60 揉んだら殴る
「ありがたく頂戴するが、ホントに良いんだな?」
右手に持ったペンダントをゆらゆらと揺らして聞く。
「勿論構わん。それを渡すために来たのじゃからな」
「そっか。ありがと」
俺がお礼を言うと精霊王は嬉しそうに微笑んだ。
「男の笑顔は需要無いぞ」
「老い先短い老人にもう少し優しくせんか」
あんた絶対俺より長く生きるだろ。化け物。
「では、儂はこれで失礼するとしよう」
言葉と同時に足元に虹の魔方陣が出現する。
どうでもいいけど、この魔法って転移かな?便利そうだから俺も早く覚えたいものだね。
精霊王が魔法陣に消えていく。肩くらいまで消えてからある事を思い出した。
「待てっ!美少女まだ見てない!」
『いつまでその話引きずるつもりなのよ!』
パルがそうツッコミを入れるが、よく考えて欲しい。精霊王が来た理由は俺が美少女はいないか!?と、言ったからなのでその事が解決してないのはおかしいと思うのだよ。
だが俺のその叫びは精霊王に届く事無く、魔法陣が消え去っていく。
「・・・美少女が・・・!」
『何よ美少女美少女って。・・・わ、私がいるじゃないの』
俺はパルの言葉を聞いて言葉を失った。
「・・・」
『?何よ・・・?』
「パルがボケに回るなんて初めてだなと思って」
『・・・さっさと魔物に食われて死ねばいいのに』
「おかしいな。この前聞いた言葉と真逆の言葉が聞こえたんだけど」
酷い言われようだよ。だってそうじゃない?いくらパルが可愛くても、小さかったら触手に絡めとられるなんて無理だし。
『マスターはもうちょっと女の子の事を考えてから言葉を発した方がいいと思います』
【鑑定】の手助けが!だがこれでパルの態度の原因が分かった。
「パルすまなかった。まさか女の子の日でイラついていたとは思わなかったんだ」
『もう、全身溶かされて死にたいんだったら早く言ってくれればよかったのに~。ふふふ。・・・【毒弾】』
毒が生成され球となり、それが浮かび上がる。狙いはミミックではなく俺。
ちょっと待って!今触手につかまってて動けないから!それまともに喰らうと割とマジで死ぬって!
『もうマスターはこの話題に触れないでください。・・・まったく、ホントは分かってるくせになんでわざわざそんなこと言うんですか』
・・・何のことかね?俺は思っている事を言ってるだけで別にとぼけてるつもりはさらさらないですよ。
それよりもまずこの状況の突破だな。いつまでも触手をまかれたまま会話するのもあれだし、麻痺消えかかってるし。
触手が痙攣してきてる。普通の麻痺だったらそれでも効いているように見えるんだけど精霊王のを見た後じゃあね・・・?
さて、その魔物を何とかするのが“空妖精のペンダント”なんだな。ここで使わずしていつ使う!
『さんじゅっそういこーは―?』
ソラの言う事ももっともだ。だけどな。今、この状況を、打開できるとしたらこれしかないんだよ。一応切り札はあるけど、そういうのってさ、どうしようもないときに使うから切り札なんだよ。ぶっちゃけ言えば【同一化】使ってみたい。
『まるで新しい玩具を買って貰った子供ですね』
なんとでも言え。とにかく俺は使いたいんだよ。
『一回しか使えないのに・・・』
「そんなこと言ってたらいつまでたっても使えないじゃん。精霊王が今渡したって事は今必要って事かもしんないし」
『もう好きにしたらいいわ』
パルが呆れたように言う。
「言われなくても。ソラ、いい?」
『いいよー』
空妖精のペンダントは空間属性の精霊としか使う事ができない。攻撃力的にパルと使いたかったから毒精霊のペンダントもくれても良かったのに・・・。そういうケチなところが嫌われる原因なんだよ。
よし。次あったらせびろう。
ペンダントを首からかけ、【同一化】と念じる。
瞬間あしらえられた宝石からそれと同じ水色の光があふれ、俺を包み込む。
不思議な感覚。自分の身体が分解され、同じく分解されたソラと交わって別の何かに変わっていく。
でも、嫌な感じは全くしない。
逆にソラの暖かさが伝わって心地いいくらいだ。
体の構成が終わり、光の奔流が止む。
〈【同一化】が完了。個体名緋月凪が半血鬼からブラットフェアリーに変化しました〉
〈【精霊魔法(空間)】の技量が上昇しました。スペル【空間湾曲】を習得しました〉
変化の成功を教えるかのように脳内でログが響き渡る。
どうなったのか確認したいが鏡なんて気の利いたものはなく、自分を見るすべがない。
しょうがなく顔以外を見てみる。髪はソラと同じ空色でさらさらと透けるような髪質。長く、おそらく腰くらいまで伸びているだろう。
身体が前に倒れるようにかかる重力。下を向けば、男のときには考えられないようなものがあった。胸。巨乳の域に達しているだろうそれを見て愕然とする。
服は透けそうで、透けていないという謎物質で作られており、胸を強調するような扇情的なものになっていた。
これは・・・考えたくないが女になっているという事だろうか?この分だと顔も相当美形・・・美少女になっていることであろう。まさかムスコが使うことなく消えてしまうとは。
そう思ったが時間制限がある事を思い出し、それはそれで残念なような気になる。
「精霊王の言っていたことはこれだったわけか。多分美少女だよな。ソラ可愛かったし。俺の遺伝子が少ない事を祈るばかりだな」
言っていて驚く。声が高い。ソラの声と全く同じというわけではなかったが、ソラの声がやや低くなった程度。完全に女の声である。
『揉んだら殴るわよ』
「揉まねぇよ。それをやったらただの変態じゃねーか。それにそうしたらソラに申し訳ないしな」
それを聞いたパルは「ふーん」と納得いってないような気のない返事をしたが、これ以上は何も言わない様なのでそれについてはもういいだろう。変にその事について色々言えば逆に怪しく聞こえるしね。
「【鑑定】、変わっている所をピックアップで教えて」
『私を便利機能と思ってませんか?』
「勿論違う。【鑑定】はそんな大層なものじゃないと俺は知っている」
『・・・もういいです』
【鑑定】が拗ねたと思ったが、その後変わったスキルは教えてくれたので、まあ大丈夫でしょう。
変わっていたのはまず性別。変化の影響か自分だけだが性別が分かるようになったらしい。察しの通り女になってました。
次いこう次。
アシストログで流れていたことだが種族が半血鬼:人、鬼からブラットフェアリー:妖精、鬼になっていた。詳しく見ると妖精と鬼。人が無くなっているのは分かるけど鬼は?精霊だけになると思っていたんだけど。
あと種族名ブラットフェアリーってさ吸血鬼からもってきてるのは分かるけど、何も知らなかったら鬼要素ないように見えるんだけど。
後はスキルが増えていた。
まず固有。【詠唱破棄】【魔力増大】【精密魔術】。・・・なんというか、ヤバいね。【詠唱破棄】は言わずもがな。【魔力増大】も凄い。感覚的に言えば今までの倍以上の魔力が流れている気がする。魔法連射しまくれるじゃん。
空間魔法も新しく増えていたんだけど、これもえぐいわー。
『【空間湾曲】確認できる複数の範囲を指定。その空間を捻じ曲げる』
これ多分攻撃系のやつだよね。早く使ってみたいんだけど!
そして【空間把握】の範囲が更に倍以上の百五十メートルまで上がっていたのが何気に一番嬉しかった。
ギュウゥゥゥ!
「ぐへっ!」
麻痺されたミミックが触手に力を入れ、俺を締め始める。耐久が上がっているのかあまり痛く感じないけど、急だったので思わず変な声が出てしまった。
恥ずいわ――・・・。
小説を書く→投稿→毎日書くことを決意→三日坊主→小説を書く→投稿→毎日書くことを決意→三日坊主の無限サイクル。・・・何だこの悪循環は!?誰かここから脱出させてください。・・・無理ですよね・・・




