夕12 荷物当番が決まりましたね
「は?いきなり何言ってんの?」
思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
「そんないきなりというほどじゃないでしょ?私はシノムラ君が強くなるにはいずれここを出ないとなって前々から思ってたんだよ」
「そうか、でも今日から午後も稽古できるようになったってのにもう出るのか?」
もう少しここでやっていても・・・いや、ダメだな。確かにその通りだ。自分の考えがどれほど生温いか思い直す。
魔王を倒すのならばそれこそ年単位の時間、修行する必要がある。
何たって相手はSランク。しかも同じSランクであるセフィも倒す事ができないという強さである。
俺風情が勝てるわけがない。
「まず、存在値をためるというのが一番の理由」
存在値をためるにはスキルの獲得のほかにも方法がある。
殺す事。
いや、人殺したりするわけじゃないよ?
ただ魔物を倒す。勿論人を殺してでも存在値は溜まるが、俺はそんな狂人になるつもりもない。
ついでに言えば溜めるのは俺だけじゃないらしい。ツグもだ。
俺は人族で、その上の仙人。
ツグは竜種でその上は龍種。世界最強種の一つ。かっこいいじゃないか。
俺は種族的な問題として、ツグはもうB⁺までなっているため進化するにはたくさんの存在値を必要とする。
まあ、基本的平和ボケしてる日本人がこの厳しい世界で生きている人たちより先に進化するなんて考えられないが。
スキルの技量を上げたり、根本的な戦闘の技術を上げたりしつつ倒していけば進化はしなくてもそれなりに強くなるだらう。
だがここで問題が出てくる。
魔物何処にいるんだよと。
当然ここに魔物なんていないし、更地に行っても弱いのばかり。だが、
「だったら魔物が多くいるところに行けばいいじゃん」
「ぶっちゃけ言おう。冒険したい」
ほんとぶっちゃけたな。
まぁ、セフィからしたらここに長居しているのもつまらないのだろう。
それに、ここから出ても午後も稽古できることに変わりはない。
「成程ね。で、他の理由は?一番と言うくらいだから他にもあるんだろ」
セフィが言っていた言葉を思い出して少し疑問に思ったため聞いてみた。
「行ってみたいところがあるんだ」
セフィの行きたいところ。それはダンジョンなのだと。
ゲームとかではレベリングにもうってつけだったなと思い出す。この世界レベルなんて無いけど・・・。
ダンジョン。確か凪が魔法学園の次に推してた場所だ。
そう思うと魔法学園にも行きたくなってきた。もしかしたらなんだかんだで凪は魔王から逃げ出せていて学園にいる・・・なんてことはないだろうけど凪だったらもし逃げ出せたら行ってそうな気がする。
「と言うわけでダンジョン行こっか」
「何が、というわけなのか知らないけどダンジョンに行きたいのは分かった」
「ツグちゃんはそれでいい?」
「私は主人殿と一緒ならどこでも構いません」
うん。言うと思った。
「と言うわけでダンジョン」
「でもダンジョンと言っても色々あるんだろ?。何処に行くんだ?」
セフィはそんなもの勿論決まってるという風に、
「近いとこにしよう」
「うん。だと思った」
思考がかぶり始めてた。
「だから、これかこれかな?どっちがいい?」
セフィが地図を机の上に広げる。
俺らがいるのはその中でも一番大きい国だろう。ウエスタリアって書いてある。
因みに王宮はその国の一番南に位置するところの様だ。
普通こういうのって中心にあるものじゃないの?王がバカだった可能性は・・・よし、これ以上は失礼に値するからやめよう。
セフィが指で指すのはウエスタリア南部の近くの国と王宮の反対側、北部の方の国出てすぐのところ。
どちらも距離的にはあまり変わらなそう。それだけでこの国の大きさが異常だと分かるね。
【アシュタロス】と【フラウロス】と言うらしい。
何かどっちも聞いたことある。凪からだったかな?どうでもいいか。
「じゃ、【アシュタロス】で」
なんかかっこいい名前だったから。
「で、いつ行くんだ?」
「じゃ、明日・・・いや、やっぱ今日」
明日と言った瞬間、セフィは考えを取りやめた。
「急ぎ過ぎじゃないか?外暗いし」
「いや、暗い方がいい。昼だったら見つかる可能性があるし」
「【空間転移】使うならバレないだろ」
空間魔法が使えるセフィは【空間転移】という魔法で一瞬で移動することが出来る。それを使えば何事もなく出来るのだが、そんなん使ったら旅できないじゃん、とセフィがニコニコしながら言ってくる。
「今回はツグちゃんに乗って行こう」
なんでだ、と首を傾げようとして俺も今日がなんの日だったか思い出す。
「今日は満月だから」
満月。つまり【月光の両翼】が使える日だ。
確かにあまり使えるスキルじゃないが技量が上げれるなら上げといたほうがいいだろう。
「じゃ、準備できたらシノムラ君の部屋に集合ね」
なんで俺の部屋。別に良いけど。
さて準備しようか。
と、荷物をまとめているのだがセフィが一向に部屋に戻ろうとしない。
「セフィ、準備は?」
「【異空間収納】に荷物全部入れてるから」
何その便利魔法!?
「主人殿、荷物当番が決まりましたね」
あ、それいい。
~霜月理須奈目線~
その日も昨日や一昨日の様に起きて稽古をして寝て、それが繰り返される日だと思っていた。
私が稽古を終え、大理石の廊下を歩いている時にそれは唐突に来た。
〈スキル【エクスカリバー】が消失しました〉
〈スキル【エクスカリバー】の消失により、条件に当てはまらなくなりました。称号【勇者】が剥脱されました〉
〈条件を満たしました。称号【勇者の連れ】を獲得しました〉
「え?」
無意識につぶやいたその言葉が大理石の廊下に木霊した。
次からは本編に戻ります。最初時間軸が夕編が遅くなっていたから本編を少なくしていたというのに、いつの間にか本編の時間より進んじゃいました。
夕のキャラに合わない為、城を出よう言うのをセフィに変え、だいぶ変更してしまいました。
作者の勝手な都合で改稿してしまい申し訳ございません。




