79 デジャヴ
「ふぁ~あ」
遅い。【再生】終わるの遅すぎて暇。暇すぎて欠伸が出て来た。【再生】ってこんなに遅かったっけ?【高速再生】に早くも慣れてきたからかそんなことを思ってしまう。元に戻った時に基準がこれになったらヤバそうだな。
それは置いといてアントビーの外傷だが、口内も接続部も貫くつもりではやったけど実際やれてなかったし、部位欠損というわけでもなくただ繋げるだけだからそんなにかからないと思ったんだけどな。
そうやって何度目か分からない欠伸のため口を開くのと、アントビーが口を大きく変形させたのは同時だった。
「ふぁ!?」
欠伸の途中だったので驚いて変な声が出てしまった。
サリアの【炎閃】を相殺した毒のレーザーかとも思ったがそれは口を変化させる必要がないように思える。という事は――
刹那、ブラックホールという言葉があてはなる様な吸引力が襲う。
「血迷ったか?最初にそれを防いだ奴はお前が殺したやつの中にいないぞ」
“固化”を使い、またも壁を形成する。幸い血は腐るほどある。わき腹から流れた血だまりはそれほどあるのだが、貧血になってしまうかもしれないな。【高速再生】で血も元に戻らないだろうか。なんにしろこれで不意を突かれた攻撃は凌げた。ついでにこんなもんかと落胆した。だが次の光景でその感情はかき消えた。
「成程、面白れぇじゃねーか!」
狙いは俺を吸い込むことではなかったのだ。それを理解できたのはオルクスが吸い込まれた時。もう一つのオリジナルスキル、【食事吸収】(俺命名)だ。あれで一応オルクスは生きていた。他にもサリアとかチゼルとか、生かしているのが不思議だったが【悪魔吸血】が生き血じゃないと発動しないように、生きたまま食べないと発動しないのかもしれない。
あと生きているのは四人、チゼル、サリア、ヴァイロ、アル。さっきまで食べる素振りなんてしなかったのに 俺 を倒すより優先した。一見すると眼中にないと言っていると思うだろうが、その殺気は絶えず俺に向けられている。という事はここで眼中にないと思われているのはむしろチゼルたちの方で餌としか見られていない。
獲得できるスキルをすべて獲得して本気と言うなら、まさしくやつは俺を敵と認め全力を出しているという事。それは俺の望んだことだが、
「【無慈悲】なんて持っているけど、これでも元人間なんでね。胸糞悪くなるだろうから邪魔させてもらうぞ」
『だろう』と言うのは分からないから。いや、本当は分かっているんだけど認めたくないというか、元の自分を見失いたくないからと言うか。半ば自分に言い聞かせるような言葉だ。俺はこういうやつなんだと期待を込めて。自己暗示みたい。
壁を解いて駆ける。吸引される勢いと吸血鬼としての身体能力を合わせると強力な引力に引っ張られて飛んでいるサリア達に追いついた。アントビーから近い順にアル、チゼル、サリア、ヴァイロ。少しヴァイロを越した先で跳躍し、ヴァイロの顔前まで来る。そして俺は・・・思いっきり腹を蹴りつけた。
「ぐふっ」
慣性の法則にのっとってヴァイロは俺の蹴りつけたほうへ、俺は次のサリアの方に飛ぶ。蹴り飛ばされたヴァイロは壁に衝突すると、腹部を血が覆いその場に固定された。蹴り飛ばしたときに壁にしていた血を押し付け、腹部を始点として【アシュタロス】と【掘土】で壁に打ち付けたのだ。多少腹部がいたいだろうけど命が助かったので安いものだろう。
『そんなんだから【無慈悲】なんて獲得するんですよマスター』
「あ、【鑑定】話し終わったんだ」
『はい、大分前に』
パルとの話が終わった【鑑定】に咎められるがその間にヴァイロも吹き飛ばして話を逸らした。みな一様にうめき声をあげるが・・・まぁ大丈夫でしょう。
少し気づくのが遅れたせいかアルが食われてしまった。後はチゼルのみ。
間に合いそうにないため蹴り飛ばすのではなく手を伸ばす。アントビーが吸引力を上げた。緊迫した状況の中、チゼルの足を掴むことに成功した。が、同時にアントビーの口が閉じた。チゼルの上半身から上が口の中。
「デジャヴ」
放しはしないここで食う!と言わんばかりにアントビーが顎門を動かす。やべぇ、どうしよ・・・。
「あ、良い事思いついた」
「ッ―――!?」
瞬間アントビーが声にならない鳴き声を上げる。単に口内が偉い事になって正しく発生させる事ができないだけだろうが。
「ナギ、何やったのよ?」
「チゼルの血を使って本人を棘人間にしただけだけど?」
「あんた鬼!?」
不思議に思ったらしいパルに何をやったかを教えると当たり前の言葉が返ってきた。
「何言ってんだ、パル。そんなの当り前だろう?記憶喪失にでもなったか?」
「仮にも同じパーティだったやつにする仕打ちじゃないでしょうが!?」
「チゼルは良い奴だった。命と引き換えに強大な敵にダメージを与えたのだ」
「あんたが無理やりやったんでしょうが!」
失礼な無理やりやったのは確かだが、これ以上血が流れないように“固化”で止血もしてやったからウィンウィンの関係なのだ。一応死んでもいないから命も助けたことになるし、怒られるようなことはしていないと言いたかったが言い負かされる未来しか見えなかったので止めて置いた。
ここで【危機察知】がビンビン鳴る。そのうるささに思わず耳から入ってくるわけでもないのに片耳を押さえてしまう。
「うるさっ」
『マスター、前!』
アントビーを透け、口から見える紫の光。チゼルが一度痙攣し、肌が青くなっていったと思ったら生命が消えた。
「やば・・・!」
アントビーの顎を破壊して押し寄せる紫光のレーザー。それを見たのは一瞬だけで後は光で視界が包まれていった。
「ギギィィィィ!!」
渾身の【ブレス】でもって赤黒い液体となった好敵手を見て巨大アントビー、本来の種族名アントビー・デスソルジャーは咆哮を上げた。自分は勝ったのだと、女王を守りきる事ができたのだと歓喜に震えると同時にその敵を食えなかったという悔しさもあるがやはり前向きな感情の方が強い。
これでさっき喰いそうになった二人を食べれば自分はもっと強くなれると壁に貼りついている二つの影に歩みを進めようとする。
「―—――」
ふいにさっきからよく聞く、もう聞くはずのない声が背後から聞こえ、油をさし忘れた機械のようにギギギと首を後ろに向けようとする。
そこには口を三日月に裂いた悪魔がいた。驚きと恐怖で竦んでしまったデスソルジャーにその悪魔はためらうことなくそのトリガーを引いた。
「楽しかったぜ。【空間湾曲】」
一泊後、側面に魔方陣が現れるのが分かった。デスソルジャーの短い命はここで終わった。
危なかった。マジ危なかった。なんだよあれ、いくら【再生】があるからと言って口閉じてるときにレーザーなんて使うか?普通。最後にアントビーに言った言葉は本心だ。どんな怪我、例え部位欠損だろうと厭わず本気で向かって来る相手、こんなの楽しくないわけがないだろう。
そんなことを思っていると自然と口角が上がり、クククという笑いが漏れる。
「ナギ、何が起こったの?何で生きてんのよ?」
なにその死んだほうが良かったのにとか思ってそうな言葉。ニュアンス的にはただ疑問に思っただけなんだろうけど、言葉だけならそうともとれるよそれ。
『めがくらくらする~』
ソラはその仕組みの影響で目が回っているようだ。何も言わずにやったことに罪悪感を覚えながらソラに理由を話すついでにパルにも教えてやる。
まず、チゼルを捕まえたのは俺じゃない、血の人形だ。【口吸】を壁で防いだ時に“固化”で作り、“着色”で俺に似せ、“操作”で動かしていたのだが、パルを騙すとはなかなか上手くできていたんだな。
【肉体改造】に統合された【倣体】も地味に発動していたのかもしれない。そして血人形にはずっと【威圧】を発動させていた。アントビーが回復している時から発動していたためアントビーは【威圧】を放つ = 俺と思っていたのではなかろうか。そして本体の俺は【逸在】と【隠密】で気配を隠していた。全て隠せていたわけではないだろうが【威圧】に隠れているから問題ない。
ソラの目が回った原因だが、それは【血液支配】に増えた能力、“五感共有”。これによって一時的に本体の目と血人形の視界が重なって見えていたためだと思う。正直に言えば俺も酔いそうだった。
【空間湾曲】を使ったのは外殻もろとも破壊するにはそれしかなかったから。どれだけ硬くても物質世界にいる以上、空間自体が屈折すれば関係ないというわけだ。【鑑定】が提案してくれたことなのだが、詠唱に時間がかかるし、魔法陣を見てからでも回避できるので難しそうだと思っていたのだが、上手く隙を作る事ができてなにより。
「ねぇ、ナギ」
全部話し終わってあとはボスのクイーンだけだと言うところでパルから声がかかった。今思ったのだが別にあの巨体を倒さなくてもクイーンをサクッと殺しちゃってさっさと移動すればよかったんじゃ・・・。楽しかったから良しとしよう。
「さっきからあいつ煩いんだけど」
そう言ってパルが指すのは何もない空間だった。
もう少しでダンジョン編が終わる~。初期は40話くらいで終わるつもりだったのになぜこんなに多くなったのか。




