俺にやらせてくれ
大雨になってしまった影響でルナティックハウスで
一夜をすごすことになった従業員+魁皇は・・・?
あくびをしながら、ゆっくり体を起こす。
嵐が過ぎ去ったのか、すっかり晴天だった。
晴天すぎて台風が来たことを忘れてしまうくらい。
それにしても、とんだハプニングだったなぁ。
神宮さんと一つ屋根の下ということを意識しすぎて眠れないし、美宇さんのひどい寝言で起こされるし……
ついてないなあ、私。昨日と言い今日といい。
「あっ、にがっちゃ~ん。おはよ」
喫茶店内に入ると、そこにはカウンター席でパンを食べている輝流さんがいた。
彼は前髪をゴムでまとめ、顔には眼鏡を……ってむむむ?
「おはようございます……輝流さん、普段コンタクトだったんですね」
「ん? ああ、そだよ~高校の時に視力がガクンと落ちちゃってさ~。それにさ、眼鏡かけた方が知的に見えね?」
う~ん、確かにそうなんだけど……輝流さんが言うと説得力に欠けるというか……
「にがっちゃん、髪長いね~。のばしたとこ、初めて見た」
そう言われて、改めて自分の髪を見る。
私は顔をそらす形でゴムを手に取り、髪をくしでとかした。
「そんなに長くないんですけど、髪の量が多くて困ってるんです。また切りに行かなきゃなあ」
「にがっちゃん、たまにはポニテじゃないのにしたら?」
驚いて、とかしていた手を止める。
彼は満面の笑みを浮かべ、私に言った。
「ほら、にがっちゃんっていつもポニテでしょ? たまには違う髪型にしてみれば? 普段と違う姿とかに王様のハートもゲットできちゃうでしょ」
ふむふむ、なるほど……
ん? 王様? 王様ってまさか……!
「輝流さんっ! 王様のハートってどういう意味ですか!?」
「え? にがっちゃん、王様が好きなんでしょ?」
「誰から聞いたんですか!?」
「うちが昨日送ったんや、メール」
はっとして、声がした方を振り向く。
そこには意地悪そうに笑ってる美宇さんと、苦笑いを浮かべている天衣さんがいた。
「なんで勝手に言うんですか!? 言わないって約束じゃ……」
「マスターには、な。ええやん、協力者は増えたほうが楽やで」
こんの策士め! あてにしたのが悪かった!
よりにもよって輝流さんにばれるなんて!
「おい、お前ら」
低い声が聞こえる。
そこにいたのは、簡単な私服に着替えていた尾上さんだった。
彼は一枚の紙をぺらぺらさせながら、私達に告げた。
「これ、マスターから伝言」
伝言?
不思議に思いながら、ゆっくりとその紙を受け取る。
それは神宮さん直筆のメッセージだった。
『突然ですまないが、家の事情で帰らなくちゃならなくなった。昼過ぎには戻る予定だ。それまではお前ら四人で何とかしろよ 神宮明王』
神宮さん、字キレイだなあ……
って、うっとりしてる場合じゃないよ!
つ、つまりあれでしょ。神宮さんが今日半日いないってことですよね!?
「ちょっ、朝起きた時いなかったのってそれが原因!?」
「ど、どうしましょう。マスターさんがいないなんて……」
「マスターいないと、ましなコーヒー作れる奴おらんで。開店まで時間ないし……」
切羽詰まった様子で美宇さんは唸りながら考える。
彼女はやけくそのように、大声で叫んだ。
「こうなったらリュウ! お前がコーヒー作れ!」
「えっ、オレ!? マジ!?」
「劉生大学通ってて何言うとるん。これもマスターに認めてもらうためやと思って!」
な、なんで劉生大学が関係してくるんだろう……
ていうかただ仕事押し付けてるようにしか見えないですよ、美宇さん……
「一応念のために聞きますけど、如月さんはコーヒーとか作れますか?」
「いえ、本格的なのはやったことないです。美宇さんが輝流さんに言うってことは、作れるんですか?」
「劉生大学にはバリスタ科というのがあって、こういう系のことを学ぶんです。輝流さんはその学科に通っていらっしゃってるので、多分それでかと……」
ということは、だ。
輝流さんはバリスタを目指してるってこと?
チャラチャラしているように見えて、実はすごい才能を秘めてるとか!
「ぐすんっ、ミュウミュ~ウ助けて~」
「んなこったろうと思うとったわ」
はい、期待した私がバカだった~
輝流さんって、本当ダメダメじゃん!
「つかお前大学三年生やろ! ええ加減できるようになれや!」
「これでも頑張ってるんだよ~ね? チューン」
「……なあ。その役、俺にやらせてくれねぇか?」
へ?
私達一同の戸惑いにかかわらず、彼はハンドミルに手を伸ばす。
慣れたような手つきで、豆を焚いていく。
数分後、コップには神宮さんが作ったのに負けず劣らずなコーヒーが注がれた。
「ほれ。鈴木、飲んでみな」
全員がごくりと唾をのむ。
次の瞬間、美宇さんから放たれた一言とは―!
「……うまい」
!?
「マスターまではいかんけど、めっちゃうまいでこれ!」
ま、まさかの展開!!
昨日会ったばかりで、しかも常連客なだけの尾上さんがコーヒーを作れるだとぉ!?
「これいけるわ! 尾上、やるやん!」
「別に。俺もバリスタ科だし、小さい頃から家事とかやってたってだけ」
「チューン、君って人は……!」
「泊めてもらったし、半日は手伝ってやるよ。だから、お前らもさっさと着替えてこい」
それからというもの、尾上さんを加えた私達はあらゆる手で客をもてなした。
天衣さん作のパフェは予想以上に好評で、来てくれた学生の中で「友達にも紹介します」と言ってくれた。
尾上さんのコーヒーは神宮さんほどじゃないけど、すごくおいしいという客が多かった。
え? 私や他の二人はって?
それはいつも通り……女を口説いたり元気に関西弁で客と喋ったり……
神宮さんが帰ってきたのは、午後三時を過ぎたあたりだった。
「どういうことか説明あるよなあ、お前ら」
「ま、マスターおかえり……」
「なんで尾上が、うちの制服着てんだよ」
さ、さすが神宮さん。ちょっとした異変にも気づくんだな。
私の好意が気付かれるのも、時間の問題のような気が……
「いや、オレまだコーヒー作れなくてさぁ。チューンが作ったのがうまかったから、協力してもらったというか……」
輝流さんが言うと、彼はため息をついた。
彼の目線が私に向く。
怒られることを覚悟に、私は首をすくめた。
「水瀬、対応とかうまくなったな。後はカウンターの仕事覚えろよ」
あ、あれ?
「鈴木は皿を割ったくらいで慌てすぎだ。客を動揺させないよう、冷静を心掛けろ」
「ラ、ラジャー!」
「桜庭、今日は笑顔が少なかったぞ。接客は笑顔も大事だからな」
「すみません……」
「杉本はいい加減成長しろ」
「え、オレだけ冷たくない? ひどいよ、王様」
「とにかく、それだけだ。以上」
神宮さんは意外にも優しい声色で、怒っていないように見えた。
私が見つめていると、神宮さんはふっと笑みをこぼした。
そのカッコよさと言ったら、もう!
それはそれはイケメンだと思わない人はいるのだろうか、いやいない!
「今回は助かった。ありがとな、尾上。お前に一つ提案があるんだが」
「なんすか」
「ここで働く気はねぇか?」
!!!?
これって、いわゆるスカウトってやつですか!?
しかもオーナーである神宮さん直々に言ってもらえるとか、最高じゃん!
これを断るわけ……
「……すんません、考えさせてもらっていいっすか」
Why!?
「チューン!? わざわざ王様……じゃなかったマスターからスカウトされたのになんで!?」
「断ってはねぇ、急に言われてわかりましたって言えるわけねぇだろ」
「それもそうだな、悪いな尾上」
「いえ……まあでも、前向きに考えてみます。そんじゃ、俺帰るわ」
去っていく尾上さんの背中を見ながら、複雑な気持ちになる。
この人が従業員にねぇ……なんかいやだなぁ。
「頼もしい限りやなあ。よかったな、天衣! ……天衣?」
美宇さんの声に、私は振り向く。
呼ばれたのに今気づいたのか、天衣さんは苦笑いを浮かべた。
「え? あ、すみません。ぼーっとしてました」
「大丈夫か? なんか顔色悪いで」
「少し気分がすぐれなくて……休憩してきます」
止めようとした私にかまわず、彼女はさっさと休憩室へ入っていく。
そんな後ろ姿を見ていた私達に、輝流さんが思い出したように言った。
「そういやあまちゃん、昨日誰かと電話してたな」
「電話、ですか?」
「ん。なんか浮かない顔してたから、声かけれなかったけど」
何だろう、悩みごとかな?
天衣さんの笑顔を見れないと、なんだか不安になる。
そんな思いを抱きながら、私はドアを見つめた。
(続く!)
次々とばれていく如月は、
わかりやすいほうだって思ってます。
あんなに分かりやすいのに、
どうして明王はきづかないのか
私もはなはだ疑問です。
先日23日に、ラブレター・キスの日だったので
書き下ろし小説を投稿させていただいてます
今回はギリギリだったので間に合って一苦労な半面
褒めてくれる人がいなくてちょっと寂しいです笑
次回、天衣ちゃんに異変!?




