お願いしていいですか?
明王の家にお邪魔することになった如月は美宇たちの策により、
二人きりで勉強をすることに!
「と……解けました……」
「お、できたか? 見せろ、採点してやる」
ドキドキと鼓動が鳴り響く。
私はもう、気絶する寸前だった。
だって好きな人との二人きりタイムですよ、みなさん!
マジで死にそうなくらい、やばい!
例えるならそうだな……かくれんぼで見つからないように待っているあの感じだな。
とにっかく距離が近いんです!
教えてくれるのはありがたいんですけどね、こっちは勉強どころじゃないっつうの!
「ん、正解だ。この短時間で出来るようになったじゃねぇか」
「神宮さんが丁寧に教えてくださったからですよ」
「仕事にしろ数学にしろ、覚えがいいな。よくできてる」
ふぉ、ふぉぉぉぉぉぉ!
神宮さんが! 神宮さんが私の頭なでたぁぁぁ!!
やばい、泣きそう! もうこの頭一生洗いません!
「あ、悪い」
「い、いえ全然! むしろもっとしてほし……」
「? なんか言ったか?」
「なんでもないです! それより神宮さん、地学が好きなんですか?」
私が言ったその一言に、わずかだが顔を曇らせる。
その一瞬の表情に私は気づかなかった。
「突然すみません。本棚にある本が宇宙のことばっかりだったもので」
「……お前、本好きなのか」
「はい。文芸部に入っているので」
「だったら……」
神宮さんがゆっくり立ち上がる。
彼本を指でたどると、すぐに見つけたらしく一冊取り出した。
「これ、読んでみろよ」
「これは?」
「喫茶店の話で、星座がテーマになってんだ。俺は読んだから、貸してやるよ」
「いいんですか!? ありがとうございます!」
神宮さんの私物! いやいやそれより、小説のネタ集めにもなる!
よし、家に帰ったらさっそく読むぞ!
「それと、もしよかったらこれ使ってみな」
そう言って神宮さんから渡されたのは、汚れと傷まみれのノートだった。
「俺が高校の時にまとめた、数学の要点ノートだ。テスト対策に使え」
「なんかすみません……迷惑ばかりかけて」
「気にすんな。そのかわり合格しなかったらシフト倍にしてやる」
「ええ!? それだけは勘弁してください!」
「はっ、面白いな。お前」
クシャッと崩した笑みに、胸が突き抜かれたように痛む。
あまりにもキレイで、つい見とれてしまった。
どぎまぎして何も言えぬまま、顔を伏せる。
神宮さんノートは使っていただけあって、ボロボロだった。
埃を払いながら、その字がふと目に入った。
名前の欄に書いてあったのは、神宮明王ではなく「金城明王」だったのだ。
金城……? 神宮じゃない……??
「如月~! マスタ~! リュ~ウ! ケーキ屋けたで~下りてき~?」
美宇さんの呼びかけにより、私の疑問は雲のように消えていった。
「お~きたか如月。どや、うまくいっとるか?」
いつもの笑みを浮かべ、元気な声を上げる。
二階から降りた私は、苦笑い交じりで美宇さんに答えた。
「いや~……もう何が何やら……頭こんがらかってますね」
神宮さんの教え方はとてもうまい。
先生以上、と言っても過言ではないほどだ。
だがその反面、私自身の頭がついていけない……
これが現実……なんだよなあ。
私が物思いにふけてると、美宇さんは私の肩の方に手を回し耳元で言った。
「ちゃうちゃう! 勉強やのうて、マスターとのことや!」
え、まさかのそっちですか。
どうしようかな、なんて言おう。
とりあえず……
「……とてもじゃないですが心臓が持ちそうにないです……もう死んでも構いません」
「つまらん奴やなぁ。人がせっかく二人きりにしてやったのに」
と、言うと輝流さんが寝たのも作戦のうちだったのか?
いや、あれはどう見ても熟睡してたし……
輝流さんってホントわかんない。
「はい、みんなお待たせ。出来ましたよ」
千鶴さんの声が聞こえ、私達は同時に振り向き声を重ねる。
そこには皿いっぱいに広がった、イチゴのホールケーキだった。
「すごいっ! うまそう!」
「さすがあまちゃんと王様のお母さんの混合作! お店に並べてもいいくらいですなあ」
「ええ、本当。あきちゃんが見込んだだけはあるわ。ありがとね」
「ち、千鶴さん……あまりほめないでくださいよ」
天衣さんが照れたように微笑む。
彼女は机に置かれたコップにジュースをついでいく。
しかし、さすがだなあ。
天衣さんはともかく、千鶴さんがこんなに料理ができるなんて。
だからかな、神宮さんのコーヒーがおいしいのも。
彼の結婚相手になるためにも、料理練習しよっかなあ。
「ほな早速、いっただきまーす! ん、超あま~い!」
美宇さんが目をキラキラ輝かせて、ケーキにかぶりつく。
つられて私も一口食べてみる。
途端、甘い風味が口中に広がる。
なにこれ、すごいおいしい!
「ほんとだ~クリームがいい具合にふっくらしてるねー。おいしいです~」
「ふふ、よかった。彼女が手伝ってくれたおかげかしら」
「そんな。私はお手伝いをしただけですよ」
こんなケーキを作れるなんて、千鶴さんも天衣さんもすごい。
優しくて甘く、とろけるような味。
神宮さんが作るコーヒーと、味がよく似ていた。
「さてと、皿の片づけをしとかなくちゃ。皆さん、ごゆっくり」
「ん、じゃあ俺も手伝うよ」
「いいのよ、あきちゃんは。座ってて」
「夜勤明けで疲れてんだろ。こういうのは早く済ませたほうが楽だ」
「そう? じゃあ、お願い」
千鶴さんと神宮さんが台所へ行く。
そんな彼の後ろ姿を見ながら、私はふと思い出す。
彼のノートに刻まれた、名前のこと。
よくよく考えたら、私まだ何も知らないんだなあ。
ルナティックハウスに来て、結構な日にちたつのに。
「あ~おいしかった! にがっちゃん、これ持ってって~」
なぬ?
「ちょうどうちも食べ終わったんや。ほなよろしく、如月」
なぬなぬ?
「すみません、如月さん。私のもお願いしていいですか?」
こ、こいつら! ぱしり扱いしやがって!
ああ、もう! こりゃ持って行けって言ってるようなものじゃん!
仕方ない、やるか。
三人分の皿を重ね、重たい腰を上げる。
自分のも重ねあわせ、ゆっくり台所へと足を運ぶ。
「そういやあいつ、最近調子いいらしいな」
ふと聞こえた神宮さんの声に、私は足を止める。
私はその場で動きを止め、こっそり聞き耳を立てた。
「ええ。ここのところ、定期的にリハビリもこなしてたわ。あきちゃんが来た時にびっくりさせたいって張り切ってるんだから」
「はんっ、近いうちに行くって伝えとけ」
「いつもありがとね、あきちゃん。この前も忙しいのに家のこと優先してくれて。きっとルナティックハウスが続いてるのも、そのおかげね」
「う、うるせえな……あんまそういうこと言うなよ……」
照れたような彼の声。微笑む千鶴さん。
私にわかったのはそれだけで、それ以上は何も聞かなかったー
(つづく・・・)
今回で、ちょこっと明王さんの秘密らしきものが
見えてくるわけですが
明かされるのはまだまだ先なので、
首を長くしてお待ちください。
ちなみに本日は設定上、如月の誕生日なんです。
モデルが私・・・ということはもうわかりますね?
そんなわけですので、
誕生日小説は如月以外を楽しみにしててください笑
次回、あの方が再び登場!




