表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/26

やっと笑ったね

メアドをすぐほしがるチャラ男従業員輝流と、如月は

なぜか二人きりになってしまい・・・?

ちょっくら出てくる、と神宮さんがでていってしまって早数分。


「よし、にがっちゃん! この機会にお兄さんが色々教えてあげよう!」


水瀬如月。自分の着換えを見た変態野郎と二人きりナウ。

そんなことを心の中でつぶやきながら、はあっとため息をついた。


「何その嫌そうな顔~地味に傷つくんですけど」


そんなこと言われても、どうも苦手なんだよなあこの人。

私のことなんか気にしなくていいから、課題とやらに集中してくれればいいのに。

ん? 課題? 課題といえば……


「輝流さんって、おいくつですか?」


「お、何? 男性に年齢聞いちゃう? にがっちゃん、えげつないね」


「普通は女性に聞く方が失礼なんですけど?」


「二十一歳かな~。分かりやすく言うと、大学三年生?」


「え、大学生だったんですか?!」


「何その失礼発言~にがっちゃんひど~い」


正直意外だ。輝流さんのことだから大学通ってないのかと……


「やること見つかんなくてさ~とりあえず説明会に来た大学を受けて、合格したとこに通ってみた、的な?」


「的なって……どこに通ってるんですか」


劉生りゅうせい大学」


り、劉生大学!?

劉生と言ったら超有名な秀才大学じゃん!

もしかしてこの人、私が思ってるよりすごい人!?


「輝流さんって、すごいですね……」


「お、見直した? じゃあメアド教えて♪」


「結構です」


間髪を入れずに言う私に、しつこいほど声をかけてくる輝流さん。

すると彼は急に思い出したようにあと声を上げ、にんまりと笑って見せた。


「見直したといえば、にがっちゃんさっきの接客よかったよ~。もうここに慣れちゃった感じ?」


「え? ま、まあ……メニューはまだ覚えきれてませんが……」


「頼もしいなぁ。ミュウミュウが見たら悔しがるだろうけど」


ミュウミュウというのが美宇さんのことだとわかるのに、五秒はかかった。

すごいニックネームだな、相変わらず。

ニックネーム、か。そういえば……


「輝流さんって、変わったニックネームつけますよね」


「え~そうかな?」


「私のにがっちゃんは前言ってたので分かります。美宇さんのやつはもじってできたんだと思いますが……天衣さんのあまちゃんと神宮さんの王様っていうのは、どこから来たんですか?」


私が言うと、彼はああと声をあげてにこやかに笑う。

輝流さんは壁に貼ってあったシフト表を指さしながら、説明するように言った。


「あまちゃんの下の名前の漢字、天に衣ってかくでしょ? 天の衣といえばかぐや姫の〝天の羽衣〟を連想するんだよねー。ってことであまちゃん」


えーっと……それは頭がいいのか悪いのか……

つくづくこの人、不思議な人だなぁ。


「んでマスターの方は、下の名前の由来が〝不動明王ふどうみょうおう〟にちなんでつけられたらしいんだ。だからミョウオウのおうをとって、王様」


ほへ~そうなんだ。

確かに変わった読み方をするなあとは思ってたけど、そんな理由だったとは。

よし、めもっとこ。


「さて、にがっちゃん! 積もる話をして仲も縮めたことだし、メアド教えてもらおっか!」


「しつこいんですけど。お断りします」


「え~? なんでそんなに嫌がるの~?」


「大体そんなメアド集めてどうするんですか。初めて会った時もメアドがどうとかいきなり聞いてきましたけど」


「別に深い意味はないんだけどなぁ……ノリみたいなもん?」


「ますます教える気失せました」


「にがっちゃ~~~ん!」


輝流さんの半泣き声に、私はふっと笑みがこぼれた。


「あ、やっと笑ったね」


突然聞こえた優しい声に、はっとする。

さっきまでからかい半分だった輝流さんの微笑んだ顔は、いつにもましてかっこよく見えた。


「王様から今日元気ないって聞いたから。少しはリラックス出来たのかなって」


心配、してくれてたってこと?

私としたことが、神宮さんはおろかこの人にまで迷惑をかけてしまうなんて。


「大学でなんかあったの?」


「……輝流さんには関係ないです」


「にがっちゃ~ん、オレ二年上の先輩だよ~?」


うっ……


「でもってバイトでも先輩」


ううっ……


「先輩には些細な悩みでも打ち明けてよ。相談に乗るし、聞いてあげるからさ」


優しい声色が、私の心を揺らぐ。

彼の微笑みを見ながら、観念したように私はふうっと一息ついた。


「私、文芸部に入ってるんです」


「ああ、それ知ってる。確か俳句とか作ったり、本読んだりするサークルでしょ?」


「私達の文芸部は本格的な活動はしてなくて、同好会みたいな感じなんです。ほとんど小説を書くことをしてます」


へ~と彼が相槌を打つ。

輝流さんの顔を見れなくなり、私はうつむいた。


「でもあまりうまくいかないっていうか……私、小説書くのに向いてない気がするんです。何をやっても、全然だめで……」


今思えば、これは大学に入ってから思ったことではない。

小説を書くのは好きだ。

だけど好きと仕事としてやるのとは違う。そのことを母達からうるさく言われ続けた。

今ならそれが、痛いほどわかる。


高校の時あまりにも読む人がいないからと言って、友達に色々読ませていた。

あげくに今度は弟まで小説をかきはじめたものだから、焦りが生まれないわけがなく‥‥

友達、弟の小説の方が読んでくれる人がいる。

だったらいっそのこと、小説なんてもう‥‥


「にがっちゃん」


声が聞こえ、ゆっくり顔を上げる。

いつにもまして優しげな微笑みを、輝流さんは浮かべた。


「そうやって自分一人で抱え込むのはよくないよ? 確かに向いてないとか思ったりすることもあるけど、自分がやりたいことをすればいいじゃん」


「輝流さん‥‥」


「誰になんと言われようが、にがっちゃんはにがっちゃんの好きなようにやればいい。だって、にがっちゃんの人生なんだから♪」


先生や親に言われて来た言葉より、彼の言葉だけがじいんと心に響く。

なんだろう‥‥この感じ‥‥

暖かくてすごく、心地よさを感じるような声色は私の心をとかして‥‥


「そだ。にがっちゃんの小説、オレに読ませてよ」


!!!?


「オレこう見えて小説とか結構読むから、興味あるんだよね~どうかな?」


「む、無理です! あんな駄作……」


「駄作なんて決めつけちゃダメだよ。にがっちゃんは自分を追い詰めすぎ。オレを純粋なにがっちゃんのファンとして、小説を読ませてくれない?」


ああ、そうか。

輝流さんは優しくて、まっすぐな人なんだ。

だからこんなにも心を動かされる‥‥

やっとみつけた、私が求めていた読者が……


「……ありがとうございます、輝流さん」


微笑んだ私の髪を、窓から入った風が揺らす。

その時だった、何かが動き出したのは。

心なしか輝流さんの顔が、少しだけ変わったように見えて……


「わりぃ、遅れ……何リア充みてぇな雰囲気醸し出してんだ、お前ら」


はっと我に返ると、神宮さんが喫茶店に帰ってきていた。

私が行動する前に輝流さんはパッと私をはなし、苦笑いを浮かべた。


「嫌だな~にがっちゃんの髪にごみがついてたから、オレがとってあげてたんだよ~」


「ふうん……嘘くさ」


「ちょ、ひどっ! 王様、オレの扱いひどくね?」

「平気でさぼったりする奴の言うことなんか信じられるか。水瀬、こいつなんもしなかったか? セクハラ行為したら、いつでも警察呼べよ。その前に俺がしばくが」


「王様~~~!」


輝流さんの叫びが、店中に響く。

今までに感じたことのない清々しさが、私の中にいつまでも残っていた……。


(つづく・・・)

今回のお話は、割といい話なんじゃないかな・・・って思ってます。

輝流、必死の挽回なるか!? って感じでもありますが笑


ちなみに如月の胸中はほぼ、私の思惑だったりします

よりリアルさを追及したものになってるので

作者サイドの方々にはわかってくれるんじゃないかな~なんて


いよいよゴールデンウィークですね。

個人的に予定が真っ白なのもどうかと思いつつ、

一人でのんびり過ごす予定しかない私であります。


次回、みんなでなにかします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ