Chapter4 怪盗ヴァルキリー、現る。
一方それとほぼ同じ頃。鳥の翼のような形をした髪飾りで左右非対称に結ばれた長いサラサラとした金髪に、仮面舞踏会用のマスクで目元を隠した男装の少女、怪盗ヴァルキリーが再び宝を盗み出そうと城に忍び込んでいた。
彼女は首にピンクのネクタイを結んだ立て襟のワイシャツの上に赤い着物に似た上着と青いコートを纏い、脚には漆黒のスラックスと茶色のブーツを履き、腰には高級そうなサーベルを差していた。
さらには左腕が鉤状の義手となっているため、怪盗というよりどちらかというと海賊のキャプテンのような出で立ちであった。
素顔は前述のマスクに隠されて目元が見えないが、鼻筋が通っており、ほのかに染まった桃色の頬と桜の花びらのような艶やかな唇を備えていることから、相当な美貌の持ち主だと思われる。
ただし胸の方は清々しいほどのまな板であった。
「ヘッヘッヘ。昼間は楽勝だっだぜ。この城っていつも警備が手薄だし、兵士たちだって最近腑抜けてて手応えないし、僕を本気で捕まえる気があるのかこの城の連中は。大方戦のための軍事費と王女の浪費癖のせいで城の警備に費やす金がないんだろうけどね、まあその一部は僕のせいだけど(笑)。おっと、そうこうしているうちにお宝を見つけましたよ。よし、無・鉤手『フックマジックハンド』!」
宝を見つけたヴァルキリーは呪文を唱え、左腕のワイヤーフック(MSAによって作られた魔法機械によるもの)を宝の方へと伸ばしていく。
しかし、ヴァルキリーがフックで宝石をしまってあるショーウィンドウの鍵を開けた瞬間、警報が鳴り響き、宝は一瞬のうちに消えてしまったのだった。
「しまった! まさかこれトラップだったのか!?」
「いかにも。お前はここで俺様に倒され、牢屋にぶち込まれるのさ。」
そう言って暗闇から現れたのは最近になって城の衛兵隊長になった現実世界人、旭山 海道だった。
「あれ? 怪盗ヴァルキリーって女だったのか。それにしても貧弱そうなやつだな。こんなやつ俺がいれば十分だぜ。なんで今まで捕まえられなかったのか不思議なくらいだアッハッハ。」
「君? なんか勘違いしてない? 僕、こう見えて男なんだよ。それに僕を舐めてかかったら…マジで痛い目にあうよ?」
「え? マジ!? じゃあ男の娘ってやつ? 初めて見たわー。ってそんなことはどうでもいいんだ。俺はここでお前を倒してブリュンヒルデ様と結婚するんだよ! ハァ、ハァ、もう直ぐあの気高くも美しきブリュンヒルデ様の結婚相手になれるんだ・・・。待っててくださいブリュンヒルデ様! この旭山 海道、必ずや怪盗ヴァルキリーを仕留めてみせます! あぁ〜^あの方を思い浮かべただけでだけで俺の心がぴょんぴょんするんじゃぁ^〜。」
ハァハァと発情したような喘ぎ声をあげ、涎を垂らしながら気持ち悪い笑みを浮かべる海道にヴァルキリーはかなりドン引きし、どこか哀れむような眼差しで見つめていた。
「うわぁ…はっきり言ってキモいぞお前。マジ引くわー…。だいたいそんなキモい顔で結婚とか何の冗談? きっとこういう奴は現実世界でもこの世界でも女の子にモテない可哀想な奴なんだなぁ〜(笑)。王女も大変だな〜、こんなキモい奴にこんなキモい感情を抱かれていたなんて(笑)。プークスクス、ヤバい超ウケるんですけど(笑)。」
「黙れ! あとどこぞの駄女神みたいな感じで笑うな! さっきからキモいキモいうるせえんだよ! てめえみたいな女っぽい男にそんなこと言われる筋合いなんざ無えんだよ!!」
そう叫びながら海道は剣を抜き、ヴァルキリーに襲いかかった。
対する怪盗ヴァルキリーもすかさず抜刀すると、華麗な剣捌きで海道を翻弄し、遂には海道の剣を一振りで真っ二つに折ってしまった。剣を折られた海道はその場にヘタレこんでしまった。
「う、嘘だろ…。俺の勇者の剣がたった一撃で折られるなんて…。」
「僕の愛刀『グラム』はMSAで生み出された特殊な金属で出来ていてね、どんなものでも切り裂くことができるからこれくらいの斬鉄なんか朝飯前なんだよ。MSAの息が掛かってない普通の剣と同じだと思っているとこうなる。」
そう言い捨てて怪盗ヴァルキリーは腰の鞘にサーベルを納めた。
しかしヴァルキリーがそのまま立ち去ろうとすると、
「まだだ…。まだ終わっちゃいねぇ!」
突然、海道がヴァルキリーの方へと飛びかかったのだ。
「うわっ! 危ねっ!!」
ヴァルキリーはすんでの所で身を躱し、
「無・鉤手『フックマジックハンド』!」
左手のワイヤーフックを今度は海道の体に巻きつける。
「ぐぐっ…。なんだこれっ…、身動きが取れんっ…!」
「これが魔法の力さ。この異世界、とりわけヨルムンガルド王国には魔法を使える人間が多くいてね、それぞれ得意とする魔法の属性とかが色々異なっているんだ。僕の場合、草(風)・炎・水(氷)・雷・土・光・闇・無と全ての属性の魔法が使える。そして僕は魔法を利用して毎日盗みを行っているわけさ。まあ外の世界から来た君には魔法の話なんてこれ以上話しても理解できないだろうけど。」
「な…何故わかった…。」
「だって君とは初対面だもん、それに僕に向かって何も考えずに一人で突撃してくるあたり君は魔法の事に関しては疎い感じだったし。はっきり言ってこの城に元から仕えている兵士たちの方がまだ手応えあったかも、奴らは集団で僕に襲いかかってくるわけだし。まあ大抵の場合僕に斬られる連中が多いんだけど。」
「ち、畜生…。」
「さてと、また襲いかかって来られたら困るし、君には少し眠っててもらうかな。雷・電撃『トール・エレキショック』!!」
ヴァルキリーが呪文を唱えた瞬間、彼の左腕から電気ショックが流れ、ワイヤーに巻きつかれていた海道に強力な電気ショックが浴びせられた。
「ぎゃあああああああああああああああああ!!!」
電気ショックを浴びせられた海道はその場で気絶し、倒れてしまった。
「これに懲りたら、もう二度と僕の邪魔はしないでね。まあ本当だったらここで斬り捨ててたところだけど、今日のところは命だけは勘弁してあげる。」
そう言い残して、怪盗ヴァルキリーはその場を立ち去った。
「全くご主人ったら、人遣い…いや使い魔遣いが荒いんだから…。ああ、寒い寒い…。」
その頃、サナは城から出てブルーを運び出すところであった。背中の黒い翼を羽ばたかせ、大きな麻袋を持って地面から飛び立つ。
数日前に雪は降らなくなり、昼間は暖かくなってきたものの、やはり朝晩は結構肌寒かった。
ちょうど城の一番高いところ辺りまで到達した時、
「「あ痛ぁっ!!」」
急に窓のステンドグラスを割って飛び出してきた怪盗ヴァルキリーとぶつかってしまい、二人は地面へと真っ逆さまに落ちてしまう。
しかし、麻袋がクッションになっていたおかげか幸い二人ともなんとか無事であった。
「本当に申し訳ありません。私の前方不注意でこんなことになってしまって…。でも、怪我がなくてよかったです。」
「いえいえ、こちらこそ窓からいきなり飛び出して申し訳ありませんでした。」
そしてお互い自分の痛めた頭と腰をさすりながら顔を見合わせると、お互いぶつかった者の正体に驚いてしまった。
「あぁっ! 貴方は大怪盗ヴァルキリー!! また城のものを盗みに来たんですか!?」
「そういうお前は確か大臣の使い魔だったな! なんでここにいるんだ!? まさか僕を捕まえに来たわけか?」
「ち、違いますよ。私はただこれをどこかご主人に見つからないところに持って行こうと…。」
「ん? なんだこの袋は? なんかいいものが入ってそうな感じ。いや〜ありがたいね。今夜は収穫なしかと思ったらまさかこっちからお宝が来てくれるとは。んじゃ、これもらっていくから。」
「あぁ! 持って行かないでくださいっ! その中には大事なモノがッ!!」
「問答無用! これでも喰らえ!!」
そう言って怪盗ヴァルキリーは腰巾着の中にある眠り粉をサナにぶちまけると、先程までサナが持っていた麻袋を奪い、それを担いで高笑いを上げながらそのまま夜の闇へと消えていった。
「ではさらばだ! アッハハハハハハハハハハハハ!!」
「ま、待ってくださ……Zzzzzzzzzzzz」
眠り粉を浴びたサナはその場で倒れこみ、やがて深い眠りへと落ちていった。
しかしこの時、怪盗ヴァルキリーはまだ知る由もなかった。これをきっかけに自分がヨルムンガンド王朝を揺るがす大事件に巻き込まれることになろうとは…。
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