Chapter5 お宝だと思って持ち帰ったら羊にされた王女だった件について
翌日、ブルーは麻袋の中で目を覚ました。
まず目を醒ますと自分の手に生えているものが指ではないことに気づく。二股に別れた硬いそれがブルーの手にあったのだ。
「なんじゃ!? どういうことじゃ!? なんで妾の手から蹄が生えておるのじゃ!? しかも何故袋の中に入れられておるのじゃ!?」
そう言ってブルーは袋の中で暴れ続けた。
「ったく朝からうるさいなあ。なんの騒ぎだ? うわぁ、寒っ! 今朝は一段と冷えるなぁ。」
怪盗ヴァルキリーが目をこすり、仮面舞踏会でつけるようなマスクをかけながらぼろ家のアジトから出ると昨夜遅くに盗んだ麻袋がどこかで聞いたような声で喚いていた。
「ん? なんだあの袋!? 中に何が入ってんだよ!?」
そういえば昨晩はアジトに着いた時かなり眠かったから袋開ける前に寝てしまったんだっけか。
恐る恐る袋の紐をほどいて開けると中から何かが飛び出してきた。その飛び出してきたものを見たヴァルキリーは思わず腰を抜かした。
「ひ、羊!? でもそれにしては頭だけ何故か人間だし、一体なんなんだこいつは!? 突然変異か何かなの!? いや、突然変異にしては妙に顔が可愛すぎるし…。」
「む、羊とはなんじゃ。失礼な。一体妾のどこが羊に見えるのじゃ。」
「いいから鏡見てみろよ! 頭が人間で体が羊、しかも言葉話せるってどこの生き物だよ! まぁドラゴンとか妖精とかスライムがいるこの世界じゃあこんな生物がいてもおかしくはないのかな?」
「どれどれ…な、何じゃこりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
ヴァルキリーが差し出した手鏡の方にふと目を通してみると、見事に体が羊と化してしまった王女自身の姿がそこにあった。
そして今度は自分を袋から出した人物を一瞥し、こう言い放った。
「あ、お主知っておるぞ! 昨日妾の計画を潰そうとした不届き者、怪盗ヴァルキリーではないか! まさかお主か? 妾をこんな姿に変えてこんなところまで連れ出したのは!」
「何のことだよ!? 僕は確かにお前が入っていた袋をここまで持ってきたがお前は元から羊の状態でその袋の中に入っていたんだぞ!? そもそもあの時は人面羊が入っているなんて思いもしなかったし……ってその顔にその声、あんたまさかブリュンヒルデ王女か!?」
「いかにも。昨晩ウロボロスたちと夕食をとっていたら何故か気を失ってて気がついたら羊にされて袋詰めにされ、やっと袋から出られたと思ったらお主がそこにいたのじゃ。さあ、白状するんじゃ! 昨日の資金盗難事件といい、お主がヨルムンガンドリゾートの建設を妨害しようとしておるのは知っておるのじゃぞ! 妾の計画を邪魔した挙句、妾をこんな目に合わせておいてタダで済むと思ったら大間違いなのじゃ!!」
「いや確かにテーマパーク建設の資金盗んだのもお前を間違ってここに連れてきてしまったのも僕なんだけど、お前が羊になったことまでは知らんぞ!? というか今の話聞く限りじゃそのウロボロスって奴が一番怪しいと思うんだが? ん? 確かDr.ウロボロスってこの国の宰相だよな? ははーん、もしかしてあんた家臣に裏切られてそんな目にあってんのかな? まああのワガママっぷりを見れば擁護できないっていうか何というか自業自得だよな。」
「なんじゃお主!? 王女の妾に向かってなんと言う口の利き方をしておるんじゃ!? 今までの色んな罪と今の口の利き方による不敬罪で逮捕ZOY!!」
「ZOYって…お前デ○デ大王かよ。というかそんなことはどうでもいい、お前これからどうするんだ? 帰れるのか?」
「帰れる帰れないではない、帰るんだよ! 妾は一人で城に帰ってみせるのじゃ! 帰ったら城の兵士たちを総動員してお主のアジトを襲ってやるからな! 覚悟するのじゃ! それでは、さらばじゃ!」
「おい、ちょっと待てよ!」
怪盗ヴァルキリーが呼び止めるもブルーは聞く様子もなく山の森へと入っていった。
「大丈夫かあいつ? この辺の地理に詳しいとは到底思えないが…。あと、僕のアジトには一瞬で王都にいけるゲートがあるってのに…。」
さて、森へ入っていったブルーはというと、
「あんな女に頼らんでも妾は自力で城まで帰ってみせるのじゃ。こんな森所詮妾の手にかかればあっという間に抜けられるのじゃ!」
と強気で鬱蒼とした森の中を彷徨っていた。
しかし数時間後…。
「何故じゃ…。何故いつまでたっても出口が見えんのじゃ…。しかも腹も減ってきたしなんか怖くなってきたのじゃ…。」
すっかり弱気になってついにその場でへたり込んでしまった。
その時、うっかり足を滑らせて少し高い崖から落ちてしまう。
「ひっ、きゃああああああ!………あれ?」
しかし体毛のおかげか怪我は一つもなかった。こういう時には羊の体毛も役に立つのかもしれない。
そう思った時だった。
「グエェェェェェェェェェェェ…!」
足元から不気味な鳴き声がしたかと思うとブリューネはすぐにそこから沼地へと転げ落ちた。
どうやら崖の下の沼地で眠っていたワイヴァーン(ワイヴァーンは沼地に生息すると言われる)を起こしてしまったらしい。
しばらく怒り狂うワイヴァーンに追いかけ回されることになった。
「誰か助けてくれ! このままではワイヴァーンの餌食にされてしまうのじゃぁぁ!!」
泥水を振り払い、必死に助けを求めて森の中を逃げ惑うブルーだったが、こんな深い森の中に人がいるなんてことはまずありえなかった。
ついに崖っぷちのところまで追い詰められ、もはや絶体絶命のピンチに陥ってしまった。
「ああ、もうおしまいじゃ…。」
迫ってくるワイヴァーンを涙目で見つめながらブルーが死期を待っていると…。
ヒュッ
一閃の閃きと共に一本のサーベルがブルーとワイヴァーンの間に刺さった。
「どうやら間一髪だったみたいだな。」
声の方を振り返ると、そこには怪盗ヴァルキリーが立っていた。
「なんでこんなところでぼーっとしているのかなお姫様。どうやら一人ではお城に帰れないみたいだね。」
「ふん、余計なお世話じゃ。あんなワイヴァーンなんぞ妾一人で…」
「グエェェェェェェェェェ!!」
「ひいいいいいいいいいいいいいい!!」
「わかったわかった無理すんな。さあて、まずはこいつを始末しないとな。」
ヴァルキリーは地面から愛刀であるサーベル『グラム』を引き抜くとそれをワイヴァーンに向けた。
「グエェェェェェェェェェ!」
ワイヴァーンは不気味な声で吠えるとヴァルキリーの方へ襲いかかった。
「氷・斬刃『アイシクルソードブリザード』!」
ヴァルキリーがそう唱えるとグラムの刃が冷気とダイヤモンドダストを纏った。
その刃でワイヴァーンに斬りかかる。
ザシュッ
「グエェェェェェェェェェェェェ!!」
こうかはばつぐんだ!
ワイヴァーンは悲鳴をあげると同時にそこに倒れ伏した。
「いけっ! モンスターカード!」
ワイヴァーンを倒したヴァルキリーは愛刀グラムを鞘に収めると、紅白に塗られて黒い線で不思議な紋章が描かれたカードをワイヴァーンに投げつける。
すると、倒れたワイヴァーンの下にカードの紋章と同じ魔法陣が現れ、ワイヴァーンは赤い光に包まれて消えた。
「なっ、ワイヴァーンが消えてしまったぞ! 」
「これはモンスターカードと言って、倒したモンスターをこれに封印すれば仲間にすることができるのさ。まあ使ったのはこれが初めてだけど。というかなんでワイヴァーンなんかに追われてたんだ?」
「妾が足を滑らせてあやつの上に落ちたのじゃ、そしたらいきなり襲いかかってきて・・・。」
「あーあ、この辺りに詳しくない奴が森に入り込むと途端にこういう目にあうんだよなぁ。それにこの森はモンスターの巣窟になってるから迷えばどんな目にあうかもわからんし。どうだ? これでもまだ一人で帰れる度胸があるか?」
「う…………、や、やっぱり妾と一緒に城へ行って欲しいのじゃ……。でもまずは、妾のこの魔法も解いてはくれぬか? お主も魔法使いなんじゃろ?」
「いや、それは無理だな。MSAで作られた薬でかけられた魔法は基本的に同じ作り方で作られた魔法薬でないと解けないんだよ。ほら、僕がお前をアジトまで間違って連れ込んでしまったお詫びも兼ねて今日はバイトのシフト入ってないからお前を城まで送ってやるからさ。この先はいろんな魔物がいるしな。スライムやゴブリンとかリザードマンくらいならまだしもまたさっきみたいにドラゴンが出てきたら厄介だし。城に戻れば元に戻る薬もあるだろうから安心しな。」
「なんじゃ。この役立たずめ。妾はすぐに元の姿に戻りたいんじゃ。」
「はいはい役立たずで悪うござんした。だったら急いで城へ向かえばいいだけだろ。さあ、ぐずぐずしてないでさっさと先に進もう。」
「むぅ…。わかったのじゃ…。こうなったら城まで突き進むだけじゃ。本当はもっと楽な方法で行きたいのじゃが…。」
こうしてブルーと怪盗ヴァルキリーの城に向けた旅が始まった。
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あと読みやすくするために章の区切りを改変しました。