夕13 小っちゃくてもいいですか?
夕編待っていた皆さま、大変長らくお待たせしました!久しぶりの夕編ですよ。というのも、前回変なところで終わってしまったので始め方どうしようか迷ってしまって・・・。本編を待っていて下さった方すみません。
王都を出て二日ほど、帝都アストルティア・ケイネス領が見えてきた。本来竜に乗ってきたのならもっと早く来れる距離だったのだが、寄りみ――異世界の景色を堪能していたら遅くなってしまった。本当、異世界って何が起こるか分からないよなぁ。
因みに、王都を出た時の満月の夜【月光の両翼】の検証をしてみたが、大体予想通りという結果だった。発動中の魔力消費は予想よりも少なかったのは嬉しかったが翼以外に当たると怪我するし、副次的な攻撃に対しても無効にならなかった。
そしてやはりセフィに稽古を挑むと返り討ちにされた。
他のスキルについても色々試したが、有用なものが多かった。なぜオリジナルが・・・。
まぁ、それはいいとして、帝都に着くのにツグに乗ったままだと騒がれかねないので徒歩に切り替える。
「・・・むぅ、私はもう少し主殿を乗せていたかったです」
「おー・・・また今度お願いするわ」
「絶対ですよ!」
「私ももうちょっと乗っておきたかったかも」
「居たんですか?すみません脂肪が邪魔で見えませんでした」
辛辣!一方セフィはツグのその言葉は意に介した様子はなく、寧ろ得意げな顔で言う。
「ふふん、それは胸というのだよ。女の武器の一つ!男を落とすための。ああ、そう言えばツグちゃんはこれ持ってないねぇ」
さらに毒を返す。もう女の戦いって怖くなってくる。ツグは自分の胸に手を当て、セフィのそれと見比べてうんうん唸っている。
この中にいる俺って結構気まずいんだけど。
「あ、主殿、その・・・小っちゃくてもいいですか?」
瞳を潤ませながら上目遣いで聞いてくるのは反則だと思う。勿論話を聞いていた手前「なにが?」なんて反応は出来ない。俺はこの原因を作ったセフィを睨みつつ、こういうのは誤魔化すしかないと何かを喋ろうとする。
「お、俺のいた世界にはおっぱいスキーは勿論いたが脚フェチや匂いフェチなど様々な人種がいたんだぜ」
ツグがコテンと首をかしげる。セフィは笑いを堪えている。
「何が言いたいのかというとだな、つまり・・・そう、胸だけじゃないという事だ!」
そこでもう堪えきれないという風にセフィが声をあげて笑い始める。ツグは一瞬何を言われたのかという顔をしていたが直ぐに意味を理解し瞳を輝かせる。
「成程、女性は胸だけではないと、そう言いたいのですね」
最初っからそう言えたらよかった。ちょっと動揺しすぎたみたいだな。そして後でセフィには悪戯をしようと心に誓う。
「そうだ。ちょっとシノムラ君、こっち向いて」
「ん?」
不思議に思いながらセフィの方を向くとセフィはおもむろに詠唱を始めた。
「【幻視】」
その詠唱が終わると周りに光が漂い、すぐに消えた。
「なにしたんだ?」
「その黒い髪と目は珍しいからね。注目を集めるのは悪いんじゃないかと思って違う髪色に見えるように魔法をかけたわけ」
セフィが言うに、この世界で黒髪黒眼は非常に目立つらしい。その為普段は変装用に使っている違う姿に見えるような魔法を使ったのだとか。
抵抗されて認識される可能性もあるが、Sランクたるセフィの精神魔法を抵抗出来るのはBランクの中でも上位のものから上くらいしかおらず、居たとしても数人くらいなら騒ぎにはならないとの事らしい。
そんな雑談をしている間にケイネス領の外壁の門まで着いた。
外壁は王都に比べるとそこまで大きいというわけではないが、そこまで近づかずともわかる王都のものよりも劣らない精巧さを見て呆然とする。
「人族の国の中では帝都は結構有名な職人がいるからね」
セフィが様子を見て説明するのを聞きながら、門の方を見ると兵が立っているのが分かる。おそらく門番だろう。
「やっほー」
近づいていき、セフィが声をかけると門番は一瞬嫌な顔をしたが直ぐに元に戻す。
「やっほーではありません。Sランクの貴方がこんなところにいてもいいのですか?こちらには貴方が討伐しなければいけないような魔物は存在しないと思われるのですが」
「別に私がどこにいようと勝手でしょ?」
「貴方は自分の立場というものをもう少し理解してください。人類最高峰の力を持つようなお方がふらふらしていると――」
「お説教するためにここにいるんじゃないでしょ。ほらさっさと仕事してよー」
門番さんは頭に手を当てそれ以上は何も言わず、セフィの入国手続きをする。話を聞いているに、セフィってやっぱりこんな事している暇ないんじゃ・・・
「はい、通っていいですよ。そちらの方は——」
「私の連れだよ」
門番さんがまた嫌な顔をする。なんかセフィがすみません。
「身分の証明できるものは持っていますか?」
「一応スキルカードは持ってます」
「拝見しても?」
「どうぞ」
スキルカードは自分の提示したもの以外は映らないようになっているため、水晶にかざしたとしても今は名前と種族くらいしか分からないだろう。
「ありがとうございます。そちらの方もよろしいでしょうか?」
「その子はスキルカード持ってないよ」
門番さんがツグにスキルカードの提示を申し出るとセフィがカードを持っていないことを告げる。
「簡易住民票を発行するので発行量をいただけますか?」
「ホイホイ」
セフィが銀貨数枚を門番さんに渡し、それを受け取った門番さんはすぐ近くの小屋に入り、カードを持って出てくる。
「どうぞ」
「どうも」
そのカードをセフィが手に取るが、門番さんはその手を放そうとしない。
「くれぐれも、騒ぎを起こさないようにお願いしますね」
その瞬間この門番さんが何でいやそうにしていたのか俺とツグは悟った。
ケイネス領は活気に満ちていた。そう表現するのが当たり前なのだろう。だが俺はそうは思えなかった。いや、活気に満ちているとはいえるのだが、なんと言うか嫌な気持ちになった。
というのも、奴隷が存在するのだここには。
勿論奴隷がいることは王都にいる時から知っていた。そう習ったから。だが、聞いているのと実際に見るのとでは感情の昂ぶり方が違うのだ。
この世界では当たり前の事だと理解はしていれど、目の前で亜人だろうと殴られたり蹴られたりするのを見た時は憤怒で目の前が真っ白になった。
「私も奴隷がいない国から来たから気持ちは分かるけどね、この国にはこの国なりのルールがあるんだよ」
そうセフィに言われなかったらどうなっていた事か。
「それにしても、セフィにもルールという言葉は理解できたんだなぁ」
「確かに」
「皆酷くない?」
いやだって、しょっぱなから喧嘩売るような口きいたり、王様にタメ口きいたりするような奴だぜ?そんなん知るか!ルールは破るためにあるものだぜ!グハハハハ!とか言いそうじゃん?・・・流石にグハハハハとかは言わねぇだろーけど。
「私だってそう何度も怒られたり、職質くらったりしたら理解できるし!」
何度も職質くらってんのかよ!一回で理解しろよ!
「お、あれがダンジョンだよ!」
セフィが誤魔化した。だがダンジョンという言葉を聞いて流されて指さす方を見る。
「おぉ!」
指さす方向には大きな塔があった。不思議な模様の掘られた、天にも届くかというほど大きな塔が。カ〇ン塔みたい。
「凄いでしょ?」
「ああ。あっちに行けばいいんだな」
「あ、違うよ」
肩透かしを食らう。目的地があるのにそこに行かないのはなぜ?言いたいことが顔に出てたのか、セフィが理由を言う。
「ダンジョンに潜るんだから最低限の準備くらい必要でしょ?」
全くごもっともでございます。確かに何人も死ぬようなところに行くんだから、準備無しで行くようなことは避けるべきだ。しかもこれから行く【アシュタロス】、数年前に三十二層まで攻略されてからそれ以上の階層に行った者がいない様なダンジョンの中でも危険な部類に入るダンジョンなのだ。
「まぁ、適当に食べ歩きして、明日にでも潜りに行けばいいじゃん?ほら、旅の疲労もたまってるし」
俺達はツグに乗っていただけだが、ツグはスキルの検証しながら俺達も乗せて移動していたので、確かにツグのためにも急速は入れたほうがいいだろうので了承しておく。
しばらく歩いていると人が集まっている所に出た。皆ある方向を見ている。
「何があったんだ?」
人たちの視線の方向を見るとそこには少し高い台があり、その上に男が二人いた。一人は手を後ろにまわして俯いていて、もう一人は薙刀の様なものを持っている。
「あれは・・・どうやら処刑のようです」
「嫌な時に来たもんだね」
ツグとセフィがバツの悪そうな顔をする。
「処刑・・・だと?」
「そうだよ。その様子だとやっぱりシノムラ君たちの世界にはなかったようだね。と言ってもこっちの世界でもそんなに多くないんだけど・・・」
「あの人、何かワリィことやったのか?」
「悪いことしなきゃ処刑なんてなんないでしょ」
そっけないセフィの返答。死刑になる事なんて何があるのだろうか。俺達の世界でも死刑なんてそんなに聞く者じゃないのだが・・・。
「ご老人、ちょっといいかい?」
「ふむ、何用じゃ?」
「あの人の罪状はご存知でしょうか?」
納得いっていない俺の顔を見てセフィがすかさず近くにいたおじいさんに話しかけた。
「なんでもご領主さまの奴隷を解放しようとしたとか・・・いやはや、最近の若いもんは困ったものじゃのう」
その爺さんの言う事が信じれなかった。日本の歴史では奴隷解放は褒められるべき行為だったような気がする。なのにこの世界では・・・。
「シノムラ君落ち着いて」
これが落ち着いてられるかよ?無理だろうが。あの人は正しい事をしてる。なのに何で・・・。
「・・・そうだ。セフィ、お前さっき奴隷を解放しようとして職質くらったって言ってたよな。お前は何でそれだけで済んだんだ」
そうだよ。セフィが助かったんなら同じ様にすればあの人も助かるんじゃないのか。そんな淡い期待はすぐに裏切られる。
「私のは未遂だったし。なにより、相手が悪かったんだよ。この領の領主は獣人の奴隷が好きでね。そんな人の所有物を奪おうって言うんだから・・・」
無理、かよ。
歯を食いしばる。拳を握る。血がにじむほど力を入れても何もできない。その事が悔しすぎて。なんだよ勇者の連れって。今にも死にそうな罪のない人すら救えないなんて。
「主殿・・・主殿はあの人を救いたいんですか?」
ツグの声が聞こえる。そんなの当り前だ。何も言わず頷くとツグは少し微笑んだ。
「そうですか・・・セフィ、処刑人のランクとスキルを」
その短い言葉だけでセフィは何をしようとしてるのか理解し、「おいおい、マジですか」と言いながらも楽しそうな笑みを浮かべ、【鑑定】を発動させる。
「ランクはDだね。スキルに目立ったものはないけど称号に【処刑人】、死刑執行時中補正ってのがあるね。あとはあの薙刀、【切断】の刻印がしてある」
「それっくらいなら余裕ですね。・・・【身体装甲】【鉄壁】【守護】」
直後薙刀が振り下ろされる。人の首くらい簡単に切断できるような鋭利な刃物は、キンッという音と共に止まった。首筋のところで。
何が起きたのか分からないといった風に周囲が騒ぎ始める。そこで振り下ろされる前のツグの発動したスキルの意味を悟った。
簡単に説明すると【身体装甲】は種族によって装甲は変わるが、ツグの場合は身体中に鱗を生やすスキル。【鉄壁】は防御能力を上げるスキル。そして【守護】は指定したものへの攻撃を空間を越えて自分に向けるスキル。
つまりどれだけそのものへ攻撃したとしても【守護】を持つものがそれで死んだりスキルを解かない限り【守護】で指定されたものに攻撃が届くことが無いという事だ。
ランク的に言ってもDランクがB⁺ランクに傷つけることは難しいし、前者のスキルで防御能力も上げているので万が一も起こらない。
その後、その人物の処刑は次の機会に持ち越された。
更に千文字多くなりました。




