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脚フェチな彼のライバル7

「総一郎殿、離れていた方が良い。ちと荒れそうじゃ」

「遠慮なくそうさせてもらう。って、そんな事より大丈夫なのか? アレ」

 至って普通の口調で話す三厳に、思わず聞いてしまう俺。

「ふむ、些か骨が折れそうではあるが……この手合いの化物けものであらば、往時の主殿と共に、それこそ掃いて捨てる程斬り伏せてきたものじゃ。何、そうご案じ召さるな総一郎殿」

「なら良いけど…………」

 三厳の自信に満ちた回答を聞いて、正源司の隣にそびえる大蛇の威容を改めて見上げる。

 二階建ての一軒家程の高さはあるだろう。長さも10mは軽く超えている筈だ。大型バスくらいのサイズかと思ったけど、もっと大きいか。やたらとメタリックでロボな感じのフォルム。流石に本物の蛇のように舌をチロチロと出し入れはしていない。

「さ、早うこの場を。某よりも御身の心配をされるが良かろう」

 ついついボーっと見入ってしまった俺を、三厳が促す。

 その言葉に従って、俺は傍らの3号を抱え上げると、回れ右をして小走りで芝生広場の中央付近から敷地の道路に面した端まで移動した。

 距離にして大体30~40mといったところだろうか。

 三厳や正源司の姿は小さくなっているが、蛇だけは相変わらずの存在感で、やはり不安感は拭い切れない。

「いや、大丈夫。三厳を、自分を信じろ」

 俺は首をぶるっと振って、自分に喝を入れた。

 付喪神の力には付喪主の精神状態が影響する。俺が尻込みしていては、三厳だって全力を出し切れない。

 そうこうしている内に正源司も蛇の傍を離れて、俺達から少し離れた位置までやってきた。

 10mくらい離れたところで立ち止まり、こっちを向いてニヤリと一つ笑みを見せて広場中央の方に身体を向ける。

 広場には三厳と大蛇だけが対峙する空間が生じていた。

 三厳は既に抜刀して正眼に構えている。

 間合いは大体5・6mくらいはあるだろう。

 対する鈍い銀色の鱗で月明かりを照り返している大蛇丸は、LEDのように紅く光る両の目を三厳に定めて微動だにしていない。

「おじさん大丈夫かな?」

 隣に立って俺の右手を握っている3号が、どことなく不安げに聞いてきた。

「……大丈夫、だと思う。昔のお前達って強かったんだろう? そのお前らと引き分けた剣豪の刀の付喪神なんだ。たかが蛇くらい」

 俺は自分に言い聞かせるようにして、3号の小さな左手を握り返した。

 その時、

「あ」

 三厳が動き、3号が小さく声を上げた。

 先に動くのは、何となく三厳だろうとは予想していた。

 が、

 そこからの展開は、まるで予想していなかったものとなる。

「三厳!!」

 俺は思わず大声を上げていた。

 鋭い踏み込みであっという間に間合いを相殺した三厳。

 しかし正源司の付喪神・大蛇丸は、その巨大な身体からは想像出来ないような素早さで尻尾を振り回し、いとも簡単に三厳を薙ぎ払っていたのである。

 身長がかるく180㎝を超える三厳が冗談のように吹き飛ばされて、その後を大蛇が、またもや想像を超える速さで追う。

「三厳!!」

『心配御無用』

「!?」

 再び声を張り上げた直後、頭の中に三厳の声が直接響いてきて、続いて高らかな金属音が響き渡った。

 一撃で勝負がついてしまったかと思ったが、吹き飛ばされた三厳は空中でくるりと身を翻し、事も無げに着地すると同時に地面を蹴り、追撃の体勢にあった大蛇と交差しながら刀を振り抜いていた。

『思うたよりも素早いようじゃ。ちと肝を冷やしたが、あれしきで某を仕留める事は出来ぬわ』

 広場の中央辺りまで戻って来た三厳。

 つながった霊力のパイプを通じて直接話し掛けてきているようだ。

「良かった…………」

 一先ず安堵の溜息が漏れる。

 しかし、それもほんの束の間。

 激闘はすぐに再開された。

「うわっ!?」

 胴を斬られた大蛇はあっという間に踵を返し、待ち構える三厳に襲い掛かり、強烈な尻尾の一撃を頭上から叩き込んできた。

 その勢いは凄まじく、芝生の地面を抉ったのは勿論、その衝撃波俺達が居る張られた場所の地面を揺らす程だった。

 相対する三厳はその一撃を横にかわし、振り下ろされた尾に上段から斬りつける。

 再び金属音が、ほぼ同時に4つ響いた。

 しかし、先程の胴への一撃と同様、ほとんど傷らしい傷はついていないように見える。

 やはり見た目通り、金属製の身体のようだ。

 大蛇丸は三厳の斬撃をものともせずに、今度はその巨大な顎を大きく広げて襲ってきた。

 たまらず大きく後方に跳んで避ける三厳。

 すかさず蛇もそれに続き、2度3度と同じように三厳を噛み砕こうと追いすがってくる。

 捉え切れずに顎が閉じる度に、ガチンガチンという音が木霊していた。

 一噛みでもされればたちまち致命傷になる事は火を見るよりも明らかだ。

 しかし、華麗な動きを見せる三厳がそれを許さない。

 目にも止まらないような尻尾や大顎の攻撃を、全く危なげない動きで寄せ付けず、更に華麗なカウンターを決め続けている。

 この勝負、最初はどうなる事かと思ったけど、今のところは問題無さそうだ。

 小さく溜息をつきながら、俺は少し肩の力を抜いた。

――まだ安心は出来ないが………………

 ただやはり、どんなに三厳が斬りつけようと、大蛇丸にダメージを与えてはいないようである。

 少しずつではあるが、鋼の身体には傷が増えてはいる。

 が、その傷はいずれも浅く、見た目通りの硬度である事を証明しているようだった。

 それでも三厳は、着実に斬撃を与え続ける。

 大蛇丸が繰り出す致死の一撃の数々を紙一重でかわしつつ、正確無比なカウンターの一撃を見舞う。

 繰り返し見せるその光景。

 だが終わりの予感が全くせず、まるで先が見えない。

 再び少しずつ、嫌な予感が膨らんでくる。

 焦燥感に駆られながら正源司の様子を窺い、そして、更に不安が高まった。

 展開だけ見れば一方的にやられている筈の大蛇丸であるが、正源司は不敵な笑みを浮かべて泰然と腕組みをしているだけで、むしろ俺よりもよほど落ち着いているように見えたからだ。

「痛いよ」

 不意に3号がそう漏らす程、俺は知らない内に右手を握り締めていた。


よろしくお願いします。

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