やめたくないっ!
明王がいないなか、なんとか乗り切ったメンバーたち。
その一方、何やら天衣に異変が・・・?
今日の天衣さんは元気がない。
それはその場にいた全員分かったことだった。
彼女が浮かべる笑顔が、少なかったのである。
正直言って、今の彼女は見てられなかった。
天衣さんの笑顔が消えると、なんだか明かりが消えたみたいで……
「天衣さん」
気が付くと、私は行動に出ていた。
彼女は休憩室の隅っこに座り込んでいる。
「如月さん、何かご用ですか?」
「あの……昨日何かあったんですか」
私が言うとビクッと体を揺らし、顔をうつむかせた。
彼女の手は心なしか、少し震えていた。
「何か悩み事なら、聞かせてください! 話せば楽になります!」
「如月さん……」
「せやで、天衣。一人で悩んどったって、解決せぇへん」
パッと後ろを振り向くと、そこには美宇さんがいた。
彼女はいつにもまして真剣な顔を浮かべると、私達に近づいてきた。
「もっとうちらを頼れや。親友やろ」
「そうです! 私も同じバイトをしてるんですし、力になりたいです!」
「美宇ちゃん……如月さん……」
天衣さんはつぶやき、ふうっと息を吐く。
観念したかのように彼女は口を開いた。
「私……バイト、やめることになるかもしれません」
ええ!?
「先日もらった給料が上の姉に見つかってしまって……それを母に言いつけられてしまったんです。ここのバイトができるのも長くないかと」
淡々と話す彼女をかわいそうに思う半面、あれ? と思う。
確かバイトするためには、親の許可とかがいるんじゃ……
「天衣さん、親に内緒でどうやってこのバイト始められたんですか?」
「如月、お前! まさか知らんのか!?」
えっと、何をでしょう?
私はただ首をかしげるばかりだった。
すると、その時だった。
「あまちゃ~ん、いる~?。あれ、にがっちゃん達もここいたんだ」
輝流さんが何とも絶妙なタイミングでやってきたのだ。
彼は私達を見回してから、向こうを指さした。
「あまちゃん、お客さんだよ。それと、残りの二人も戻って来いって、王様が」
神宮さんが?
何だろ。ていうか天衣さん目当ての客って初めてじゃない?
一体誰だろ……
「王様~お待たせ~」
「おう」
二人が言っているそばにいる、一人の女性にすぐ気付く。
眼鏡をかけたきりっとした目つきで、こちらを見据えている。
うわあ、なんか真面目そう。
「……! ……瑞樹お姉様……!」
天衣さんのか細い声が私の耳に入ったのは、その時だった。
誰だろう、この人。お姉様って言ってるからお姉さん?
雰囲気的にはどうもパッとしないっていうか……
「ルナティックハウスのみなさん、お初にお目にかかります。桜庭企業社長の瑞樹と申します」
「さ、桜庭企業!? すげ~! あまちゃん、そんな人の妹だったの!?」
ん? なにそれ? 何かのタイトル?
「如月ぃ。お前まさか、知らんなんていわへんよなあ」
いやあ……そんなこと言われても……
「説明したる! 桜庭企業は東京全体を牛耳る超屈指のエリート会社や! んなことも知らんのか!」
しょうがないじゃん、私世間に疎いんだもん。
二次元ばかりを愛してるから、そっちの話は全然で……
そんな人がお姉さんって、天衣さんも誇りだろうなあ。
「さあ、帰りましょう。母が待ってます」
「……い、嫌です……」
「この私に、逆らうのですか?」
「私っ! このバイト、やめたくないっ!」
天衣さんの声がむなしく響き渡る。
私はただ、黙っていることしかできなかった。
止めなきゃ。
そう思うのに、言葉が出てこない。
そんな自分が嫌になってくる。
「天衣……私に歯向かうとはいい度胸ですね」
沈黙を破った瑞樹さんが、眼鏡をくいっと上げながら言う。
彼女は険しい顔を浮かべ、はっきりとした口調で言った。
「桜庭家の人間である以上、認めるわけにはいきません。今日は会議が入っているので失礼します。次に来るときはやめる準備をしておきなさい」
半ば強引的に彼女は去っていく。
ドアが閉まった途端、不満の声が上がった。
「なんや、あいつ。感じ悪いわあ」
「大丈夫? あまちゃん」
「……はい。ご迷惑をおかけしてすみませんでした、みなさん」
そういう彼女の笑みには、うっすら涙が浮かんでいた……
(つづく・・・)
今回から天衣ちゃん編突入です。
私個人的にもあまちゃんと呼んでたりするので、
天衣という名前を忘れがちなんですよね、えへへ。
次回、このピンチにどう立ち向かう?




