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現代的な異世界での世にもカオスな冒険譚  作者: 死ノ宮 華婪
第1部 妾こそこの異世界王国のプリンセスにふさわしいのじゃ!
7/9

Chapter7 助っ人、現る。

 城への旅を始めた一人と一頭(元人間だが)であったが、羊になってもお姫様気取りのブルーとボロいアジトで質素な生活をしてきた怪盗ヴァルキリーは当然馬が合うわけがなかった。


「なぜ妾がそんなお粗末なものを食わねばならんのじゃ! 妾は城の豪華な料理やお菓子じゃないと嫌なのじゃ!」

「いい加減にしろ! そんなワガママ言ってる場合じゃないだろ!」

とか

「妾は王女なのじゃ偉いのじゃ! お主にはそれがわからんのか!」

「そんな格好でよく言えるな! お前の国は今乗っ取られているじゃないか! しかも実の家臣に! いい加減現実を見るんだ!」

「うぅ…。」

という風な感じで喧嘩ばかりしながら旅をしていた。


 とはいえ幸いあの後はスライムやゴブリン、オーク程度しか行く手に立ちはだかるモンスターは出てこなかったので、一日のうちにこの広大な森から抜け出すことができた。






 旅を始めて一日経った日のことである。

 森の出口付近で野宿した後、一行は吊橋の前に行き着いた。


「で、どうするのじゃ? この橋を渡るというのか?」

「それしかないだろ。城に戻りたいんじゃないのか?」

「妾は怖いのは嫌なのじゃ! こんなところ渡りたくないのじゃ!」

「つべこべ言わずに行くぞ!」


 そう言って怪盗ヴァルキリーは駄々をこねる子供を引っ張っていく親のようにブリューネを引きずって橋を渡った。


 すると次の瞬間、橋は二人(というか一人と一頭)が乗った部分からメキメキッと音を立てて崩れ始め、二人はその下を流れる激流へと真っ逆さまに落ちたのだった。



 と思いきや、ヴァルキリーがすんでのところで左腕のフックを崖から生えた木の枝に引っ掛けていた。右腕にはブルーの右前足を掴んでいた。


「うう、重い…。」

「む、重いとは何じゃ! 女子( おなご)に向かって失礼であるぞ! お主も女子ならそれくらいわかるであろう!」


「いや、僕男だし、それに最低限のデリカシーは心得てるはずなんだけど…。多分羊になったせいで体重が重くなったんだろう。」

「お、お主その見た目で男の子( おのこ)じゃったのか!? どう見ても女子にしか見えぬぞ! あれか、お主は男の娘というやつなのか? あれ? 前から思っていたのじゃがお主を遠い昔にどこかで見たような気が…。」

「ん? なんのことかな? 僕にはさっぱりわからないんだけど?」


 ブルーの素朴な疑問にヴァルキリーは上ずった声で答えたその時、

「グオォォォォォォォォ!!」

 真下にはいつの間にか、成体のタラスクスがブリューネとヴァルキリーを喰らおうと、不気味に光る鋭利な牙がずらりと生えた大きな口を開けて待ち構えていた。


「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!! 妾は食べられたくないのじゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 そう叫びながらブルーはジタバタと暴れる。


「ちょ、暴れるな! そりゃ僕だって喰われたくないよ! わわっ! 落ちる落ちる!!」


 ブルーが暴れるせいで二人は次第にバランスを崩してゆく。

 遂には怪盗ヴァルキリーの仮面が外れて落ちてゆき、タラスクスの口に中へと消えていった。


 仮面が取れた怪盗ヴァルキリーの素顔を見て、ブルーは思わず息を詰まらせた。

 似ている。

 いや、似ているどころじゃない。

 自分そっくりなのである。

 紫水晶( アメジスト)のように輝く瞳。

 すらりと鼻筋が通った顔立ち。

 桜色の瑞々しくも艶やかな唇とほのかに桃色に染まった頬。

 そして金色のサラサラとした長い髪。

 全て自分とそっくりなのである。

 そこであることを疑った。

 この人は______________もしかして自分が幼い頃に生き別れた実の双子の兄、シグルス・ヴァルキューレ・ヨルムンガンド本人なのではないかと。


「おい、何ぼーっとしているんだ! 早くこの窮地から脱する方法を考えるんだ!」

 はっ! そうだった!


 今はぼーっとしている場合じゃなかった。

 一刻も早くこの窮地から脱する方法を考えねば二人ともあのドラゴンの胃袋の中に入れられてしまうだろう。

 しかし、どうすればいい。

 こんな手では崖を登ることができない。

 万事休すか。


 ブルーが頭を悩ませていると、頭上から怪盗ヴァルキリー_______シグルスが声をかけてきた。どうやら何かいい考えが思いついたらしい。


「一ついい考えがあるぞ!」

「えぇっ!? 何々!?」

「今思い出したんだが、僕にはとっておきの助っ人がいるんだ。」

「ちょっ、それを早く言ってよ!」


 そう言うとヴァルキリーは笛のようなものを取り出しそれを吹いて見せた。

 仲間呼びの笛。

 これを吹けばピンチの時に控えの仲間が助っ人に来てくれるという笛だ。

 そして空から飛んできたのは…。


「やっほー! シグ、お待たせ!」

「シグ、珍しいなお前が俺たちを頼るなんて。何か困ったことでもあったか? って、見ればわかるか。」


 紫の髪を赤いリボンでサイドテールに結い、コウモリのような翼を持つ赤を基調としたゴスロリ衣装を身にまとった紅いルビーのような瞳の少女と、透き通るような銀髪で頭頂部の二本のアホ毛が特徴的な執事服を着た長身の青年であった。


「待ってて、すぐここから助けるから。」

 翼の生えた少女は二人を崖から引き上げ、向こう岸まで運んだ。


 そして執事服の青年は懐から二丁のガンブレードを取り出し銃口をタラスクスに向けると、

「ガンモード起動! 光・弾符『ライトクロスブレット』!」

「グワアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」

 十字架型の光の弾丸をぶっ放し、タラスクスを一撃で仕留めてしまった。






「ふぅ…、危ないところだった。ありがとう。もう少し遅かったら今頃食べられていたよ…。」

 すんでのところでピンチを助けられ、ブルーとヴァルキリーはホッと一息つく。


「というか何でこんな山道歩いてんのシグ? 貴方いつも王都へはアジトのゲートを使って行ってたはずでしょ?」


「ゲートじゃと!?」

 ゲートという言葉に王女が反応した。

 ゲートがあるということは即ち一瞬で王都へ行けるということである。

 ゲートがあると知った瞬間、ブルーにはこの山道を苦労して歩いてきたことがだんだん馬鹿馬鹿しく思えてきた。


「何故それを早く言わんのじゃ愚か者が!!」

「勝手に帰るとかほざいて山の中ズンズン進んで行ったのはお前だろ・・・。」

「あ、そうじゃったあぁぁぁぁぁぁ!! 妾のバカァァァァァァ!!! 何であの時山の中に入ったんじゃぁぁ!!!」

「でもシグ、あんた確かワープ魔法使えなかったっけ。」

「でもそれはかなり魔力食うし魔力増強剤が運悪く底をついているんだ。だから今からアジトに戻るわけにもいかないしなぁ。ブルー、このまま先に進もう。」

「うん、わかった……。」

 ブルーはもう仕方ないと思ったのか、涙目で頷いた。


 そんな二人のやりとりを見ていた執事服の青年は、羊と化した王女を指差してこう尋ねた。

「シグ、お前と一緒に居るその羊は何だ?」

「え? 顔見て分かんない? 普通に王女だけど。」

「ええっ!? じゃあなんで体が羊なの!? 新手のキメラかと思ったんだけど!?」

「あぁ。実はかくかくしかじかでな……。」


「成る程、そういうことか。ニュースでは聞いていたがまさかあの胡散臭い魔法使いが本当に王位を手に入れたとはな。それで王位を狙ったウロボロスに羊に変えられて城から追い出された王女を間違って連れてきてしまった責任でこうやって城まで送りに行っていると。」

「大体の事情はわかったわ。よし、私たちも同行してあげる。」

「本当か! ありがとう二人とも。」

 というわけで、翼の生えた少女と執事服の青年が同行してくれることになった。


 一方、ヴァルキリーと助っ人の二人の会話を聞いていたブルーは先ほどから抱いていた疑問が確信へと変わっていくのを感じた。

 間違いない。

 この人は___________妾、いやあたしのお兄ちゃん。


「……のぉ、怪盗ヴァルキリー…。」

「ん、何かな?」

「お主、いや貴方は妾、いやあたしのお兄ちゃんなのでしょう…?」


「っ……!! な、何故それを!?」

「だってあたしとそっくりな顔をして、シグって呼ばれている人なんて、あたしの記憶の中にはお兄ちゃんしかいなかったんだから…。」

(え? 何故こいつに僕の正体がバレているんだ?)


「「シグ、マスクなくなってる。」」

 少女と青年はシグのマスクがなくなっていることを指摘した。

「え? マジで?」

 シグは自分の目元を触ってみる。


 ない。


 さっきまで付けていたマスクがなくなっているのだ。

(チッ、あの時か……。)

 どうやらさっきの川に落ちそうになった際に、取れて落ちたのだろう。

 まぁ、マスクに関してはまた新しいものを新調すればいいことだから良しとしよう。


 問題はブルーに自分の正体がバレてしまったことである。

 こいつにはできるだけ自分の正体をバラしたくはなかった。

 何故なら、こいつが辛い過去の記憶を思い出してしまうだろうから____________________。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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