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73 魔改造始めようか

 現在、約三十六層。約と言うのは実はこの巣、中は立体迷路みたいになっていて上に登ったり下に降ったりそんでもって道が層と層の真ん中あたりにあったりとなかなか滅茶苦茶なのだ。


 まぁそんなところに居たら例え【空間把握】を持っていたとしても自分が大体何層付近にいるかなんて分かんなくなっても仕方ないよね。


 碌に休めもしないし。


 「チゼル、右」


 ドゴンッと言う音とともにまたドリルが出てくる。


 「っち。またかっ」


 チゼルがその剣技を持ってドリルによる攻撃を捌いていく。対応しきれないのもあるのか薄い傷跡をいくつも作っていくが、そこにサリアの騎士っぽい人――ヴァイロが加わり、隙を見つけては牽制の一撃を入れていく。


 他に視線を向けようものならその拮抗は崩れる。そう思わせるほどの勢いを持つ攻防。


 その攻防に水を差す影が二つ。一匹で来る方が悪いんだよと魔法が放たれる。


 「【毒槍】“操作”」


 高速でなされる攻防の中放たれる魔法は、下手をすれば見方を巻き込むことになる事になるかもしれない。それでも真直ぐ進むその魔法は相手に当たる事なく、かといって仲間に当たる事もなく地面に突き刺さる。


 ギチッ!?

 「よっと」


 その魔法が足元を捕らえた瞬間更に血糸が足に絡んでワーカーは怯み、チゼルとヴァイロはスイッチが押されたように反応しバックステップで後ろに下がる。

 その一瞬で赤色の魔方陣がワーカーに埋まるように浮かんだ。


 「【蓮火】」


 その言葉をトリガーとして魔法陣が爆ぜる。【蓮火】の魔法は陣の爆発。暴発ではなく、ちゃんと制御のされた魔法だ。至近距離、というか体の中から喰らえばいくらD⁺ランクだろうと無事では済まない。というのも、【蓮火】は【空間湾曲】と同じく座標攻撃型の魔法のため、魔法陣は物体を透過する。勿論それは魔方陣が発現してからでも回避できるので、まともにあてるのは難しいが、【毒槍】で怯んでいるて、なおかつ片足が封じられた状態で隙をついた攻撃だったのでなんとか吹き飛ばす事ができた。


 戻ってきたチゼルたちの顔色は見るからに悪い。不眠不休で働くブラック企業のサラリーマンの様な顔。


 「ハァハァ、それにしても・・・穴あちこちに開けてくれたり一匹で来てくれるのはいいんだけど、こう何回もあると休みの一つも取れやしないな」

 「・・・攻めてきても奇襲だけというのもいやらしいしな」


 チゼルもサリアやヴァイロも、Cランクの実力者なのだ。いくら奇襲と言えど、最初の一撃をもらわなければ対処の仕様はいくらでもある。


 が、本来なら疲労は溜まっても直に回復するのだが、このいつでも気を抜けない状況と終わりの見えない迷宮というのが物理的にも精神的にも追い詰めていっているらしい。


 『愚痴ってても変わりませんけどね』

 「分かってても愚痴らずにはいられないんだろ」


 【鑑定】(かんていさん)に適当に言葉を返しつつ、先ほどワーカーが空けた穴を覗く。そこには似たような通路が広がっており、例にもれずワーカーの軍団とかも見られなかった。


 「・・・ワーカーはなぜ単体で向かって来るのでしょうか」

 「不自然よね。一匹だけでも結構てこずるから単体で来てくれるのは嬉しいのだけど・・・」


 それが嵐の前の静けさの様な気がして落ち着かない、か。


 そもそもこれだけ探索して、奇襲してくるアントビーしか見ていないってどういう事だと思う?しかも奇襲に来るのは一匹。この巣の大きさからして数百、もしかしたら数千単位のワーカーがいないと作れなさそうなのに。


 「考えられることとしては殆どが死んだとか、来るべき時に備えて徴兵しているかよね」

 『考えるまでもなく後者でしょうけど・・・』


 パルと【鑑定】(かんていさん)が推測するが、どう考えても仕掛けるなら分かれて活動している今しかない。それが分かっているから二人共どこか自信なさそうなのだろう。


 『マスター、【空間把握】はどうですか』

 『ダメだな。第一ここは広すぎるんだよ。奇襲ワーカーしか見つからねぇ』

 『・・・そう、ですか』


 と言ってもただ広いだけで見つからないなんておかしいにも程がある。いくら何でも周囲六十メートル全ての魔物を感知できるのに奇襲以外その中に入らないなんてあり得るかよ。そういうのを妨害、又は感知するスキルでも持っていない限りそんなことできるはずがない。


 しかも襲ってくるのがワーカーだけと言うのも気になる所だ。ワーカー、つまりは働く者。どう考えてもこいつらは建築などの担当であり、戦闘系は他にいる事になる。それが襲ってこないというのも徴兵という事ならば頷ける。


 「今まで穴が空いたらその中に入って探索していたけど、もう穴を無視して進んだ方が出口に近い気がしてきた」


 サリアさんや、探索始めてからそんなに時間たってないですよ。それにそれは偏見ですよ。結局どっちに進んだ方が早いかなんて進まないと分からないし、ワーカーが通った道の方が早い可能性がありますよ。


 なんて口で言えないのは、俺自身ももしかしたらと思っているからなのだろうけど。


 「ああ、そうだな。じゃ、これからは穴は無視して進むという事にするか」


 どうやらチゼルは思考能力がちょっとやられてるらしい。悩む様子もなく素直に反応しているのがその証拠だ。思考放棄とも言う。本格的に休める場所を探す必要があるな。


 一行は穴を無視して進む。そこからどれくらい進んだだろうか。壁に突き当たった。


 「マジか・・・」

 「うそ・・・」

 「・・・」


 とはいえただの壁ならここまでの反応はしない。ただ戻って穴を抜ければ違う道に出るのだから。


 そこにはあるマークが浮かんでいた。迷わないようにという事でチゼルが来た道に魔力を込めてマーキングしたもの。つまりは一度着たことのある道。そしてさらに最悪な事にそのマーク、半分壁に埋まっていたのである。


 どうしてか。決まっている、ワーカーたちが新しく壁を作ったのだ、ここに。つまり、ただでさえ広くて複雑立体迷路なこの迷宮は、時間が経つにつれて内容が変わりマーキングが意味をなさないという・・・


 「どおりで着かないわけだな!」


 何たってここの魔物達はやろうと思えば最上階――四十層までの道を無くすことだってできるのだ。こんなもんどうやって攻略しろと?無理に決まってんだろうが!


 「・・・どうするのこれ」

 「下手したら絶対に四十層まで着かないんだろ?どうすると言ったってその可能性が無い事を信じて進むしかないじゃないか!ハハハハハハ☆」


 ここに来ての追い打ちでとうとうチゼルが壊れた。早々に休憩する必要があるな。ここで休憩するか?いや、壁が三つあるって事は注意する場所も三つって事だからやめた方が良いか。


 「取り敢えずさっきの穴のところまで戻ってそこで休憩を挟もう」


 穴の開いている方の壁を背にしてチゼルと俺が、その反対側の通路にサリアとヴァイロが座る。こうすれば余程勢いがない限り奇襲の最初の一撃は貰わない。不安は残るがそろそろ精神的な疲労が限界なので仕方ないだろう。


 それにしても、こうしている間にも迷宮内が変わっているなんて理不尽すぎるだろう。あーあ、もし一人で来たのなら【アシュタロス】で破壊しながらサクッと進めたのになぁ。


 ・・・


 忘れてた。いや、忘れてない。そうだその手があったんじゃん!どうして忘れたんだろう、忘れてないけど。


 チゼルはこっち見てないね。サリア達もあっちの通路見てるから見てない。よし、屍の魔改造始めようか。


 親指を噛んで自傷。毎回親指なのはその方がかっこいいから。出てきた血を“固化”で固めてパーツを作る。ドリルは欠かせないし、各装甲も追加。と、ちょっと工作しているみたいで割と楽しく作れた。


 それを屍アントビーにドッキング。ワーカーに似た形になった。ドリルくっつけただけだが。後は装甲。右肩にやたらとごつい装甲を、左肩には特に意味もなく針とかつける。腹部はどうするか悩んだ結果、取り敢えず千切って尻尾みたいな形のパーツをくっつける。


 悪乗りしてきた。しまいには羽ももぎって翼をくっつけ、胸部はさらに凶刃に頭部は機械的なシャープの掛けたスレンダーなものをくっつける。


 もはやこれはアントビーではない。新種の魔物である。


〈技量が一定に達しました。スキル【成形】を獲得しました〉


 やはり俺にはそちらの才もあったか、ふっ。


 「ユ、ユウナギ?それは・・・」


 チゼルが恐る恐ると言った感じで話しかけてくる。どうやらこの異形が何か知りたいらしい。


 「アントビーだ」

 「絶対違うだろう!」


 本当の事なのに。ただ魔改造しただけなのに。


 「進化と言うやつだ」

 「アントビーがどうやったらそんな姿のなるんだ!?」


 魔改造ですが何か?


 「とにかく俺達の新戦力だ」

 「怖いぞ!そんなものを創るお前が無性に怖いぞ!?というか正直に言うと最初から見てたからな!死体になんてことしてるんだユウナギ!」

 「何だ見てたなら説明なんていらなかっただろうが。こいつは今日、生まれ変わったんだ」

 「いや、死んだんだろう!?」


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