63 やだイケメン怖い
時間が無くて最後が適当になってしまった・・・。申し訳ありません。
「開いたぞ!!」
冒険者の一人の声が聞こえると同時に他の冒険者たちが一斉に立ち上がり、かけてきた。
どちらに?勿論吸血鬼のところに。
剣士や盾職がこっちに来るのは分かるがなぜローブを被った魔法使い風の奴までこっちに来るのか。初めにそう疑問に思ったが、エイリャという例がある。殴り魔術みたいなロマンを追い求める冒険者がいないわけがない。
【思考加速】で限界まで引き延ばされた感覚の中結論を出し、すぐさま戦闘態勢をとる。
武器を構えていない奴がほとんどだが武装は囮という可能性もあるし、【拳術】みたいなスキルも把持してる可能性もある。
油断なく構えていると冒険者が俺を避けるように左右に分かれていく。挟み撃ちを狙うつもりだろうか。
〈技量が一定に達しました。スキル【集中】を獲得しました〉
世界が色あせる。音が消える。新しく獲得したスキルのおかげかは知らんが今はどうでもいい。
【視覚強化】を使い、左右の冒険者も観察する。驚いたことに誰も俺の方を向いていない。探知系のスキルで俺を観察しているのか?
『・・・気、 感じ・・・・・』
前に視線を戻すと、一人無精髭のおっさんが真っ直ぐこちらに向かってきた。左右どちらにも避ける気配はない。
左右に展開したのこそ囮?本命はこの前の奴で周りを警戒している隙を突きつもりか?いや、逆もあり得る。もしかしたら俺がどう行動を起こそうともすぐに対応できるのかもしれない。ならばこの読み合いは無意味。
もともと考えるのは苦手なんだよ。ならばなるようになれ、だ。どうなろうとその時はその時考える。
『殺、・・・が・・・・・・・・』
それに数の利はあちらにあるが、一体倒すごとに俺の武器が多くなる。
多量の血を流す倒し方をすれば【血液支配】による手数が増え、拘束や死角からの刺突などいろいろな事ができるようになる。
正面に迫る冒険者との距離およそ五メートル。
極度の集中の中、【鑑定】の声がやっと聞こえた。
『殺気感じないって言ってんじゃないですかバカマスター!』
その言葉で集中が途切れ、途端に視界に色が戻り、耳に音が届くようになる。
「よっしゃー!」
「これで帰れる!」
「長かった。ホントに長かった」
聞こえてくるのは歓喜の声。決して吸血鬼を殺せとかそういうのではない。
頭に疑問符を浮かべ呆然とする。理解が追い付かないのか、はたまた気が抜けているだけのか。
いつの間にか正面に来ていた冒険者がそんな俺の手を取り、感謝を述べてくる。
「ありがとな兄ちゃん!これでこの階層から脱出できる!」
目を輝かせてそう言う冒険者に俺は動揺して「お、おぅ」と気のない返事を返すしかできない。
「おっと早くしねぇと扉が閉まっちまうな。お前さんも気をつけろよ!」
そう言って笑顔で去っていく冒険者を力のない目で見つめ、やがて扉が閉まるとさっきの騒ぎが嘘のように静かになった。
「何だったんだ今の・・・?」
「攻略を諦めてこの迷宮から出ようとしてたやつらだよ」
「っ!?」
ほぼ意識せずに放ったため息のような言葉に返す者がいた事に驚いてあたりを見回す。今まで気配とかは【空間把握】に任せきりだったので声の主をすぐに見つける事ができなかった。
その挙動が余程おかしかったのか、その者は笑いながら姿を現した。
「はははっ悪いな。驚いちまったか?」
そのいいように少しムッとしたがここで反論してしまっては逆に子供っぽい印象を与えるので睨みつけるだけに留めておいた。
そしてひそかに【空間把握】常時発動は必須という事を心に刻んでおく。
『そんなことしないで気配くらい分かるようにしたらいいのに』
パルの言う通りなのだがそんな簡単に出来るわけがないからと言い訳の様なものをしといた。
「あんたは行かなくてよかったのかよ」
「俺は帰ろうとしてたわけじゃないからな」
男はやれやれと言った感じで肩をすくめる。
挑発のつもりで言った言葉はすぐに躱された。お返し半分、乗ってきたら面白いな半分なのでそんなことは異に返さず、その男を観察する。
若い。二十代前半、もしかしたら十代後半くらいかもしれない。優男風のさわやかイケメンと言ったところか。屈託もなく笑うさまは好感が持てる。武装は片手剣一本。盾使わないのはどこぞの黒剣士を思わせるがアイテムを別空間に収納できるスキルは持っていないだろうから二刀流でもないだろう。
防具は身軽にするためか革のレザーアーマー。ここまで来れてるのだしそれなりの品質だろう。
え?俺?俺は大抵の傷は【再生】で何とかなるし、シエラに落とされた時もただ見るだけのつもりだったからしゃーないじゃん。
「ふーん。じゃ、何するつもりか知らんけど頑張れよ」
ここで立ち止まっているつもりもないし、ましてやこんなさわやかイケメンと一緒にいる暇なんてもっと無いので男の隣を横切ろうとする。が、それは男が俺の肩を掴んできたため強制的に止められる。
ってか肩痛いんですけど。
「何だよ」
「ちょっと一緒に来てくれないか?」
え、嫌ですけど・・・?
その言葉により先ほど考えていたことが脳裏によぎる。俺の盗伐。
でも少し考えるとそれはない事が分かる。冷静になる事ができた今だから分かるが外見は【倣体】によって牙を普通の長さにしているし【偽り】を発動させているため今俺を半吸血鬼だと知るすべはない。
だからこそこの男がなぜ俺に構うのかが分からない。全速力で振り切るというのも手だが、
「十中八九逃げ切れないでしょうね。【蝙蝠化】を使うなら別だけど」
この男には見えないのかパルは俺の中に入ることなく、肩に乗っている。
それはともかくパルの言う通り、男はどう見ても素早さを中心とした戦闘スタイル。対して俺は元の世界でもそこまで足は速くなかったし鍛えようとも思っていなかった。結果など見なくても分かる。
『次に考えられるのはかたくなに嫌だという事だが・・・』
『逆に怪しまれる可能性もありますね。ここは素直に従うのが良いかと』
ですよね。
「分かったついて行こう。でも行き止まりに連れて行って仲間とリンチ、その後俺の身ぐるみ全て剥いで魔物の餌・・・という事にはならないよな?」
「そんなひでーことしないって。俺はチゼル、よろしくな」
笑顔で右手出されたけどこれって俺も名乗らないといけないやつ?やだイケメン怖い。こうも簡単に情報を聞き出すなんて。なんてフレンドリーな奴なんだ。
「ユウナギ」
「ユウナギ?珍しい名前だな。異世界人か?」
前に名乗った偽名を言ったら即バレした。いや、まだだ。まだ確信を持っていないはず、ならば言いくるめてやればいい。
「親が二人とも異世界人なんだよ」
「そうか」
よしっ言いくるめれた。別に嘘は言っていない。この世界からしたら俺の世界の人間は全員異世界人だからな。俺はただどこで生まれたか言っていないだけだ。
・・・次の機会まで新しい名前考えとかないとな。




