80 ワイロじゃないの?
ネットが繋がらなくて遅れました。申し訳ありません。
「さっきからあいつ煩いんだけど」
そう言ってパルが指差すのは何もない空間だ。
「そうかパル、いつの間にか幽霊が見えるようになったのか」
「違うわよ!」
「分かってる、分かってるから。で、見えてるのは誰だ?怒りさん?それともオルクス?」
「怖いってば!精霊よ、せ・い・れ・い!サリアの契約精霊」
パルの言う通りそこには精霊がいる。と言っても俺には見えていない。【空間把握】で存在は確認できるだけであって、姿は見えないし何言っているかも聞こえない。ということは幽霊と変わらないだろう。霊ってついてるし【霊覚】で見えるようになるし。
「ソラは聞こえる?」
『きこえな〜い』
どうやら収納状態の五感は俺と共有しているらしい。
『私には聞こえますよ』
なのにスキルとは共有してないってどういうことだよ。少なくとも中に入れば聞こえないということはわかった。【鑑定】は・・・まぁ後からでいいだろう。
「無視しとけ。うるさすぎて集中できないと言うなら中に入ってれば」
「うぅ・・・まぁいいわ。別にボスは脅威っていうわけじゃないのでしょう?」
パルの問いに頷いて答える。まだ分からんけど、指揮系の魔物は本体はワンランク下の能力らしいから。っていうかそんなに煩いのに大丈夫か?
『マスター、ヤバイですよ。倒す覚悟ありますか?』
【鑑定】した【鑑定】が警告してくるが、そんなに強いの?オリジナルどれくらい?
『強いというわけではありませんが、マスターの戦いづらい相手かと。とりあえず見てください』
結果:名前 ヒノ カオリ (陽乃 華織)
種族 アントビー・クイーン
ランク C +
スキル
エクストラ
【巨大化】【全身甲殻】
ノーマル
【怪力】【生命感知】【糸】【毒霧】【毒舌】毒牙】【毒刃】【毒鱗】【毒針】【酸霧】【麻痺霧】【側面移動】【身体拡張:口、腕、足】【口吸】【迷彩】【放出】【岩殻】【擬態】【鱗】【指揮】【再生】【飛行】【アシュタロス】
固有
【産卵】【潜土】【遺伝】
耐性
【毒無効】
称号 【アシュタロスの加護】
スキル多くない?とか、それどうやって獲得したんだ?とか色々あるが一番に驚いたのはその名前。今までの魔物についていなかったというのもあるが、その名前が意味することの方が重要だった。
陽乃 華織。間違いなく日本人だ。あのストーカーが面白半分でつけた可能性もあるが、その時俺は冷静ではいられず声をかけた。
「お前、日本人か?」
「ッ!?」
驚いたように一瞬ビクッと震えてから恐る恐るクイーンは首を縦に振った。
「そうか・・・」
俺はそれだけ言って踵を返した。いくら魔物でも同じ日本人を殺すなんてことしようとは思えなかった。
まったく、【鑑定】の言う通りである。と言ってもそのままだと帰ることができなくなるのでなんとか別のことを考えよう。
そう思いながら今度はパルが煩いと言っていた奴のところに行く。難しい問題は先送りにして、先にある意味面倒くさい問題を片付けることにした。
〜ヴァイロ目線〜
腹にくる痛みとともに目を覚ました。あの大きなアントビーに気絶させられたのだろうが、腹の痛みは記憶にあるそれのどれよりも重たい。
殺されていないのが不思議だが、それよりも重要なことがあった。地に足がついていない感覚と浮遊感。俺は貼り付けにされていたのだ。
腹には赤色の物質が巻かれており、これが壁に刺さって浮いているようだ。ここはダンジョンの中、即ちこの壁は壊れるはずのないものなのにそれが刺さっているとは・・・。
隣を見るとサリア様も同じように貼り付けにされていた。
視線を正面に持ってくると聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「おい!お前何故こんなことをした!」
サリア様にお仕えしてから聞いてきたよく知る声、アナスタシアだ。
「聞いてんのか、おい!」
アナスタシアにしては珍しく気性が荒くなっている。
一体誰に話しているのかと奥の方に視線を転じると、最近知り合ったユウナギという男がそこにいた。少し見た目が変わっている。瞳は紅く、犬歯は獣の牙のように長く、あれは・・・
「で?さっきから煩いらしいけど何の用だよ。あんま精霊様に迷惑かけんな」
「オレだって精霊だ!あとこっち見て喋れ!」
アナスタシアの言葉にユウナギは何も言わない。ユウナギには火属性の適性がないためアナスタシアは見えないしその声も聞こえない。現にユウナギはアナスタシアの方を向いておらず、その横の方を見ている。
「はぁ、パル、翻訳してくんない?」
「そいつお前の言う通りなら相当口悪いんだろ?ソラに変な影響出たらどうすんだよ」
「さっきから聞いてるから手遅れだろ?」
と、今度は独り言を言い始めた。不思議な事だが彼もちゃんと対人で話している。いや、対精霊か。彼もサリア様と同じく精霊使いで毒属性の精霊がいるそうだ。先程言っていた精霊様、パル、と言うのがその精霊なのだろう。私には毒適性がないので見えないため滑稽に見える。
「はいはい、なんだそっちにいたのか」
「そっちでもねぇよ!」
今度はその精霊に通訳を頼んだのだろうが振り返る向きが逆でアナスタシアに背中を見せるようなことになっている。見えないのならありがちのことなのだろうが、指摘されてアナスタシアに振り向いた時の顔が笑いを堪えているようだったのでわざとだろう。
「テメェ、サリアと・・・ブ・・・ヴァ?ヴァイスに何してくれてんだ!!」
「・・・え、ワイロじゃないの?」
違う!ヴァイロだ!
「サリアとワイロに何してくれてんだ!!」
律儀に言い直さなくていいから。
基本サリア様以外には無関心だから仕方ないっちゃあ仕方ないのだが、仕え始めて数年も経っているので名前くらいは憶えて欲しい。
それは後からにして、その次の言葉だ。サリア様に何かやったのか?
「・・・何したか?助けたんだけど?」
「何が助けただ!蹴り飛ばして貼り付けにしたんだろうが!」
絶句する。この痛みと惨状はユウナギのせいだったのか。何より許せないのはサリア様もこれを味わっているという事。
文句を言ってやりたいが発声器官がやられているのか、掠れて声が出ない。
「・・・はぁ、何言うかと思えば。お前も見てたんならわかるだろ?そうでもなかったら今頃サリアもヴァイロも胃の中だったぞ」
どういう意味かはわからないが、やったことは本当だが善意もあったということか。
「だけど!蹴り飛ばす必要はなかっただろ!もう少し優しくすれば」
「・・・アホかお前。一人にそんな時間かけてられないだろ」
「結局サリアとワイロしか助けられてないだろ!」
「・・・それは結果論だろ。やれるかわからない状態で諦めるのは論理的にどうなんだよ」
アナスタシアの言葉が脳内で木霊する。サリア様と俺だけ?いや、ヴァイロだけど。そこじゃなくて、他のやつは・・・。
周囲を見回して初めて気が付いた。アントビーの死体の他に見覚えのあるものが転がっている。
レティにアルにマリアに・・・。居ない者もいたがユウナギの会話から食べられたのだと少しして気が付いた。人の命は軽い。そう知っているはずなのに心苦しくなった。
〜緋月 凪目線〜
こいつ面倒臭すぎるだろ。さっきから何やったとか何故やったとか、見てたんならわかるだろうに聞いてくるし、理由を言ってもだけどとかでもとか男らしくない(パルの喋り方が男っぽいから多分そう)。
そもそもあの時俺にはサリア達を餌として使って倒すという選択肢があったのだ。そんなの面白くないからやらなかったけど、助けただけ感謝してほしい。
「はぁ、面倒くさ。パルもういいよ」
「分かった。はぁ、疲れた〜」
パルが脱力する。聞くだけで疲れそうなやつの言葉を、演技を交えて話していたので尚更だろう。
因みに凄い上手かった。本物見えてないから分かんないけどウザさが伝わってきた。
肩に座って休んでいるパルを人差し指を使って撫でてやる。嬉しそうにはにかむ姿が結構可愛い。今度ソラにもやってみよう。
「ナギ、『おいどこ行く気だ。サリアが死にそうじゃねーか。助けろよ!』って言ってるわ」
パルがもういいと言ったのに通訳を始めた。なんでか聞いてみると「サリアとヴァイロが死にそうなの忘れてないかと思って」と返ってきた。別に忘れたつもりはないんだけど。
「治癒魔法使えないし無理じゃない?」
「ふ〜ん」
上級回復薬を知っているはずなのにそれを指摘しないということは・・・そういうことなのだろう。
「あ〜!うーるーさーい!」
パルが大声を出したかと思うと両耳を塞ぎだした。どうしたことやら。
「ナギに言っても意味ないと思ったのか、あの精霊が今度は私の耳元で叫び始めたのよ」
聞いてみるとそう言われた。なんて傍迷惑なやつなんだ。
「パル、疲れているところ悪いんだけど、また通訳お願い」
「・・・ナギ」
了承して直ぐに通訳してくれると思っていたので意外だ。何か話したいことでもあるのかと、少し待ってみる。
「・・・頭、また撫でてほしいの」
ちょっと恥ずかしかったのか最後に「あの、ご褒美、みたいな?」と付け加えてきたので了解の意を示しておく。どうやらさっきのが気に入ったらしい。
「『テメェの所為で怪我したんだろうが!』」
相変わらずあの精霊の言っている言葉は支離滅裂で聞いているだけで疲れる。
「何度も言っているだろう。そうしなかったら食われてたって。それともお前は大事な契約者が怪我をするより、食われて死んだ方が良かったか?」
さっきの話をぶり返してくるし、サリアはなんでこんな奴と契約なんてしたんだ?
「『そんなわけないだろ!だいたい、怪我させてなかったら食われてたとか言うけど、お前が先にサリア達を安全な場所に避難させていたら良かったんじゃないのか!?』・・・ストレス溜まってきた」
パルの限界が近そうだ。アナスタシアがそんなこと思うのだったら自分でやれば良かったのに、人に押し付けるとかないわ〜。
「安全な場所って言うけど、そんなんどこにあるんだ?ここはダンジョンでボスの部屋。扉は開かないし、この部屋にいる以上免れるなんて無理だろ」
パルは何も言わないから俺の言ったことが正論すぎてアナスタシアは反論できないのだろう。さっさと終わらせるためにもさらに追い込むべく言葉を投げつける。
「それにダンジョンに入った以上、あとは自己責任のはずだ。死んでしまおうともそれは自分の実力を測れない方が悪い」
「『だ、だってそれは・・・』だって。ふふっ、少し気分が晴れたわ。煩く無くなったしもう行きましょう。気になるんでしょ?あの魔物」
そりゃあね、気になりますよ。お互い種は変われど同郷ですから。
そこにいるんだろうアナスタシアを無視して背を向けた時声がかかった。
「ユウ、ナギ、はぁはぁ・・・少し、待ってくれ・・・」
目覚めてたのか。
それは息も絶え絶え、血反吐を吐きながら喋るヴァイロだった。




