSAを用いて魔法機械を作ることまでは学んではいたが、前述の事故のせいで魔法やMSAを用いた戦闘術などについてはまだ学んではいなかった。
僕が修行に身を置くようになると、ブルーと過ごす時間はまた短くなっていった。
以前彼女には僕が必要だと痛感した時もあったが、この時は彼女のためにも兄離れしてもらおうと思っていたし、それでいいやと思っていた。
そして僕が十四歳になった頃、僕はこの国が終わっていると感じるようになった。
修行のついでに国内情勢についての情報をパソコンで調べるようになり、この国全体を見渡せる広い視野もついてきてきたことだったからだ。
どうやら父上は私利私欲で政治を行っているらしく、それが原因で国民のほとんどはいつまでも貧しいままで、貴族や僧侶、成金などはでかい顔して威張り続けているらしい。
このままではいつ革命が起きてもおかしくない。それだけは避けたかった。
そこで僕は非行に走ることにした。
でかい顔で威張り散らしている腐った連中から金品を巻き上げ、それを貧しい人たちに分け与えて生活の手助けをしてやればいい。
そう。
怪盗ヴァルキリーの誕生である。
僕は十四歳の誕生日の夜にこっそり城を抜け出し、怪盗ヴァルキリーとして一人で生きていくことにした。
唯一妹のことが心配であったが、彼女ももう十四だ。もう兄離れしてもいい年頃である。これこそ、この国にとっても、また妹の成長にとっても最善の考えだと思っていた。
その後、二年間にわたって僕は主に夜の都で暗躍しながら特権階級や金持ちから金や豪華な美術品などを盗み出し、盗んだ美術品や宝石などをTamazonで売りさばいて手に入れた資金やそのまま盗んで手に入れた金を貧しい人たちに分け与えて生活を支援していた。
たまに邪魔な衛兵や貴族の護衛なんかに追われることもあるが、仕事の邪魔になるような連中は取り敢えず魔法で撃退したり、あまりにしつこい場合は斬って捨てた(それか爆弾をプレゼントしてやってる)。
はっきり言って僕はどこかのござる口調で喋る明治のるろうニートみたいなお人好しではなかったので、邪魔な人間を殺めることには何の抵抗感もなかった。
中には街の人たちが宝物としていた美術品を貴族が盗んでコレクションにしていた例もあったため、その場合は盗み返してこっそり街の人たちに返してあげた。
昼間はこの容姿を生かしてメイド喫茶でバイトしながら自分の生活資金を稼いでいた。
バイトの際には客を怖がらせないように義手には猫やうさぎなど様々な動物のパペットをつけて魔法で動かしていた。
この時ばかりはこの義手が不便に感じることもあった。
ちなみに喫茶店のマスターには他言無用で自分が怪盗ヴァルキリーだということを教え、怪盗稼業で得た資金の分配は彼に依頼していた。
今思えばマスターが気前のいい人で助かったと思っている。
おかげで国民の不満もある程度解消されたし、いつの間にか僕は指名手配犯にもかかわらず国民からの人気を集めてしまっていた。
ただ僕は趣味のゲーム(因みにハマってるのは太鼓の徹人とかパケモン、東萌その他諸々)やアニメ、カラオケ(歌うのは大抵アニソンとかボキャロ)などに使う金が多かったからアジトはいつまでたってもボロ家だったし、服も同じようなものしかなかったし、食事も毎日ニッチンのキャップヌードルで済ましていたんだけどね。
今見るとすっごい不健康な生活してるんだなぁ〜僕って(笑)。
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その時、ブルーがシグに向かって飛びつき、押し倒してきた。
「お、お兄ちゃぁぁぁん!! なんで今まで二年間もどこかへ行ってしまったの!? もう二回目だよあたしがこんな寂しい目にあったのは! この二年間あたしはお兄ちゃんが早く戻ることとお兄ちゃんに他の女が寄り付かないように願っていたの! もう二度と何処へも行かないでお願いっ…!」
ブルーは大泣きしながら顔をシグの胸に押し付けた。
シグは今何か聞き捨てならないことを聞いたような気がしたが、また自分が妹に寂しい思いをさせてしまっていたのかと思うと後悔で胸がいっぱいになった。
そして妹の兄離れに関してはしばらく考えないようにしようと心に決めたのだった。
「わかったよ…。もうお兄ちゃんはどこへも行ったりしない。約束する。」
「本当…? 嘘じゃない…?」
「ああ、本当だ。」
そう言うと、ブルーは泣き止んで
「ふふっ、お兄ちゃん大好き♥」
と言って微笑んでみせる。
そして見知らぬ少女と青年の方を死んだ魚のような目で見ると、
「ところでお兄ちゃん、この二人は誰? お兄ちゃんとはどういう関係?」
と尋ねてきた。
「あ、自己紹介がまだだったわね。私はナイトメア辺境伯の吸血鬼レミリィ・ヴランドール=ツェペシュ・ナイトメアよ。シグとは去年のハロウィーンにいろいろあってね。それで今はこいつの仲間になってるってわけ。気軽にレミリィって呼んでくれていいわよ。」
「俺は咲魔・ルナムーン=ナイト・ダンピール。『お嬢様』の執事をしている。種族は人間と吸血鬼のハーフだ。」
「君たち王族相手にタメ口って中々度胸あるね…。(呆れ)」
「まあこれくらいの度胸がなければ吸血鬼などやってられないからな。」
「そうか。あ、因みにレミリィはおとk」
シグが何か言おうとした時、レミリィは慌てて彼の口を塞いだ。
「あはは、今のは何でもないからね!? ヒソヒソ(おい、これ以上言うとあんたの血全部吸いまくってやるわよ)」
「あ、うんッ! わかったからそれはやめてっ!?」
シグはレミリィに何か耳打ちされビクついた後、レミリィの手が口元から離れたと同時にホッとため息をついた。
そして二人の自己紹介を聞き終えたブルーは、
「ふーん、まぁとりあえずわかったのじゃ。後二人とも、これだけは忘れるでないぞ? 妾のお兄ちゃんを誑かそうとしたら二人ともギロチン送りにしてやるのじゃ。 いくら吸血鬼とはいえ首を落とされれば生きては行けまい。」
と、彼らに警告した。
「「は、はいっ! わかりました王女様……。」」
その言葉と彼女の雰囲気からは得体の知れぬ恐ろしさが漂っており、思わずブルーに対しビクついて敬語を使ってしまうレミリィと咲魔であった。
しばらく歩くと、王都への入口が見えてきた。
「やった、もうすぐだ!」
「これでやっと人間に戻れるのね!」
一行が王都の門に向かって走り出すと、後ろから何者かに呼び止められる。
「おや、皆さん。なんかオマケが二人ついてますががやっと見つけましたよ。さあ、こちらへ来ていただきましょうか。ご主人がお待ちかねです。」
恐る恐る後ろを振り向く。
そこには夜色の髪にピンクの宝石のような瞳の背中に黒い翼を生やした可愛らしいゴスロリ少女が立っていた。
Dr.ウロボロスの使い魔、サナであった。
ブルーは慌ててシグの後ろに隠れる。
「なんだお前、僕たちに何か用か? 生憎こちらは忙しいんでね、後にしてもらえるか? それよりもこいつを人間に戻す薬がどこにあるか知らないか?」
「その薬ならご主人の研究室にあります。ですが、渡すわけにはいきません。それよりもそこにいる羊を渡してくれませんか? そうすれば貴方を見逃してもよろしいのですが。」
「そうか…だが、断る!」
そう言ってシグは愛刀『グラム』を鞘から抜いた。
「どうやらやるしかないみたいね。おいで、『カラビニエリ』!」
「やむ終えんな。ここは力ずくでも通らせてもらう!」
レミリィはカービンライフル銃を右手に出現させ、咲魔は二丁のガンブレードを懐から取り出した。
「はぁ、仕方ありませんね。3対1では不利ですしあまり気乗りしませんが貴方達がやるというのならこちらもそのようにさせていただきます。おいでなさい! 『グンニグル』!」
サナトゥスがそう叫ぶと、彼女の右手に赤く輝くトライデントのような槍が現れた。
シグ&レミリィ&咲魔VSサナ、戦が始まろうとしたその時、
ギシャァァァァーン…………!
そんな鳴き声を出しながら、漆黒に染まる鎧のようなボディをまとった背丈三メートルもあろうかという大きな鳥人間のようなが二人の間に降り立った。
「サ、サナ、これは一体なんなんだっ…!」
「わ、私に聞かれても…。」
次の瞬間、それは一瞬にして4人を鉄の拳で弾き飛ばした。
「グフッ…!」
「ガハッ…!」
「ゲホッ…!」
「グハッ…!」
突き飛ばされた4人は腹に食い込むほどのパンチを食らって、立てずにいた。
「だ、大丈夫ッ!? お兄ちゃん!?」
「クッ、なんなんだあれはっ…!」
「私が開発した戦闘兵器、『フレースヴェルグ』さ…。」
声のした方を見ると、馬車から降りたウロボロスがこちらを見下ろしていた。
「『フレースヴェルグ』の戦闘力はいかがだったかな? 怪盗ヴァルキリー…いや、シグルス・ヴァルキューレ・ヨルムンガンド王子、私の元弟子よ…。」
「あんたは…Dr.ウロボロス…!」
「今はウロボロス陛下と呼んでほしいな、私がこの国の皇帝となったのだからな!」
「違う! そいつは偽物の皇帝じゃ! 妾がこの国の正当な王女なのじゃ!」
ブルーが必死に自分が王女だと訴えるも、周りの兵士たちは全く訳が分からないという状態であった。
「そ、そんなぁ…。」
「ふん、お前がどう言ったところでこいつらには通じるはずもないわ! 奴らは今のお前のことをただの羊程度にしか思っていないからな。さぁ、そこの怪盗と羊とその連れ二人をひっ捕らえろ!」
『了解です! 閣下…ではなく皇帝陛下!』
「違う! だからそいつは偽物の皇帝じゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
しかし、ブルーの訴えが兵士たちに届く訳もなく、ウロボロスが命令すると、4人はすぐさま衛兵に取り囲まれ、牢屋に閉じ込められてしまった。
ちなみにその日の夕方、
「あれ? 私はどうしてここで寝ているのでしょう? 確か怪盗ヴァルキリーたちと戦いそうになった時に突然空から変な鳥人間みたいなのが降りてきて私たちに腹パンしてきて…。……って、こうしてる場合じゃないです! 早く城に戻らないとご主人に怒られてしまいます!」
そう言って起き上がったサナは急いで城に戻っていった。
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