夕14 酷い!
お待たせしました。やっとテストが終わったのでまた再開できます。
「あの人を助けようと思う」
宿屋について最初の言葉がそれだ。
「何言ってんの。本気?」
どうやらセフィは反対のようだ。
「本気だけど」
「国家に喧嘩売るんだよ。それはこのケイネス領だけじゃない。帝国全体、その価値観をどう考えてーー」
セフィの説教みたいなのが始まるけどよく考えて見てほしい。
セフィも助けようとして怒られたって言ってたじゃん。どうせそう言ってものらりくらりとかわされるのが目に見えてるから言わないけど。
「もう、あの人の処刑を中断させた時点で手遅れじゃねぇの?」
「・・・それもそっか」
意志弱すぎるだろ!
「でも、三つ言わせて。第一にさっきからも言っているけどどうやって助けるのか。第二にその人の性格は、本当に助けるに値するものなの?第三に助けた後のことは考えてる?
一つ目は言うまでもなく難題だろう。警備は厳重だろうし、見つかれば俺、もといクラスの勇者たちの人格が疑われる。
二つ目は奴隷を解放したからと言ってそれは善意からか、という事か。多少裏があってもいいだろうが、自分の奴隷が欲しかったけど高いから買えないとか、その・・・いやらしいことにつかうとか。そういう悪意でもって盗もうとしたのかもしれない。それを確かめずに助けていいものなのか。
三つ目は助けた後指名手配される可能性。そんな事されては人の住むところでは暮らせない。人里離れた場所で自給自足?魔物がはびこるこの世界で?
以上のことからセフィは反対しているのだろう。その顔は真剣みを帯びている。こと命にかかわることとなればこんな風に真剣になるのはセフィのいいところだと思う。後ほんの少し通常でそれが混ざっていたらどれほど良かったか。
まぁ、なんと言われようと自分の考えを変えるつもりはないのだが。
「一つ目はともかく、後の二つはその時考えればいいんだよ」
難しい問題は先送りに。時間は有限。やれる事からやる。
「こっちは魔王を倒して凪を救おうって考えてるんだぜ。それに比べれば何だよ?たかが貴族、たかが帝国。魔王から凪を助ける練習レベルだろ」
セフィの言葉を借りて宣言した。するとセフィが笑い声をあげる。
「ハハハッ。そうだね、その通りだ。たかが貴族、たかが帝国!そうだよ、魔王に比べたら練習、練習にもならないね!さすが勇者だ。私はヒロトなんかよりよっぽどシノムラ君の方が向いていると思うよ!」
笑い転げるセフィにそうかよと言えば笑い声は急に止まり慈愛にも近い表情でセフィが話す。
「シノムラ君、私は冗談で君の方が勇者に向いていると言ったんじゃないよ。この世界のために戦うわけではないだろうけど、魔王を倒したいという君の意思は本物よ。ヒロトは確かに強いだろうけど意思の強さは劣るし、戦闘能力だってすぐに追い抜ける」
セフィの評価がなんか恥ずかしい。そんな風に言われたら嬉しくーー
「あれ?シノムラ君もしかしてテレてる?テレてるの?」
やっぱうざいだけだな。
「で、ツグちゃんはどうなの?」
「愚問ですね。初めから肯定に決まっています」
「だよね。じゃ、作戦会議始めよっか」
セフィの号令で会議が始まった。
そういえば俺も凪のこと姫って呼んじまったけど大丈夫だろうか。バレなければいいよな。
「まず、処刑人はどこにいると思う?」
「それは・・・あのでっかい城とか?」
城とはここからでも見れる、ケイネス領のシンボルみたいなもので、領主が住んでいるらしい。牢獄があるとしたら場所的にそこしかないだろう。
「じゃ、城のどこ?」
そこまで考えてなかった。確かに正確な場所が分からなければ助けるなんて出来ないな。
「分からないよね。まぁ、それは私ならなんとかできる。【空間把握】を使えば城の中は丸裸だからね」
その魔法は確か、自分を中心とした半径数百メートルを何もかも透過して頭に映すものだったか。それなら場所もわかるか。
「なら、あとは簡単だな。【空間転移】で跳べばいいだけだから」
俺の考えにセフィが「そうでもないよ」と異を唱える。
「空間魔法なんか使おうものなら、使われた魔力の残滓で属性を特定された時に私のせいだとすぐにバレるからね」
確か空間魔法を使えるのは五人だったか。その中でケイネス領にいる術者といったらセフィに断定されるわけか。でも、隠し持っている奴もいると思うんだけどな。
「覆面をして堂々と侵入するのがいいんじゃない?覆面は帰りに捨てればいいだけだし」
「中にいる兵たちはどうすんだ?全員気絶させながら行くのかよ?何人いるのか分からんし、無視すれば逃げ道も潰れるだろ?」
セフィがSランクなのは空間魔法を使うからというのも大きい。それを封印すれば時間が結構かかるような気がする。
「そうだね。じゃ、ツグちゃんに陽動をやってもらおうか」
「私、ですか?」
「うん。【人化】を解けば、ケイネス領を襲っても不自然ではあるだろうけど、あり得ないわけではないだろうから。そこに兵が向いている隙に救出をする」
「ちょっと待てよ。AやSランクが出て来たらどうするんだよ!」
ツグが俺のわがままの為に殺されるのは看過できなかった。
「大丈夫だよ。 Sランカーがわざわざこんな所に来る理由ないし、Aランカーでも魔物の脅威が少ないケイネス領に派兵されるわけがない。問題はギルドだけど高ランクの奴らはダンジョン行ってるだろうから問題ないよ」
「でもさ・・・」
俺はなおも食い下がる。高ランクがいないというのはただの予測だし、ダンジョンに入る前に休んでいる冒険者もいるかもしれない。ツグの正体がバレないという保証もない。ツグにそんな危険なことさせたくない。
「主人殿」
ツグの声に振り向く。
「やらせてください主人殿。初めて役に立てるんです。どうか、私に」
俺の手を取って訴えて来る。本人は初めてとか言ってるが、今までも十分に役に立ってくれている。今回の処刑人なんてツグがいなければ死んでいた。
今更ながらこの関係に違和感を覚えた。ツグは俺の為に色々やってくれているのに俺は?・・・これではまるで、隷属ではないか。
「ツグ、俺の役に立ちたいからとかじゃなくて自分の為の行動してくれねぇか?」
「?」
ツグは不思議そうな顔をした。従うことが当たり前。そう思うような行動をさせてきた自分に暗い感情がよぎったが、ツグは一転して笑ってみせた。
「では、私が主人殿に好きになってもらう為に頑張らせてください!」
その笑顔は俺には眩しすぎた。
「じゃ、次の問題。どうやって入るかだけど・・・壁を壊すのは?」
「脳筋か!!」
さっきまでの雰囲気壊してんじゃねーよ!なんなのお前、もしかして空気わざと読んでないの?それとも天然?絶対前者でしょ。
「壁を壊すのは冗談として、・・・ツグちゃんが奇襲で空けた穴に入るのは?」
「結局壊すんじゃねーか!!」
「まさか・・・堂々と入るつもりなの!?」
「あんたさっき自分が何言ったか覚えてねぇのかよ!?」
「・・・私、シノムラ君のことが・・・す、」
「そんなこと一言も言ってないよなぁ!?」
そしてツグの視線が痛い。
「さて、冗談はこれくらいにして」
「さっきから冗談しか言っていないような気がするのは気のせいか?おい」
「・・・さて、冗談はこれくらいにして」
無視ですか。そうですか。
「どうせ覆面つけるんだから正面から入ろうか」
セフィの脳は鳥並なのか?いや、鳥は三歩歩いたら忘れるらしいけどセフィは座ったままだからそれより小さいのかもしれないな。
「馬鹿にしてる?」
「こいつの脳みそ絶対小さいなって哀れんでる」
「酷い!ツグちゃんに謝って!」
「お前のことなんですけど!?」
話が進まん。これじゃ冗談言ってるのと大して変わらないじゃないか。
「私だってちゃんと考えてこの結論を出したんだよ。犯人を見てたらまさか【空間魔法】使えるとは思わないだろうなとか、覆面はどの店で買おうかなとか」
拗ねたようにブツブツ言っているけど本気で拗ねているわけではないだろう。
あと、覆面を買いに行ったらその時に顔見られてバレるだろ。
「はいはい。じゃ作戦はいま考えたやつでいいんだな」
「え?今って何考えてたの?」
「本当に鳥より小さいってことはないよな?」
割と本気で聞いたのだけど「冗談に決まってるじゃん」と言われた。こちらも冗談だとは思っていたのでわざわざ返すつもりもない。
そして翌朝、作戦を決行することにした。




