夕2 凪は何なんだよ
~篠村夕目線~
稽古の時間になった。
昨日は一人一人に騎士の人が付き添って稽古をしていたけど、今日いたのは二人だった。
騎士団の人達は魔王にやられた。この王宮にはもっとたくさんの人がいるが見張りや周囲の調査など他にも仕事があり、俺らの稽古にまわせる人がいないのだ。
一人は王国近衛騎士団団長エリオス・リスファー。
彼は昨晩は王の護衛をしており魔王と対峙していない。逃げたように見える人もいるだろうが、緊急時の護衛というのはとても重要だ。もし魔王の目的が王なら護衛は王を守りながら戦わないといけない。一番難しい役割だ。
そしてエリオスさんはSランクの実力を持つ。
この世界では強さをランクで表すことがある。下からG、F、E、D、C、B、A、Sの順である。特にSランクはこの世界で屈指の実力を持つ。
因みに魔王も当然Sランクである。
だがSランクといってもそれ以上のランクが存在しないため、たとえ同じSランクでも強さに圧倒的な差があったりする。
魔王とエリオスさんが戦えば確実に魔王が勝つそうだ。
もう一人は知らない人だ。
見た目は二十歳いくかいかないかくらいの女性で、身長は俺より少し小さいくらい。防御より素早さ重視なのか軽装で動きやすい服装だ。そして最大の特徴は耳が長いく尖っている事だろう。本で見たことがある。確かエルフという種族だったはずだ。
つまらないのかたまにあくびをしたりしている。
だが、強い。エリオスさんよりも。なぜかそう思ってしまった。そして同時に【勘】が発動したような感覚がした。
俺がこの世界に来てから二日しかたっていないがこの【勘】が外れたことがない。攻撃しない方がいいと思ったときは相手がカウンターを狙っていた、というのもあった。
だから俺の【勘】が発動したときにそう思ったという事はこの人は間違いなくここの中で最強だ。
「知っての通り騎士団は魔王にやられて動けない。代わりに私と彼女で君たちの稽古をすることになった。彼女もSランクの冒険者で本来ならばこんな事にてこでも参加しようとしないのだが、交渉の結果条件付きで君たちの面倒を見ることになった」
「ん。名前はセフィ・ウラノス。・・・で?あと何言えばいい?」
「それくらい自分で考えろ」
「じゃ、それだけでいいわ」
セフィさんは面倒くさげにそういう。その言葉にイラついたやつがいたのかピリピリとした感情が俺にまで届く。
二手に分かれて稽古することになった。
俺はセフィさんに指導してもらうことになったが霜月さんや知ってる人と離れてしまった。唯一弘斗と離れた事だけは嬉しかったが。
「じゃ、みんな適当にスキルの練習して」
そう言われても俺たちが持っているスキルは本来日本にいるなら使わなかった代物。そのため使い方が分からない。
それをじゃあやれと言われてできるわけがない。当然不満を持つ者が現れる。
「スキルの練習はいいけどさ、俺ら使い方分かんねーんだよ。一人ひとり教えてくれよ」
やはりか。あいつは弘斗の腰巾着で短気な奴だ。弘斗と同じ班じゃなかったのでイラついてたのだろう。
「あなたたちのスキルよ?しかもオリジナル持ちもいるそうじゃない。私が分かるわけないでしょ?」
「ならスキルじゃなくて剣術か魔法じゃダメなのかよ」
「却下。例え剣術か魔法を教えたとしても、君たちのスキルとの相性が合わないといくら元がいいとはいえそれじゃあ強くはなれない」
「じゃあ、あんたに俺らのスキルを教えればいいんだろ」
「それも無理。スキルを見る水晶を私は持ってない。口伝えでもいいけれどとても時間がかかる。スキルの効果を聞いてそれに合った技術を教えて実践させる。それを一人分やるのにどれくらいの時間がかかるか分かってる?その間待ってる人は?何もやることがないじゃない」
言い争いはセフィさんの勝ちの様だ。だが次の瞬間セフィさんの口から爆弾発言が放たれる。
「私の言う事が聞けないと言うならエリオス君のところに行ってくれて構わない。もともとそういう約束だから」
「そうかよ。じゃ、俺は行かせてもらうわ」
「じゃあ、私も。弘斗君別れてたからこれで一緒に出来るー」
その言葉を聞いてみんなエリオスさんのところに行った。
残ったのは俺だけ。
「君は行かないの?」
「俺一人なら時間全部使えるんすよね?それにSランクの冒険者を独り占めできるんだから残らない理由がないじゃないっすか」
「ふーん。分かった。よろしく。・・・えーと・・・」
「篠村夕です」
「シノムラ君ね。じゃあ、シノムラ君【精神耐性】って持ってる?」
「持ってないっすけど。・・・って精神に直接ダメージがいくような事するんすか!?」
「いや、まだそういうのはしないけど」
まだなんだ。そのうちやるんだ。選択、間違えたかな。
「今私は【精神魔法】を使っていたんだけどシノムラ君には効いてなさそうだったから」
何のために使っていたんだそれ!?
「ちょっと怒りっぽくする魔法だったんだけどほんとに効いていなかった?」
「怒り?すいません、稽古のことしか考えてなかったんですよねー。何のためにそんなことしてたんすか?」
「稽古の事って・・・あなたってマイペースなの?」
俺がマイペース?まさか。俺がマイペースだったら凪は何なんだよ。
「私、どうせ世界を救えないような子たちを育てるなんて無駄なことはしたくなかったの。だから私の稽古が嫌な奴はエリオス君のところに送る事と私が教えるはずだった子達がみんなエリオス君のところに行った時は辞退するという条件でやってたの」
それで手っ取り早く怒らせてエリオスさんのところに行くようにしたということか。
「シノムラ君、君の目的って本当に魔王を倒す事?」
「違いますね。何故そんな事を?」
「【精神魔法】を抵抗するほど強い意志を持っているような人がこの他の人達に意見に流されて魔王討伐なんて思えなくて」
「そうっすか。それより早く稽古しないっすか?スキルを使うところからでしたよね」
「切り換え早いね」
凪を助けに行きたいからな。こんなことをしている暇ねぇし。
「ところで君の目的って何なの?」
「まーまー、そんな事今はどうでもいいじゃないっすか!」
「えー!おーしーえーてーよー!」
ウザいなこの人!?教えなかったらずっとこんな感じなんだろうな。
「分かった。分かりました!今は稽古したいんで、後で言います」
「本当?約束だよ」
はぁ、この人は何でこんなに楽しそうに笑ってんだ。
あれっ?そういえばこの人さっきまでつまんなそうにしてなかったか?
ま、いいか。それより早く強くならないとな!




