56 やっぱあと五秒
今この瞬間時間が止まって、明日が来なければいいのに・・・。
二十九層。毒の湖は変わらず、そこに橋のように足場がかかる感じのもの。
てかさ、どう考えても二十八層の方が難易度高いでしょ。
バカなの?あ、バカだったわ。
【空間把握】を発動してみると・・・いるいる、ラ・ブシュード。完璧に【擬態】してるからか、ほとんど毒の海の中にあるからか【鑑定】出来ないけどあれは間違いなくラ・ブシュードだわ。
他にも天井には蜘蛛型の魔物、橋の上には岩の中に混じっている魔物。たぶん【擬態】持ち。てことはさっきの答えは後者だね。
ラ・ブシュードが【口吸】で下に向く風を作り、岩の魔物が挑戦者を落とすって奴だろうな。岩なら質量もあるだろうし【口吸】で吸いこまれることも無いからな。蜘蛛は分からん。
取り敢えず一歩・・・
ズドンッ!!
踏み出した途端に何かが降ってきて俺が今まで立っていたところに直撃する。
怖っ!歩こうとしてなかったら潰されてただろ!ズドンってなんだよ!単なる岩が落ちてきた音じゃないぞ。
やはりというかなんというかその岩が動き出した。
ピシピシッ
なんか嫌な予感。
『その予感、当たりですよマスター。
アシュタロス・ロック
ランク E
種族 魔物、鉱物
スキル
ノーマル【落体】【堅固】
固有 【擬態】【アシュタロス】【岩殻】
耐性 【毒耐性】
称号 なし』
ああ、やっぱり【アシュタロス】持ってんすか。そうですか。・・・逃げよ。
階段の方に背を向けた瞬間橋が目に見えて瓦解し始める。岩が落ちてきたところを起点として崩壊が起こる。
ちょっと待って!もうちょっと時間くれても良くない!?ほらクラウチングスタートとってないから。スタートはオンユアマーチ・セット・アゴーだよ!決して背を向けた瞬間にスタートとか運動部みたいなんじゃないから!
そんな訳も分からないこと考えながらも走る。そんなことを考えながらでもなんとか逃げきる事ができるくらい俺の足の速さが進化してるってのが凄い。
このままいければ大丈夫・・・と思ってたんですけどそんなことにはなりませんよね。ハイ。
一気に崩れていくスピードが上がる。そのわけは、まぁラ・ブシュードの【口吸】。壊れて瓦礫となった橋の破片が凄い勢いで吸い込まれていく。それと一緒に更に瓦解が進む。
そのせいで逃げ切れそうだったのがギリになった。
そして目の前には三体の岩。言わずもがな魔物である。
『ミミック・ロック
ランク E
種族 魔物、鉱物
スキル
ノーマル 【落体】【堅固】
固有 【擬態】【岩殻】
耐性 【酸耐性】
称号 なし』
スキルは少なかれど、その強さはEランクのもの。更にそのスキルのうちの実に約半分が防御系の能力。それが死をものともせずに襲い掛かってくる。
攻撃はあり得ない。その防御力を突破できるとは思えない。じゃ、回避?それも無理。回避するときはいやがおうにも少しスピードが下がってしまう。そんなことをしたらただでさえギリギリで逃げていたのに、遅れが来てしまう。
ならどうするか?避けてもらえばいいじゃない?
【息吸】で空気を吸い込み、【放射】で吹き飛ばす。そのとき【麻痺霧吐息】を混ぜれば簡単に吹き飛んでくれる。
鑑定結果に【毒耐性】ではなく【酸耐性】と出ていたので聞くと思っていたんだけどやっぱり効きますね。
そしてそのままゴー。
そのときふいに気になったので今吹き飛ばした岩がどうなったのか【空間把握】で見てみる。
すると驚くべき事が分かった。いや、そこまで驚く事ではないけど。蜘蛛が【糸】で岩を回収していたのだ。
いやー凄いね。だからそれをこっちに狙って投げようとするのは止めてくださいお願いします。
投げられた岩が崩れかけの橋に当たって、更に瓦解が進む。
ちょっと―!止めて!落ちるから―・・・あ、俺も蜘蛛みたいにすればいいじゃん。
そうと決まったらいざ、飛ぼう!・・・
あの、怖いんですけど。毒の海に間違って入ったらと思うと・・・ってもうここまで崩れかけてる!行くしかないのか・・・?
『さぁ、マスター!男を見せてやってください!』
『くれぐれも落ちないでね』
『なぎじゃーんぷ!』
男を見せる?成程。これは勇気を試そうという事ですな。やってやろうじゃないのよさ!さぁ行くぞ!ジャンプまで三秒前。三、二、一。やっぱあと五秒。
『マスター早く―』
『さっさとしなさいよ、ウスノロ』
あ、ハイ。
飛び込む。と、同時に橋の崩壊がつい先ほどまで立っていた位置を過ぎる。五秒待ってたら死んでたわ。
ま、今も死にそうですがね。
いや、これどうするよ。飛んだはいいけど、どう壁にくっつくよ?【側面固定】で壁にさえたどり着けばいいんだけど、問題はどうやってたどり着くかなんだよね。
こうなったら全部まねるか。【糸】で何とか・・・あ、出来ませんね。俺の【糸】操れないから無理ゲーだわ。
とか思ってたら目の前に壁があった。何言ってるか分かんないだろうけど壁があった。
橋から壁までの距離は近くない。もっと言えば遠い。橋から飛んだくらいで届く距離ではない。ならなぜ?
『おーなぎ、だいじゃんぷ!』
ソラさんこんな時もぶれないのは流石。
『やるわね、ソラ』
『ソラちゃん凄いです!ねっマスター』
えっと・・・あ、【空間短縮】ね。うん、分かってましたとも。
【空間短縮】確認できる範囲の空間二つを指定。その間の距離が短くなる。なお、その空間は短くなったように見えない。
「ソラありがと」
『うん!』
『なんか納得いかないんだけど』
パルがそういうけど何故そう言ったのかは分からない。
その後は【側面固定】の応用を駆使して壁を移動し、階段を目指す。
距離は長かったし、途中蜘蛛型の魔物が襲ってきたり、岩が飛んできたり、ラ・ブシュードが吸い込んできたり。何度もめげそうになったけど何とかたどり着いた地面。水を得た魚のごとく地の利を得た俺はイラついていたので取り敢えず襲ってきた奴らを虐殺しといた。
【恐怖の象徴】の効果か、途中から魔物が寄り付かなくなったけど【隠密】と【逸在】をフル活用してわざわざ【側面固定】も使って殲滅しつくした。
そのおかげか【側面移動】に進化した。【悪魔吸血】も使いまくったおかげか他のスキルも進化したし、ウハウハだ。
・・・あれ?【異空間収納】使えば良かったんじゃね?
まぁ、進化したし十分プラスだから問題ないよ。そう思わないとやってけない。
(訳)明日から学校!?いやだ!冬休み終わらないで!




