水を、ください
ひとつ、大きく伸びをした。そして欠伸。
すべきことも済んでしまった昼下がり、空はどんよりと曇っていた。
重く、湿気を孕んだ風が髪を弄ぶ。それがなぜか、ひどく心地よかった。
カサリと音がした。視線が吸い寄せられる。
音の主は、この風とは対照的にカサカサに乾いた枯れ葉。
踏みつけたら、粉々に砕けるのだろうかと、少し残虐な自分が首を擡げる。
嗚呼、退屈すぎて死にそう。
どんよりと今にも泣き出しそうな空を、睨みつけるようにして呟いた。
泣き出しそうだといっても、今日の予報は曇り、降水確率10%。確実に降るとは思えない。
中途半端なやつめ。
泣けよ。
少しだけ、語気を荒げて呟いた。
泣けよ。勝手に感傷ぶってんじゃねえぞ。
非日常が欲しかった。
今ここで降られて、雨に濡れれば、少しだけそれに近づける気がする。
骨の髄までずぶ濡れになってしまえば、全て許されるような気もしていた。
なにがあったわけでもない。
ただ、意味のない退屈さと、意味のない罪悪感に追われていた。
ただ、ひたすらそれから逃げ続けて、走りつかれて、カラカラに乾いてしまった。
ただ、それだけのこと。
ひとつ、大きく息を吐いた。ひゅう、と喉がなる。
空は、頑としてまだ泣かない。
傷だらけの手を、腕を、空に突きつけた。
風が吹く。換えたばかりの包帯の匂いが、鼻をつく。
空は目をそらすかのように、雲を流した。
泣けよ。泣いてくれよ。頼むから。
視界がにじむのは、包帯の白が目に痛いからだと、思った。