Chapter6 王女の葬式、そして簒奪王の即位
一方、城の近くの大きな教会ではブルーの葬儀が行われていた。
十字架とステンドグラスが飾られた教会の大広間には大きな棺とブルーの遺影が置かれ、たくさんの喪服を着てろうそくを持った民衆が集まり、会場内には賛美歌が流れていた。
「こ、この度……えぐっ……、ヨルムンガルド王国女王……ヒック……ブリューネ・ヒルデリン・ヨルムンガルド様は……ズズズ……十六歳の若さに……て……ううう……ほ……崩御いたしましたうわあああああああああああああああああああああああああああああああああああん!」
司会担当のサナが潤んだ大きな瞳から大粒の涙を流し、大声で泣き叫びながら民衆の前で王女の死を知らせる。
しかし民衆はそれほど悲しそうな雰囲気は漂わせておらずむしろ清々したような表情を浮かべる者が多かった。
葬儀が一通り終了した後、
「さて、葬儀は終わりましたので、今から新しい皇帝陛下の即位式に移らせていただきます。無・移符『ワープスプリンター』!」
サナは魔法少女が持っているような魔法の杖のようなを懐から取り出して呪文を唱えると、彼女と民衆は葬儀会場から城の大広間へとワープ移動した。
しばらくすると、民衆たちの前には豪華な大礼服に身を包んだDr.ウロボロスが帝冠を被った姿で現れた。
「王女の急死を受けた元老院によるこの度の院議決定により、この国は新たにウロボロス帝国と名を改め、この私、Dr.ウロボロスが新たに皇帝に即位することになりました。さあ皆の衆、私に是非盛大な拍手を!」
しかし、民衆は誰一人として拍手するものはいなかった。
今までわがまま放題で国のことにほとんど興味がなく、人望もゼロだった王女の死を悲しむ者はただ一人を除けばほとんど誰もいなかったのは事実だが、かといってウロボロスも政治家や科学者としては有能なものの国民を束ねるだけのカリスマ性は持ち合わせていないらしい。
「…っ…! まさかブリュンヒルデ様がっ…死んでしまわれるとはっ…!」
ちなみにこの日以来海道は自室に閉じこもってすすり泣くようになってしまい、結局城の者達からは忘れ去られることになるのだがこれはまた別のお話。
これによりヨルムンガンド王国の国旗の模様や国章は全て彼のシンボルマークの目玉模様のようなマークに描き換えられ、国号もウロボロス帝国と改められた。
そして一連の式典が終わった後、いつもの服装に着替えたウロボロス帝国皇帝Dr.ウロボロスは玉座に腰掛けワイングラスに注がれた血のような赤ワインを飲んでいた。
傍らには鴉状態のサナが控えている。
「ついに私がこの国の皇帝となったのだ。まずは北方の島国のブリテーヌ王国を攻めて奴らの植民地も分捕り、今度は東方の和皇国と華朝帝国を侵略し、さらなる国家の発展を行う時期だ。我が国と同じようにMSAの研究を独自に進め、世界各地に植民地を作っているブリテーヌ王国はまだしも、和皇国と華朝帝国はまだMSAの技術が未発達だからな。そしていずれはこの私ラグナロク・ミッドガルディア・ウロボロスがこの世界の支配者になるのだよ。私が望むこの国の姿はまさにこの世界のほぼ全土を支配下に置く大国の姿。ブリュンヒルデはもうこの世にいないしもはや私の邪魔ができる奴は誰もいないのだよ。ヒッヒッヒ…。」
そう言って玉座でくつろいでいる様子のウロボロスを、サナは何か気まずそうな目で見ていた。
(あーもう、あのことをご主人になんと言えば…)
そう思っていたサナは少女の姿に戻り、ウロボロスに正直なことを話すことにした。
「あの…、ご主人…お話があります。」
「なんだ? サナ。」
「ブリュンヒルデ様の事なのですが…。」
「何を言っている。お前がもしちゃんと私の命令に従っていればブリュンヒルデはとっくの昔に死んでいるはずだ。さあ、もう一回言ってみろ、ブリュンヒルデは死んだと。…………………そういえばお前からブリュンヒルデの首をもらった覚えがないな…………………まさか、もしかしてお前あの時殺さなかったのか…!?」
「あの…実は昨日城から出た途端に怪盗ヴァルキリーに…………。」
「ハハハ、そういうことか……………………な、なんだと!? ではブリュンヒルデはまだ生きているというのか!?」
「…………はい。」
「この間抜けめ! お前は何処まで愚か者なんだ! あいつをきちんと殺っておかないと、もし運悪くあの羊が誰かに見つかってしかも王女だとバレてしまえば、私は立場を失いかねないのだぞ!!」
そう怒鳴りながらウロボロスはサナを杖で殴り倒し、足でガンガン踏みつける。
「ちょ、痛い、痛いですってご主人! やめてください!!」
サナは泣きながらそれを止めるようウロボロスに懇願する。
「フン、もう良い、ブリュンヒルデは私が直接手を下す。その間お前は留守番でもしていろ。」
そう言ってウロボロスは足蹴りを止め、玉座から立ち上がる。
「いてて…しかしご主人、ご主人は怪盗ヴァルキリーのアジトをご存知なのですか?」
「なんてことだそれを忘れていた。では一体どうすれば良いのだ?」
神出鬼没の怪盗ヴァルキリー。
そのアジトの場所を知っている者は誰一人としていない。
誰も知らないものは探しようがない。
そもそもヴァルキリーが必ずアジトにいるという保証もない。
こんなナイないだらけの状況ではもうどうしようもない。
やはり怪盗ヴァルキリーが城に現れる夜に待ち伏せして捕らえ、ブリュンヒルデの居場所、つまり奴のアジトを聞き出すのが得策か。
いや、そんな悠長なことをしているうちにブリュンヒルデが奴のアジトから抜け出し、しかも奴が王女だということがバレれば、自分の地位が消し飛びかねない。
斯くなる上は・・・。
「サナ。お前が鴉になって怪盗ヴァルキリーを探し出し、奴をここへ連れてこい。もし奴がアジトにいた場合はその場所をスマホで私に伝えろ。ブリューネと怪盗ヴァルキリーはあくまで私が手を下すからお前は余計なことはするなよ。わかったか!! 今度失敗でもしてみろ。その時はお前を魔法で屈辱的なものに変えてから徹底的に甚振ってやるからな……。」
「は、はい…。肝に銘じておきます…。」
どす黒いオーラを漂わせるウロボロスにビビりながらも、サナは鴉の姿に化け、怪盗ヴァルキリーを探しに出かけた。
そしてウロボロスはというと、
「さて、衛兵たちには国中に大捜査網を張り巡らせて怪盗ヴァルキリーを確実に捕えられるように命令しておくか。あいつ一人じゃ心許ないし。ちょうど私が開発した、フレースヴェルグの性能も試したいところだし、今回の作戦は試運転にももってこいだろうな。」
そう言って地下にある例の部屋へ赴き、自らの研究室へと向かう。そして研究室の奥のシャッターにある、身長が約3メートルもある鷹の頭をして背中に鋼鉄の翼を生やした屈強な傀儡を起動させたのであった。
一方その頃、
「あれ、僕のスマホが鳴っている。なんだLINERニュースか。どれどれ…。うわッ…! やっぱりか! しかもなんか超やばいことになってるし!」
コートのポケットからスマホを取り出し、その画面を見て驚愕する怪盗ヴァルキリー。
それを不思議そうな目で見て、画面を覗き込もうとするブルー。
「え? どうしたんじゃ? 一体何が…………………な、何じゃと!?『ヨルムンガンド王朝断絶! 新皇帝ウロボロス陛下誕生』じゃと!? 妾死んだことにされておるのか!? しかも国が一段と本気になってお主を逮捕しようとしておるそうではないか! まさか妾とお主が一緒に行動しておるのがバレたのか!? 妾たち、一体どうなってしまうのじゃあああああああぁ〜〜〜〜〜!? 捕まって殺されるのは絶対嫌なのじゃ!」
「チッ、結構まずいことになったな。とりあえず衛兵に見つからないように城へ向かうしかないか。」
「おのれウロボロス、妾をこんな姿にした挙句死んだことにして王位を掻っ攫うとは不届き千万! 妾が元の美しい姿に戻った暁には死ぬより辛い目にあわせてやるのじゃ…。」
旅立ちは早くも波乱の幕開けとなったのであった。
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