Chapter2 この城に泥棒が入ったのじゃ!
次の日、妾は執務室にいるウロボロスにクビの話題を切り出すことにした。
紫色の燕尾服姿に目のような不気味な模様のついた紫のシルクハットをかぶり、白く長い髪で顔の右半分を覆っておる中性的な顔立ちのこの男こそ妾の一番気に食わぬDr.ウロボロス本人じゃ。さて、早速奴を失脚させてやるとするかのう。
「おや? 私に何か御用でしょうか、姫様。」
「早速じゃがウロボロス、お主は今日からクビじゃ。」
「は? 一体どういうことでしょうか姫様、私がクビとは?」
「そのままの意味じゃ。お主はもう宰相ではない。つまり用済み、お払い箱行き決定なのじゃ。」
「何故ですか!? この私はヨルムンガンド王国に長年忠誠を誓い、この国を大国に仕立て上げた張本人ですぞ! この私なくしてこの国のさらなる発展はないと言っても過言ではありませんぞ!?」
「あのな、長けりゃいいってものではないのじゃ。長くていいのはゴールデンウィークと夏休み、冬休み、そして春休みなのじゃ。それにお主がいなくてもこの国には世界一の美少女である妾がいればそれで十分じゃ。わかったらさっさとこの部屋から出てお行き! さもなければ反逆罪で逮捕ZOY!!」
そして妾が奴に執務室の椅子から立ち上がって出て行くよう促すと、
「……はいはいわかりましたよ。出て行けばいいんでしょ出て行けば。チッ。」
ウロボロスは机に立てかけてあった上端に紫色の珠がはめ込まれたステッキを片手に持ち、舌打ちをした後で何やらブツブツ独り言を呟きながら去って行った。
妾はドレスのポケットからスマホを取り出すとウロボロスの後ろ姿の写真を撮り、それを「クビにしてやったなうwww」とコメントをつけTwinterにアップした。
すぐに「いいね!」トゥイートが百万に達した。やべぇ、めっちゃいい気分(笑)。メシウマとはまさにこのことじゃな。
ちなみにドイツ語では『Schadenfreude』と言うのじゃ。知っておったか?
嗚呼、せいせいした。これで妾の思いのままにこの国を動かせられるのじゃ。
妾の夢はこの国独自のテーマパークであるヨルムンガンドリゾートを造ってこの国からあの甲高い笑い声が特徴的な黒いネズミのテーマパークを追い出すことなのじゃ。
何故って? それは妾がネズミ嫌いだからに決まっておろう!
そこで妾は早速ヨルムンガルドリゾートの建設を布告するよう家臣に命令した。
建設場所はとある田舎の農村地域。あそこは妾のテーマパークを建設するにはうってつけの場所じゃからな。嗚呼、楽しみじゃ♪ やっと妾の野望が達成するのじゃからな。
しかしそう思った矢先、事件が起こった。ウロボロスをクビにした後で、溜撮りしてたごちウザとばけものフレンズとおそ杉さんを見ようと自室へ向かっている時、駆けつけてきた家臣が妾に城の巨大金庫へ来るように申してきたのじゃ。
金庫の中を見ると、ヨルムンガンドリゾートの建設のために用意していた大量の資金が全て盗まれてしまっていたのじゃ!
後に残されていたのはこう書かれたカードだけじゃった。
“テーマパーク建設の資金、確かにもらったぜ☆ 怪盗ヴァルキリー ”
犯人は怪盗ヴァルキリー。王国中で指名手配されている凄腕の大怪盗じゃ。
奴は巧みな手口で様々な美術品や宝石、さらには王家やら貴族やら資本家と言った金持ちの持つ大金を盗み出す極悪人じゃ。
幾度となく衛兵を差し向けても奴は相当な剣の達人でしかもMSAの使い手じゃから結局返り討ちにされて逮捕することができないのじゃ。
何故か愚かな人民ども(特に貧しい連中)からは人気があるようなのじゃがそんなことは妾の関知するところではない。
おのれ怪盗ヴァルキリー、次こそは奴を絶対に逮捕してやるのじゃ。そして妾の計画を妨害したことを後悔するほどの痛い目に合わせてから極刑にしてやるのじゃ!
妾は早速城の衛兵隊長、旭山 海道に城のとある一室に罠を仕掛け、そこで怪盗ヴァルキリーを待ち伏せするように命令した。
え? なんでこいつだけ西洋風の名前じゃないのかって?
最初は妾も名前的に和皇国出身の珍しい移民かと思ったのじゃが、実は此奴、異邦人とかそういうものである以前にある日突然この異世界に現れた現実世界の男子高校生らしいのじゃ。
見た目的には全然妾の好みではないしはっきり言ってキモいブサメンだったけど、一応腕っ節は結構強い方だったから妾の気まぐれで勇者の剣(笑)みたいなのを与えて城の衛兵隊長にしてやったのじゃ。
まあその剣はMSAの手が加えられていないただの剣なのじゃがな(笑)。
だけど此奴を雇い出した時からどこからか気持ち悪い視線を感じるようになってきているのは何故なんじゃろうか。マジで気のせいだったら良いのじゃが…。
まあこれで多分怪盗ヴァルキリーをやっつけられるのだからひとまず良しとするかのう。
ひとまず怪盗ヴァルキリーさえやっつけてしまえば全てが妾の思うがままになる、この時まではそう信じて疑わなかったのじゃ。そう思っていたのじゃが…。まさか、この後あんなことになってしまうとは…。
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