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脚フェチな彼のライバル6

ショートカットの為俺達を華麗な大ジャンプで一気に芝生広場へと運んだお光。

 しかし、体験した事の無い浮遊感は正直恐怖以外の何物でも無かった。

「前もって言え!! 死ぬかと思ったじゃないか!!」

 涙目で、背中を見せているお光に詰め寄る俺。

 しかし当の本には俺の言葉に全く耳を貸さず、正眼の構えで黒装束の忍者に相対していた。

 当然だろう。今はそれどころじゃない。

 しばらく睨み合いが続いていたが、そこに遅れて、光世とそれを追って来た忍者その2、更に正源司を背中に背負った忍者その3が、俺達と同じように上空から芝生広場へと現れた。

「大事無いか、総一郎殿。お光に3号も」

 光世の右隣に並んで刀を構えながら光世が問い掛ける。

「総一郎殿達もそれがしも無事にございます。姉様もご無事で?」

「無論。じゃがここからが正念場ぞ」

 光世が少し緊張したような声で言う。

 俺達の正面に等間隔で並んで立つ同じ姿の忍者3人。

 恐らく個々の能力ではお光と光世には及ばないだろう。

 しかし、僅か1人ではあるが数の利は向こうにある。

 しかも相手は忍者だ。まだ見せてはいないが、恐らく忍術のような特殊な技を駆使して来る可能性が考えられる。

 トリッキーな戦い方をする相手に、ひょっとしたら後れを取る事が無いとも限らない。

 なら、数の不利は大きくなるが――やるしか、ない。

「ここらで幕と行こうぜ、仙洞田」

 密かに決意したところで、正源司が忍者の背後から姿を見せた。

「悪足掻きはやめといた方が良いぜ? やる気だってんならとことん付き合ってやるけどな。どうする?」

 余裕の表情を見せながら、そう問いかけてくる正源司。

 けど、答えは決まってる。

「逃げるつもりは無い」

 短く応えて、俺はお光と光世の肩に手を掛けた。

「頼む、2人とも」

「御意」

「任された」

 お光と光世は、それぞれチラリと俺の方を振り向いて力強く応える。

 そのまま俺は、すっ、と息を吐いて目を閉じる。

 顕現した状態のまま融合させるのは初めてだったが、不思議と躊躇いは無かった。

「行くぞ!! 三厳!!」

 カッと目を見開いて、俺は鋭く声を上げた。

 次の瞬間、お光と光世の姿は眩い光に包まれて、そして風が吹き荒れる。

 光と風はすぐに収まり、その後には、大柄な1人の侍の姿だけが在った。

「数の上ではさっきより不利になったが……行けるか? 三厳」

「愚問、と言わざるを得ぬのう。総一郎殿」

 そう言いながらゆっくりと振り返った三厳は、

「乱波者に遅れは取らぬ。我が柳生の剣、とくとご覧じるが良い」

 自信に満ちた笑みとともに俺に答えて、そして再び正源司達の方に視線を戻すと、ゆっくりと一歩踏み出した。

「もう準備オッケーか?」

 三厳の様子を見て、正源司が問い掛けてくる。

「ああ、問題無い」

「そうか。最後に一つ忠告しといてやる」

「何だ?」

「敵を目の前にして悠長に戦いの準備なんて普通出来ねえからな? そういうのも全部ひっくるめての勝負なんだよ。ホントだったらもう勝負はついてる。融合の為に意識を集中させたその一瞬で、お前の意識を刈り取るくらい余裕だったんだぜ?」

 大袈裟に肩をすくめながら正源司が言う。

「ならどうしてそうしなかった? 手加減しないような事、言ってた筈だが?」

「見てみたかったんだよ、お前の全力を」

「俺の?」

「そう。男同士の、しかも付喪主同士の一騎打ちだ。正面切ってガチでやり合わねえと意味無えだろ? だからわざわざこの場所まで来るのにも付き合ったんだよ。折角の勝負だ、ちまちまと狭苦しい山の上でやってもつまんねえしな」

「……最初から俺と戦うつもりだったようにも聞こえるな」

「そのつもりだったぜ? 俺様はもっともっと強くなりてえんだ。黒井のおやっさんみてえにな。少しでも強えヤツとやれるチャンスがあんだったら逃す手は無え。例え相手がルーキーだったとしてもな」

「だったら期待外れだな。俺みたいな小者に勝ったところで、経験値なんてスズメの涙くらいのものだろう」

「謙遜も行き過ぎると嫌味に聞こえるってもんだ。能力に目覚めて2か月程度にも関わらず、天下五剣を持ってロクに訓練もしてねえってのに同化までやってのける付喪主。俺様が全力でぶつかるのに相応しい相手だぜ?」

 腕組みをしながら、真直ぐに俺の目を見て正源司が言った。

 この言葉で、俺は得心した。

 目の前に居る男は、外見はいかにも好戦的でワルそうなタイプで、しかも喜由達を狙う明らかな敵だ。

 にも関わらず、俺はどこか正源司に好意的な印象を持っていた。

 それは、最初からコイツが真実を語り、自分の立場との違いを踏まえた上でこちらの事情にも理解を示しつつ、それでもやはり自分の果たすべき使命に忠実であろうとする姿を見せているからだ。

 つまり正源司は“漢らしい男”。

 出会い方が違えば、ひょっとしたら友人になり得たかも知れない。

 だったら、俺も相応の態度を見せなくてはならないだろう。

「お前の言う事は良く分かった。だったら出し惜しみするな、とだけ言っておく。お前もまだ余力を残しているんだろう? 手前味噌になるが、三厳は強いぞ?」

「んな事くらい分かってるっつーの。だからこっちも最初からアクセル全開で行くつもりだ」

 そう言うと、正源司は忍者達の後ろまで下がって、そして静かに目を閉じて両手を合わせた。

 目に見えて正源司の雰囲気が変わった。

 やがて、閉じていた目を開く。

「っしゃ!! 準備万端気合十分!! 仙洞田!! 今更降参なんてダセえ事言い出すなよ!!」

「愚問だ! お前の本気……正面から受けて立ってやる!!」

「上等上等!! じゃあ行くぜ!!」

 そう言うと、正源司は合掌していた両手の指を絡めさせる。

 印を結ぶ、というやつか。

 続いて忍者達も正源司と全く同じように印を結んで構えた。

「三柱合神!! 出でよ、大蛇丸!!」

「うおっ!?」

 正源司が声を張り上げた次の瞬間、広場は溢れる光の奔流に飲み込まれた。

 そして突風が吹き荒び、思わず体勢が崩れる。

 しばらくして光と風が止み、俺はゆっくりと目を開けて、

「おい………………嘘だろ………………?」

 思わず空を見上げてそう呟いた。

 正確には見上げたのは空ではなく、目の前に忽然と現れた、巨大でやけに金属質な物体。

 形容するなら“蛇”

 しかし、形こそ蛇であるものの、全身は月明かりを照り返す鋼鉄のように見える鱗で包まれて、しかも大型バスくらいはある規格外のサイズと来ている。

 あまりの衝撃に、恐怖という感覚が麻痺してしまっていた。

「行くぜ仙洞田!! 正々堂々と勝負だ!!」

 メタリックな大蛇の横で、俺達をビシリと指差しながら正源司が言った。

 何が正々堂々だ。

 とんでもないバケモノ用意しやがって。

 正直俺は、正源司への評価を見直そうと真剣に考えていた。


よろしくお願いします。

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