とある少女と女性の会話
少女が空を見ていた。
空は青く澄みわたり、寒気が頬を刺す。ヒラヒラと風に揺れるあら編みの上着。場違いな薄着をいぶかしく思うと、次の瞬間、合点がいく。
彼女は無愛想な宙空服の着こなしとして、上着を羽織っていたのだ。
少女が空を見ていた。否、宙をだ。
「参られますか」
彼女の背中に声かけるものがいた。今の空に似た透き通ったソプラノの声だ。
背の高い女性が霜柱の上を踏み歩いてくる。
そう言えば、彼女も薄着だ。宙空服なども着ていない。それどころかあちこち肌があらわになる春か夏かの装いだ。
少しも、寒そうにしていない。話す息が、白くならない。少女のは白いのに。
幽霊?まさか!
でも、それがこの女性の正体を一番的確に表しているように思えた。
少女は、そんな女性に向き直ると微笑む。
けれども、直ぐに顔を少し陰らせる。
「ええ、東方鎮守府よりの参集です。義は果たさねばならないでしょうね」
女性は、そうね。と同意しながらも、面白くなさそうに言う。
「けど、あなたの船は、確かに軽快でその航跡は、目を見張るものがありますが、それだけではどうにもなりませんよ」
「彼らの艦の先読みとなれば、何かしらの役に立つでしょうね」
そう言いながらも、少女の言葉に熱はない。
ふっと一息付いて女性。
「そんなつまらないことのために?」
と言う。
「ええ、確かにつまらないわね」
私と友の命を賭けるには、と少女はため息を付きながら、微笑む。
「レシピよ」
女性は何処からともなく書面を取り出す。ふくざつな、記号と図形。数式。
「これは?」
少女は訝しげに女性を見る。
「私を…私達を楽しませてちょうだいね。光輪の帝国の領域を盗る前から分割しておこうなんて。私、かの国には見所があると思っていたのに、私にまで失礼な話よ」