嫌いなんです!!
明王の家で勉強会をした如月は、少しずつ距離を縮めていく。
そんななか、再びあの人が帰ってくる!
まだまだ続く! 夏休み!
早く。早く知らせなきゃ!
全速力で走りながらまっすぐ向かう。
あの場所に! 私の大好きな、あの人がいる場所に!
「神宮さんっ!」
「……よぅ、二週間ぶり」
「ぎゃっ!?」
「人を見ていきなり悲鳴をあげるのはどうかと思うが?」
「……どうもすみません……お、お久しぶりですね~尾上さん」
ドアを開けた瞬間、私の視界に入りきらないほどの長身の男性をとらえる。
彼こそ、私の苦手な人―尾上魁皇さんだ。
なぜ彼がいるのか、そんなの気にしたってしょうがない。
せっかく神宮さんがいると思ったのになぁ。
この人といると、なんかこう……
「……お前、また背縮んだか?」
馬鹿にされるからイライラする!
相手が年上じゃなければ、即殴ってるとこなのに!
「縮んでません。二週間でそんな変わりませんよ」
「そうか? ……じゃあ俺が伸びたんだな」
「……尾上さん、店内禁煙なのでタバコは外でお願いします」
「いいだろ、客いねぇし。それに、あいつからの許しは得た」
あいつぅ?
同時に休憩室のドアが開くのを、私ははっと振り返る。
そこから出てきたのは、私が苦手としているもう一人の人物だった。
「あれ、にがっちゃんじゃん。どったの、こんな早くから。今日あまちゃん達来ないから、てっきり休みだと思ったよ」
ご存知、杉本輝流さんだ。
チャラチャラした、ちょっと変わった従業員仲間。
尾上さんの言っていた人が彼だと分かった私は、はあっとため息をついた。
「輝流さん……尾上さんにタバコを許したんですか?」
「んーそうだけど」
「店内って禁煙ですよね? 神宮さんにちくりますから」
「ちょっ! 誤解だって! オレも止めたよ、ちゃんと! でもチューンが、王様が三回までならわがままを許していいって言ったって!」
冷ややかな目線を向ける私に、ぶんぶん首を振る。
輝流さんを怒りたいのはやまやまだが、神宮さんのお願いで尾上さんは来ているわけだし……。
「まあ神宮さんがそう言っているのなら、仕方ありませんね」
「にがっちゃん、オレと王様の扱いの差ひどくね?」
しょうがないじゃん。あの人は特別だもん。
神宮さんといえば、さっきから姿が見えないような……
「あの、神宮さんはどこですか? 伝えたいことがあって早く来たんですけど」
「王様なら今日一日いないよー」
!!!!???
「なんか急な用事だって。ミュウミュウ達も部活やらなんやらでいないから、助っ人として王様がチューンを呼んだってわけ」
なるほど。だからわがまま三回がどうのって……
しかし神宮さんいないと、テンション下がるなあ。
せっかくお礼、言おうとしたのに。
「そういやお前、来てすぐマスターの名前呼んでたが……マスターに用があったのかよ」
うぐっ、気づかれた!
ぐすんっ、ばれてしまってはしょうがない。
神宮さんに一番に伝えたかったけど、この二人が相手じゃ隠し通すことできなさそうだし。
「今日数学の再テストだったんです」
「ああ、あれ今日だったんだ?」
「再テストって……何点取ったんだよ……」
ううっ……傷口がえぐられるぅ……
「神宮さんのおかげで、見事合格できたんです! というのを伝えに来ました」
結果は七十五点。
友達からは微妙だねーと馬鹿にされたが、それでも合格!
それに私にとって七十点代は、最高の点数でもあるのだ! ふはははは!
「おめでと~。みんなで勉強会したかいがあったね~」
「なんか棒読みですね、輝流さん。宿題終わったんですか」
「ん? 終わってないよ~なんのためにこいつがいると思ってる!?」
あ、尾上さんの宿題うつさせてもらうんだ……
現に彼の顔が、ものすんごくめんどくさそうにみえるし。
「とりあえず着替えて来いよ。こいつだけに接待ができるとは思わねぇし」
「チューン、ひどっ! 接待くらいオレ一人で大丈夫なのに~!」
「どうだか」
二人の会話を聞きながら私はうっすらと思った。
仲良きことは美しきかな、と。
「ありがとうございました~またお越しください」
下げていた顔をあげ、私はふうっと息をついた。
やっぱり人が少ないって大変だなー。
たった二人でホール回さないといけないしね。
ましてや、もう一人が輝流さんという仕事をまじめにしない人。
今日も今日で女子にきゃあきゃあ言われてたしぃ。
ま、尾上さんは淡々とコーヒー作ってるだけだったけど。
「はあ~客ラッシュ終わった~!」
「お疲れ様です、輝流さん」
「にがっちゃんもね~今日はさすがに疲れたよ~」
「休憩がてらについだ。飲んでいいぞ」
そういって尾上さんから、コーヒーが注がれたコップが渡される。
尾上さんの作ったコーヒーは、神宮さんとは一味違う気がした。
同じコーヒーでもこんなに違うんだと実感できる。
やっぱり作る人の差かなー……
「さてと、客いないし今だよね! チューン、コーヒー作らして!」
いきなりこの人は何を言うのだろう。
相変わらず不思議じみた人だと改めて思った。
そんな輝流さんに慣れているのか、特にこれと言って驚く様子も見られずため息交じりでカウンターから出てきた。
「やってもいいけど、タバコ吸わせろ」
「だ~か~ら~! 店内禁煙……」
「わがまま三回許されたって言わなかったけか?」
「……すみません、どうぞやってください」
よ、弱っ!
輝流さんと尾上さんって、本当は仲悪いんじゃないか……?
尾上さんがタバコを吸っている中で、輝流さんはハンドミルを動かしながら険しい顔つきを浮かべている。
ふうん、輝流さんもこんな顔するんだ。意外。
「出来たっ! チューン、飲んで!」
「やだ」
「なんで!?」
「隣にいるだろ、俺よりいい評価してくれる奴が」
私は思わずえと声をあげてしまう。
隣……つまりは私しかおらんやん!
まさか私、輝流さんのやつを飲まなきゃいけないの!?
「にがっちゃん♪」
「い、嫌です」
「なんで~? 試しに飲むだけじゃ~ん。固いこと言わないでさあ」
うう……嫌な予感しかない……
半ば強引的に渡されたコーヒーを、ゆっくり口に運ぶ。
途端、口の中によくわからない感触が広がる。
こ、これは……!
「に、にがっ! み……みずぅ……」
「ええ!? ちょ、マジ!?」
「ほい、水」
尾上さんから渡された水を一気に飲み干し、私ははあっと息をつく。
口の中にはまだ独特な苦みが残っていて気持ち悪かった。
「そ、そんなに苦かった? チューンはどう?」
「確かに苦いけど、砂糖やミルク入れたらましになるから大丈夫だ。お前、この程度の苦味でぎゃあぎゃあ言うんだな」
何回も水を入れたり飲んだりしてた私はむっとして、コップを机に置いて叫んだ。
「仕方ないじゃないですか! 私、辛いまずい苦いすっぱいものは嫌いなんです!!!」
「多くねぇか?」
「にがっちゃんの味覚きっついね」
ふん、なんとでも言うがいい。
好きでこうなったわけじゃないんだから、痛くもかゆくもない!
「コーヒー作ったら疲れちゃった。休憩してくるねー」
「特に何もしてませんよね?」
「いいから、いいからー」
と鼻歌交じりで輝流さんは休憩室の方へ行く。
ん? ちょっと待てよ。
もしかして私、今から尾上さんと二人きりになるの!?
ど、どうしよう!!!
(つづく!)
先日は如月の誕生日でした。
お祝い小説はかけなかったですが
きっとみんなからいじられながら、
祝われたのであろう如月がちょっぴり羨ましくもあります
そんな如月は、誰かと二人きりになるのがお好きなようです。
別にいじめてるわけではないですよ?
次回、魁皇VS如月!




