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幕間 ジジイの一人訪問旅

今回は三人称です。こっちの方が書きやすいと思っていましたが、いざ書いてみると途中から一人称に戻ってしまうので直すのが大変でした。慣れっていうことでしょうか。

暗い部屋の中でクククと笑う人影が一つ。


「やはりこいつは面白いな」


その人影は玉座に座って目を瞑っている。にもかかわらずまるでその目で見ているかのように自然とその言葉をこぼした。


いや、まるでではない。その人影には今も彼のダンジョン内の全てが見えているのだ


そう、彼こそがこのダンジョン、アシュタロスの主、ダンジョンマスターである悪魔の一柱なのだ。


彼は今、今まで感じたことのない高揚感に包まれている。


他の悪魔たちが挑戦者たちが階層を突破していくたびに、やれあいつは面白いだの、してやられたと思っただの、言っていたのを一人羨ましがっていたのを懐かしく思うぐらい。


悪魔の時間は無限であり、本来なら一瞬のことのはずなのだが今までと同じくらいの時間見ていたかのような気になる程気持ちが高ぶっていた。


「これで我も話の中に入れるな」


悪魔たちは定期的に連絡を取り合い、自分のダンジョンに来た者達の話をして盛り上がるのだが、この悪魔のダンジョンにはそんな娯楽になるような者は来なかったのだ。


その為、話に入ることもできず、娯楽が欠如していたのだ。


簡単に言えばボッチだったのである。


「だが、他の奴にこの話を提供するのはいささか勿体無いな」


少しぐらいはそんな独占欲は存在するが、別に教えてもいいと思っている。


ただ、どうやって仲間に入れて貰えばいいのか分からないので、そんな言い訳まがいのことを口にしたのだ。


簡単に言えばコミュ症なのである。


そんなボッチでコミュ症な悪魔だが、この話を他の悪魔にすればたちまち人気者になるだろう。


なんせ、他の悪魔達のダンジョンに来た者は今の挑戦者と比べたら良くも悪くも普通なのだ。


一体どこの誰が魔物のスキルを自分のものとして使い、精霊王と繋がりを持ち、コントのような緊張感のない事をしながら少し間違えば死に至るような危険極まりないダンジョンに挑戦するのか。


元々娯楽の少なかった彼ら悪魔からしたら、普通に攻略するだけで娯楽につながるというのに、そんな一般人でも娯楽として楽しめるような話をすれば、呑まれないなんてある訳がない。


それで興味を惹かれないのはそれと同じような者が攻略しに来た、ベリアルやダンタリオンくらいだろう。


その悪魔はそんなことも思いもしないままに、クククと思い出し笑いを浮かべていた。


が、一瞬後真顔になる。


「はて、どうかしたかい?神霊の長よ」

「完璧に気配を隠していたつもりだったのだがな」


悪魔以外誰もいなかったはずの部屋に、突然長い白髭を生やした爺が現れた。


詫びもせず「歳はとりたくない者だな」と言いながら姿を現したその人物に悪魔は当然だと言うように語り出す。


「ここは我のダンジョンだぞ。わからないと思う方が不思議だ」


その人物は精霊王。件の挑戦者との関わりを持つ最強の種族、神霊種の最古参にあたる者だ。


「先触れを出さずして来てしもうたから、怒ると思ったんじゃがのう」

「今は気分がいいのだよ。御主のおかげでもあるからな。やつはなかなか面白い」


精霊王はふむ、と一つ頷くとその玉座の対面に腰を下ろした。


普段なら憤慨するところだが、今日は言った通り気分がいい。その為今だけは見過ごすことにした。


茶菓子を持ってきたようなので、紅茶を注ぎ、茶会を開くことにする。二人しかいないが。


話題はもちろん、四十層の攻略をしている挑戦者のことだ。


「彼を遣わしたのは御主かい?もしそうならそれなりの例はしよう」

「いや、わしではないよ。彼奴がその意思でここまで来たのじゃ」

「へぇ」


悪魔は思案する。悪魔のダンジョンは自分で言うのもなんだが難易度は高めである。


その証拠に七十二のダンジョンの中で割と早めに出現したのに今まで四十層までたどり着いた者はいなかった。


ついでに言えば三十一から四十層は他の悪魔達のダンジョンより異常も異常。なぜならそこを守護するボスは悪魔が外界より召喚した転生者だからだ。


外界より召喚される転生者は、総じて能力が高く、オリジナルスキルを持っている確率が高い。


そして今回召喚した転生者は【暴食】と言うオリジナルスキルを持ったアントビー・クイーンだったのだ。


本来なら一匹だけで戦わせる予定が、【産卵】という自身のクローンを作るスキルを持つ者がボスとなった為に、大勢力を築いてしまった。


それだけなら良かったのだが、悪魔はその魔物が気に入ったのか各階層に一匹だけに与えることのできる自身の加護、【アシュタロス】を与えてしまった。


そして与えられたクイーンはその力を【遺伝】という自分の持つスキルを眷属に与えることのできるスキルで、クローンにも与え始めた。


そして眷属に【アシュタロス】を使わせ、階層を破壊し続け、三十一層までの魔物を喰らいまくった。


【暴食】の効果により食べた魔物の力を得て、さらに配下に渡して強化させるという悪魔もびっくりするような行動をした。


そして新しくダンジョンを生まれ変わらせたという訳だ。


そんなのを攻略できるものなんて限られている。そしてそれを裏技ともいうべき方法で抜け出した挑戦者が、言いふらし、くる者が減ってしまった。


そんな自分のダンジョンに来るなんて誰かが遣わした以外に考えられなかった。だからこそ、精霊と契約しているという理由で、精霊王が遣わしたと思っていたのだ。


精霊王の言葉で違うのだと思い直し、そういえば精霊王が彼の挑戦者の前に現れた時、誰だという反応をしていたなと思い出した。


「それで何用かな?御主がここに来るなんて」

「なに、彼奴のことを知っているのかと聞きに来ただけだ。その様子だと初めてここに来たらしいな」


悪魔は驚いた。彼の挑戦者は精霊、しかも珍しい空間属性の精霊を連れていたのだ。その親たる精霊王が知らないのが不思議でならなかった。


「あの挑戦者は最初から精霊を連れていたぞ。お前でも分からなかったのか?」

「いや、勿論契約した後からは知っている。それより前のことが知りたくてな」


精霊王が知りたがっているという事に更に困惑する。精霊王ですらそんなに関心を持っているのかと。


「邪魔をしたのぅ。もう帰るとしよう」


だが、なにも聞く暇もなく精霊王は空間を開いて消えていった。


「何だったんだ?」


答えるものは誰もなく、また一人になった。


悪魔はまぁいいかと思い直し、意識をダンジョン内に向ける。そして気がつく。ボスが死んでいないのに発動する転移陣に。


四十層を攻略したら帰ると話から分かっていたので転移陣は発動させまいと思っていたのに。


基本的にダンジョン管理はプログラムに任せているのでそのままにしたのが仇となった。


精霊王との会話でやるのを忘れていたのだ。


「しまったぁぁぁーーーー!!!」


悪魔の情けない悲鳴が玉座に木霊した。勿論その悲鳴を聞くものはいない。





「報告です。勇者たちは魔王様を討つ為、現在修行中のこと。その実力はCランク程度であり今のところ問題はないかと。ですが強力なオリジナルスキルを持つ者が複数おりーー」


執務室らしきところで報告を書類片手に聞いていた現魔王、シエラ・スウェンディーは嘆息する。


ここのところ執務作業ばかりでつまらないのだ。今日も部下から報告を聞くが、召喚された勇者たちはまだまだ青い果実であり焦り過ぎたなと自分の小心ぶりに、なにビビってんだかと言葉を漏らす。


先日行った【同種召喚】で犠牲を払う必要なんてなかったのにと、暗い感情が出て来るが自分には似合わないと吹き飛ばす。


そしてまだ続く部下の報告にまた耳を傾ける。


「一人勇者たちから離れて行動しているものもいます。その者にはセフィ・ウラノスともう一人、恐らく竜族が付いており、帝都のケイネス領に入ったと連絡が入っておりーー」


一人が別行動でケイネス領に。その言葉を聞いた瞬間シエラは驚いた。なにせその【同種召喚】で呼んだ仲間が今、そのケイネス領にいるのだから。


「その話もうちょっと詳しく」

「はっ」


報告ではそいつらはダンジョンに潜るらしい。その仲間もダンジョンにいるので追いかけて来たのかとも思ったが、単に力をつけるべくきただけとのことだ。


だからと言って見過ごせるわけもなく、対処法を考えているときにそれは来た。


虹色の魔力光。見覚えのあるその光を見てシエラは嫌な顔をする。


「何者だ!?」


先程から報告をしていた部下の一人が声を上げて戦闘態勢をとるが、予想があっているなら彼に勝ち目はないなと、シエラはまた嘆息する。


「此れは此れは物騒なお出迎えじゃな」


やはりかと呟き、その侵入者の方を見る。


胸元あたりまで伸びた白髭が特徴的な老人だ。仙人を思わせるような出で立ちははたから見ても只者じゃないとわかる。


「これは失礼。ですが、なんの先触れもなく来られるあなたにも非はありますよ、精霊王」

「なっ!?」


部下が驚きの声を上げる。シエラはそういえば彼は会うのは初めてだったかもしれないなと他人事みたいに思いながら彼にも声をかけた。


「下がっていいよ」

「は、はっ」


退出を命令された部下は少し言い淀んでから素直に命令に従った。


「久しいな。星の妹よ」

「何度言ったらわかるのかな?星はもう代替わりしたって」


シエラは渋い顔をしながらいつものやり取りをする。


「で?何の用?これでも私忙しいのだけど」

「相変わらずせっかちよのう。そんなんじゃから逢瀬の一つもできないのではないかの?」

「余計なお世話」


少し不機嫌な声音が響く。どうやら相手は決まっていないらしい。そのことが分かった精霊王はなおのこと弄る。


「なんじゃ、やはりまだなのかい。もう歳なんじゃから、はようしといた方が良いぞ?何事も若いうちにじゃ。婆になってから嘆いても

「うん、ちょっと黙っててもらおうか。それ以上は看過できないよ」


存外低い声での警告。流石に精霊王も黙っーー


「じゃがその歳で独り身は

「くどい!」

「あべしっ」


るはずもなく、なおも言いかかろうとするも血の銃弾に額を撃たれて止められる。


「何をする。老い先短い爺いに」

「老い先短い?誰が?私が生まれる前からずっと同じ姿で存在し続けてるお前が?冗談もほどほどにしてさっさと本題に入りなよ」

「ぐぅ」


ぐぅの音が出る正論だった。精霊王が寿命で死ぬなどあり得ない。神霊とは半永久的に生きる、謂わば生きる歴史書なのだ。


勿論精霊王も寿命で死ぬなど微塵も思っていない。ただ、人間が言っていたのが気に入って、言っているだけなのだ。


「せめて労りの心を

「持てないような態度で接する方が悪い」

「ぐぅ」


少しでも反論を、とも思ったがさらなる正論で返された。もう何も言うまいと思ったのか精霊王は本題に入る。


「先日ケイネス領に行ったのじゃがな、」


またケイネス領か。とシエラは思案する。もう、ケイネス領は呪われてるのではないだろうかと思うぐらい色々なものが集結している。一体何が起こるのか。


取り敢えずそれだけでは何が言いたいのかわからないので、続きを促す。


「星の気配を持つ少年にあったよ」

「!?」


今度こそシエラは驚いた。精霊王が言う“星”というのは彼女の姉、そしてその姉はもう・・・。


「な、なんでそんなこと分かるの?」


自分の声が震えているのが分かった。無理もない。姉の魂は、紛れもなくシエラ自身が消したのだ。


「儂と星と龍は何年も共におったからの。気配を掴むなど造作もない」


それでも、魂は消えたはずなのになぜ?答えは分かりきっている。例の召喚だ。


シエラは冷静にその少年の事を聞き出す。


「その少年の特徴は?髪色、瞳、背丈何でもいい。さっさと話せ。そのために来たのだろう」


嘘だ。全然冷静じゃなかった。


「落ち着かんか。じゃから婚期を逃すと

「いいからさっさと吐け」


聞いた結果、髪色と瞳は同じで黒、背丈は常より少し低いくらい、二人の精霊と契約しており、人族と亜人族と行動していた。と聞き出せた。


(黒髪黒瞳・・・凪?いや、契約してたのはソラだけだし一人だけだ。だとするともう一人転移者がいたわね。そいつは・・・)


Sランク冒険者、セフィ・ウラノスはハーフエルフ。人族と言えなくもない。


もう一人いた竜族も、人の姿なら亜人と言う国もある。


(十分その可能性はあるわね。だとするとナギと合わせるのは少しまずいかな)


「うん。不味いけどそれはこちらでなんとかするわ。わざわざ報告のためにありがとう」


珍しくお礼の言葉を言ったシエラに、精霊王はむぅと難しい表情をした。


「?どうしたの?」

「いや、その様子だとお主も知らなかったのかと、思うての」


も、と言うことは他にも聴きに言ったのだろうが、初めに自分に聴きに来なかったのは何故だろうとシエラは考える。


“星”という事は一番シエラに関係している事。それなのに違うやつに聞くということは元凶だと睨んだという事だろうか、と。


少し悩んだが、分からない事は分からないと諦めることにした。


精霊王は何も親切心で教えてくれているわけではなく、ただの義理だ。なので聞くつもりもないし、元凶なら自分達の手で見つけると見切りをつけることにしたのだ。


「では儂はそろそろ行くとしよう」

「じゃ、さっさと目の前から消えてね」

「主のそういう所、儂は嫌いじゃ」

「奇遇だね。私も君のことは嫌いだよ」


最後に憎まれ口を叩きながら、帰路につく。これも毎回のことだ。

そしてまたテスト(ヤツ)が来ます。時間ができれば投稿するつもりですが、この二週間は書けないかもしれませんことを先に謝罪申し上げます。

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