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58 呼んだか?

 「なにこれ?」


 パルが俺たちの気持ちを代弁してそう言う。


 いや、だってそうでしょう。宝箱と思ったら魔物で、【鑑定】したらこれだぜ?


 『めっちゃ強いミミック

 ランク A

 種族 魔物、オリハルコン、箱、触手、神

 スキル

  オリジナル 【一撃必殺】【神化】

  エクストラ 【防御力上昇(大)】

  ノーマル  【堅固】【外殻】【毒霧】【麻痺霧】【酸霧】【拘束力】【粘着】【鉄壁】

  固有    【擬態】【偽装】

  耐性    【全耐性】

  スペル   【全魔法】

  オリジナルスペル 【最強砲】

称号 神、欺く者、勇者、魔王』


 どう考えてもおかしいじゃん。でも今はどうでもいいな。


 「ツッコミどころがあり過ぎるんだけど!?」

 「俺も言いたいことがあるから、まず先に言わせてくれ」


 パルがツッコミをしようとするのを制すると、分かったと言って俺がしゃべるのを待つ。


 俺にはこの魔物が本性を現したときに言いたかったことがある。それを言ったとしてだからどうしたと言われるかもしれないが、どうしても言っておきたかったのだ。


 スーハ―、スーハ―


 深く息を吸い、十分な酸素を確保してからその妄想を口にする。


 「おい!どこかに美少女はいないか!?」

 「ステータス見てから言う台詞じゃないでしょう!?」


 だって触手だぞ?美少女に絡まるのがセオリーってもんだろ。


 「美少女に絡まない触手があってたまるか!」

 「あんたの頭の中どうなってんのよ!Aランクなのよ!?今まで戦ってきたのとはわけが違うのよ!」


 パルの言う事はもっともだがこればっかりは譲れない。


 他の冒険者たちと一緒に攻略しようと思っていればこんな思いせずに済んだのに・・・過去の自分を殴ってやりたい。


 「こいつもこいつでなんなんだよ。なんで美少女がいないときに現れるんだ。憎たらしい」

 『マスター、それ理不尽ってやつですよ』


 そんな無駄なおしゃべりをしてるんだけど、よく考えてみたら今の状況拙いんだった。俺は触手に絡み取られた状態だったわけで。俺らが仲良くだべっている間何もしないなんてありえなかった。


 触手が俺を振り回す。縦に振って地面にたたきつけ、横に振り壁を引きずる。十層のときよりも激しく打ち付けられ、もはや生きているのが不思議なくらいだ。


 そう。不思議。


 なぜAランクの力を持っているのに俺はそれだけで済んでいるんだ?普通なら一気に死んでいる。たとえこの魔物がAランクの中でも攻撃力が最弱の魔物だったとしても、【一撃必殺】がある。

 その名の通り一撃で殺す事の出来るスキル。しかもこのスキル、常時発動型なのだ。どんな攻撃でも一撃必殺の大技にする事ができる。


 さっきから思いっきり攻撃されてるんだけど何で死んで無いのよさ?


 思えばこの魔物にはおかしな点が多すぎる。


 まず、名前に副詞が入ってること。まるで子供が自分で考えた生物に名前をつけたかのような幼稚な名前。


 本来ならDランクの魔物がいる階層なのにAランクというあり得ないほどの高ランク。その割に攻撃力は小さい。


 【全魔法】や【全耐性】など存在しないような属性の魔法や耐性。


 おまけに【勇者】であり【魔王】。矛盾しているし、【勇者】は霜月さんで【魔王】はシエラ。称号の【勇者】と【魔王】は同世代に一人ずつしか存在しない。


 あり得ない事ばかり。そして至った。答えに。【偽装】のスキルに。


 『【偽装】自分に対するあらゆる情報に嘘の情報を混ぜる事ができる』


 つまりこいつはこのスキルを使って自分を強く見せかけているだけなのだ。

 おそらくこいつはDランクの魔物。


 種が分かれば怖いものはないな。


しいて言うなら【鑑定】でスキルが分からないことくらいだが、そんなの【鑑定】(かんていさん)がダメダメな時からそうだった。

 それに、【偽装】を隠して無い事から持っているスキルにあり得ないスキルを足した可能性が大きい。俺なら種がばれないように【偽装】は他のスキルに変えるからな。そうしないって事は持っているスキルの名前を変えたりできないか、


 「ただのバカか、だな」


 そう言った瞬間に触手がさっきよりも荒々しく振るわれる。そしてそれと同時に【怒】なるスキルが魔物に追加される。


 まさか俺の言葉を理解して怒ったという事だろうか?だとしたら相当知能が高い。【偽装】なんて相手を惑わすスキルを使うのだから当たり前か。

 ま、その知能も【怒】を使ってしまった以上無いようなものだが。


 それにしても痛いわ!さっきから何回ぶつけられたと思っていやがる!【思考加速】使って考えてたからそこまで喰らってないけど痛いもんは痛いんじゃい!


 振りまわされながら触手から逃れようともがく。が、


 「抜けん・・・」


 【怒】のスキルで倍増された力の前に俺の力は小さすぎたのだ。


 『ちょっと!そのまま死んじゃったりしないでよね!』


 パルがいつの間にか俺の中に入ってきていて、【念話】で話してくる。


 「ちょっと拙い」


 俺の力は無力に等しい。だって触手少しも動かないんだも・・・っあ、ヤバい意識飛びかけた。【痛覚軽減】のおかげで痛みは抑えられてるけど、限界って事かね。


 あーあ。こんな時漫画やアニメみたいにヒーローが登場したりしてくれないかな~。


 無理ですよね。


 「む、呼んだか?」


 虹色の魔方陣が広がり、その中から出てきた老人がそんなことをのたまう。俺とパルは声をそろえてこう言った。


 「『呼んでねーよ!(ないわよ!)』」


 色彩豊かなローブを着、十二対の羽根を生やした老人、精霊王が懲りずにやってきた。


ネタは浮かんでるのに文字にする事ができない・・・これが俗にいうスランプ!?あ、違いますよね。

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