Chapter3 私が王女に取って代わってやる
一方その頃、ヨルムンガルド王国の元宰相Dr.ウロボロスは城の地下のとある部屋にて、
「クソッ、あのワガママ王女め!! 舐めた真似しやがって!! 散々政務をこの私に押し付けて自分は何もせずに、散々ゲーム三昧アニメ三昧だったくせに!! 今に目に物を見せてくれるわ!!」
と叫ぶと怒り任せに王女の肖像画にナイフを思い切り突き立てた。
「まあまあご主人、王女様のワガママは今に始まった事ではないじゃないですか。少しは落ち着きましょうよ。」
声の方を見ると止り木に一羽の鴉が止まっていた。その鴉は止り木から飛び立ったかと思うと、たちまち黒い翼を背に纏い、右目をハートが描かれた眼帯で覆ったゴスロリファッションの少女に姿を変えた。
ピンク色の宝石のように輝く瞳と夜色の艶やかな髪をした可愛らしい少女、サナトゥス(以下、サナ)はDr.ウロボロスに仕えている堕天使で、普段は鴉の姿に化けている。
昔あることがきっかけで天界を追放されたそうだが本人にとっては相当な黒歴史であるためそれは禁句である。その後ウロボロスに命を救われたため、契約を交わし使い魔となった。
しかし、サナは基本的に阿呆なので、あまりウロボロスの役に立てないどころか彼に迷惑をかけることもしばしばある。
「サナ。王女、いやブリュンヒルデを葬り去るいい考えはないのか。絞首・斬首・銃殺・釜ゆで・溺死・電気・火炙り・生き埋め・薬殺・石打ち・鋸・磔の中で何がいいと思う? 好きなのを選んでくれ。個人的にはファラリスの雄牛やアイアンメイデンでも結構良いと思うが…。」
「ご主人、貴方はどこの幸福安心委員会の方なんですか。あ、ちなみに私としては周りにバレないような方法なら何でもいいと思いますわ。」
「周りにバレない方法…そうだ、いいことを思いついた! 今夜奴を特別に晩餐へ招き、その料理の中に呪いの薬を混ぜるのだよ。そうすればブリュンヒルデは死に、王家の遠縁に当たるこの私がヨルムンガンド王国の新たな国王となるのだ!! あいつも今はいないことだし、宮廷の連中だって私がクビにされたことは知らないだろうから今日明日中に行動を起こせばまだ間に合う。つーか元々前国王を催眠術で操って国動かしてたのは私だからこの国の支配権は実質私のものなんだけどね。しかし何故かあの生意気な小娘には催眠術は通用しな…待てよ、ヨルムンガンド王家は確か何世代かに一度…そうなるとあいつはもしかして…ううむ、ありえるかもしれんな…………。」
「あのぅ、どうかしたんですかご主人?」
「い、いやなんでもない。と、とにかくだ! あんな傲慢で自分勝手なニート小娘に国王など務まらん。この私こそがこの国の王に相応しいのだフゥーハハハアァァァァ!!!」
「うわあ…。マジ引くわー…。」
どこかの中二病大学生を思わせるような高笑いを上げるウロボロスにサナは引き気味になっていた。
しかしウロボロスはそんなサナの言葉を意に介する様子はなかった。
「よし、そうと決まったら今日殺ろう! 今すぐヤろう! 早くそのレバーを引けサナ!」
「了解ですご主人!」
そう言ってサナが手元にあるレバーを引くと、
「違う!! そっちじゃない!」
と叫びながらウロボロスは足元に開いた大きな穴に落ちてしまった。
数分後、ウロボロスは燕尾服の裾をタラスクス(ワニに似た水辺に生息するドラゴンの一種)の幼体に食いつかれた状態で向こう側の扉から出てきた。タラスクスはウロボロスに蹴飛ばされると子犬のような声を上げ、すぐさま扉の向こうへ逃げていった。
「全くお前って奴は何回間違えれば気が済むんだ。右じゃなくて左のレバーだと何度言えば…。」
「申し訳ございません…私がドジなばかりに…。」
「ふん、謝るより先にさっさと反対側のレバーを引けよ。」
「はい…。」
サナが落ち込んだ様子でレバーを引くと、二人の足元が急に光りだした。 研究室へと続くワープ装置が起動し、二人は一瞬にして地下深くの研究室へとワープした。
研究室へとたどり着いたウロボロスは早速毒薬作りに取り掛かった。
「私は薬の調合に取り掛かる。サナ、お前はブリュンヒルデに出す料理を作れ。」
「わかりました。」
ウロボロスが薬の調合をしている間、サナは彼の命令で料理を作っていた。(研究室の隣には調理場も備えてある。)
こう見えてサナは料理が得意な方である。いつもは彼女に厳しいウロボロスも彼女の料理の腕は高く買っていた。
そして数時間後…。
「さあやっとできたぞ。城の料理長と毒味役には根回ししたしこちらの準備は整った。料理の方はどうだ?」
「あと少しでできます。」
「よしわかった。料理ができ次第作戦開始だ。この呪いの薬を料理の中に注入すれば私の理想の国ができたも同然。ブリュンヒルデを葬り去ってこの私が国王の座に就くのだ、ヒッヒッヒッ…。」
研究室にはウロボロスの不気味な笑い声が響き渡っていた。
その夜、ブルーはウロボロスにより城の地下の今は使われていない大広間へ呼ばれ、そこで夕食を食べることとなった。
「お主が妾に料理を振る舞うとはどういう風の吹き回しじゃ?」
「いや、実はですね。私の罷免の件を撤回してくれないかと思いましてね。」
「却下じゃ。」
王女は即座にウロボロスの申し入れを断った。
(フン、そうくると思ったぜ。)
「そんなことで妾の気が変わるとでも思ったか。まあ良い。料理はありがたく頂かせてもらうぞ。ところでお主は宰相をクビにされたことには怒っておらんのか?」
そう言って王女は食事を始めた。
「いいえ、全く…。(もちろん嘘である。)」
(勝った…、計画通り…! これで王女は永遠の眠りにつく。さらばだブリュンヒルデ。自らの愚かな所業を地獄で悔いるが良い…。)
そう心の中で呟きながらウロボロスはワイングラスを乾杯でもするかのように持ち上げた。
ブルーが料理を一口食べた瞬間……ブルーはテーブルに突っ伏したまま動かなくなった。
「やった。やったぞ!! これでこの国は名実ともに私のものだ!! おいサナ、死体の処理はお前に任せた。」
「了解です。」
しかしウロボロスがそう喜んだのも束の間、ブルーはすぐにムクッと起き上がり、また料理を食べ始めた。
「うん、まあ悪くない味じゃ。ところでこの料理は誰が作ったのじゃ?」
「あ、それは全て私が作りました。お味のほどはいかがでしょうか姫様。」
「そうか、サナが作ったのか。まあまあってところじゃな。そういえばお主はウロボロスの使い魔じゃったな。ウロボロスは今日から宰相をクビになったのでな、お主が今日から養っておいてやれ。あいつもその歳ではもう正規雇用にしろアルバイトにしろ就職口を見つけるのがほぼ不可能じゃからな。どう足掻いたところで毎日家から一歩も出ずにネトゲに打ち込んだり、6ちゃんねるで色々書き込みしたりしていて社会のクズ呼ばわりされておるヒキニートになり下がるのが妥当なところじゃろ。まあここで宰相として働いていた期間が長すぎたんじゃろうな。それで…。」
「それってほぼ毎日城に引きこもってパケモンとかスーパーマラオとか東萌とかスプレートゥーンとかゲームばかりしている貴女様のことじゃないでしょうか…。」
しかも何事もなかったかのようにサナと談笑を始めたのだった。
(あれ?)
ウロボロスは首を傾げた。
(薬の調合を間違ったか? いやいやこの私が毒薬一つ作るのを失敗するはずがない。何かの間違いだ! そうに違いない!)
しかしウロボロスとはその様子を見てさらに驚愕することになる。
なんと料理を食べているうちに王女の体がどんどん羊へと変わっていき、食べ終わる頃には首から下が羊の姿へと変わってしまったのだ!
(ええ!? 何故だ!? どういうことだ!?)
これを見たウロボロスは杖を持ち出してすぐさま、
「雷・電撃『トール・エレキショック』!!」
と唱えた。
すると杖の先の紫の珠からブルーの頭に電気ショックが浴びせられ、羊となった王女はその場で失神した。
そのあとウロボロスはサナを怒鳴りつけた。
「おい! これはどういうことだサナ!! 殺すどころか羊に変わってしまったではないか!! 言っておくが私は薬の調合を間違った覚えはないからな!」
「わ、私にも皆目見当がつきませんが…あっ。」
「何か心当たりがあるのか?」
「あの時ご主人の研究室から一つだけ薬を持ち出しました。料理の味付けに使えるかと思って…。」
ウロボロスはサナが差し出した空の試験管を奪い取り、めくれていた試験管のラベルを見ると、
「この⑨が!! だから私の研究室にある薬の試験管はあれほど触るな持ち出すなと言ったのに!! それに薬は私が入れると言っただろ!! 私が入れた呪いの薬とお前が調味料と間違って入れた羊エキスが化学反応を起こして不完全に羊化する薬ができてしまったんだ!! 私はブリュンヒルデを毒殺しようとしたのに、これじゃ台無しじゃないか!! 責任持ってお前が王女を殺せ!! そして奴を殺した証拠に首を斬り落として私のところに持ち帰ってこい!」
と再びサナを怒鳴りつけ、試験管を床に投げつけた。
「ふ、ふぇ〜ん(泣)。そ、そんなの知らないですよ〜。ちゃんとラベルを貼らなかった人が悪いんですぅ〜。あと私を何処ぞの氷の妖精みたいに呼ばないでください〜。」
「口答えしないでさっさと行け! お前も羊にされたいのか!!」
「ううう…。はぁ〜い…。」
ウロボロスに怒鳴られたサナはそこで伸びているブルーを大きな麻袋に入れ、大広間を後にした。
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