脚フェチな彼のライバル3
深夜の公園に緊張が走る。
気が付けば、辺りは気持ち悪いくらいの静けさに包まれている。
既に何らかの仕掛けが施されているのかも知れない。
「あれ? 違ったか? 眼帯つけた可愛い剣道女子の付喪神使いだって聞いてたんだけど?」
「…………どこ情報だよ、それ」
「何だ、やっぱそうなんだろ? 黒井のおやっさんからさ。ルーキーだけどなかなかの使い手だってな」
「黒井さんに……?」
「おう」
やはり。
素直にそう思った。
とあるゴーストバスターズとは十中八九黒井さんや先輩が所属する組織を指しているんだろう。
そしてコイツは、その一員で異常犯罪者を追っているエージェント。
「まあ聞いたって言っても転属が決まったつい最近だけどな。どんなヤツなのか会ってみてーって思ってたんだ。俺とタメだっていうし」
年上には思えなかったが、やはりそうだったのか。
「同じ付喪主だって聞いたからな」
「!?」
「ま、そんな構えるなった。一応これでも正義の味方の端くれだ、異能持ちでも別に悪い事してなけりゃ懲らしめようなんて思っちゃいねえ。しかも俺は心が広いんだ。同い年、しかも同じ能力のよしみだ。“未遂”だったら見逃してやる。とっとと付喪神引っ込めて家に帰るってんならな」
正源司の表情から笑みが消えた。
最後通牒という事だろう。
好戦的な雰囲気が更に先鋭化して、殺気立っている状態にまでなっている。
「……何を言っているのかイマイチ分からないな。俺は別にやましい事なんて何もしていない」
「シンプルに行こうぜ? お前に関しちゃ他の情報も聞いてんだ。身内に九尾が居るって事もな」
「………………」
「勘違いしてるみてえだから忠告してやるよ。いいか? 九尾はな、一山幾らの駆け出し付喪主風情が飼い馴らせるようなペットじゃねえ。その気んなりゃこの国をひっくり返せるくらいの力を持った伝説のバケモノだ。家族として暮らしてきて情が移ったってのも分からんでもねえが、諦めろ。中身は所詮妖怪。共存共栄なんて夢物語ってやつさ」
「違う」
「何?」
俺は正源司のセリフを即座に否定した。
確かにそう“だった”のかも知れない。かつての喜由、いや、白面金毛九尾の狐は。
しかし――
「今は九尾じゃない。仙洞田喜由、俺の妹だ。小生意気で要領が良くて口が達者でカチンとくる事も多々あるが、そんな、どこにでもいる普通の妹だ。お前や黒井さん達に追われるいわれなんて何も無い」
「別にこの場で問答するつもりなんてねえよ。お前が自分の妹の事をそう思うんだらそれで結構。けどな、九尾の片割れは別だ。お前の妹をどうこうするつもりはねえが、獲物を横取りしようってんならタダじゃおかねえ。2つに1つだ。選べよ。おとなしく引き下がるか、それとも無駄な抵抗で足掻くか」
そう言いながら、正源司は姿勢を低くして右腕を背後に回し、ゆっくりと元の位置に戻す。
その手には、武骨な鉄の塊のような刃物が握られていた。
マンガなんかで見た覚えがある。忍者の武器で、苦無とかいった筈だ。
「お前のみたいに由緒正しい業物ってんじゃねえけどな。けど、付喪主の強さは器で決まる訳じゃあねえんだぜ? 来い! 真一!!」
正源司が召喚の言葉を叫ぶと、右手に握られた苦無が光を放った。
そして光が収まると、そこには全身を黒一色に塗りたくったような、
「忍者…………?」
どこかで見たような、モロ忍びの者が立っていた。
「カッコ良いだろ? 影の軍団っていう昔の時代劇に出てくる服部半蔵にそっくりなんだぜ?」
「ああ…………」
見覚えがあると思ったら、ネットで喜由二見せられたアレだった。
大柄で俺よりも頭一つ以上高い身長。黒頭巾で頭部を覆って、ギラついた目だけがギョロリとこちらを睨みつけていて、両の手には逆手で苦無が握られている。
思わず息を呑む程の迫力だ。
「主殿」
「ご下知を」
密かに真一と呼ばれた忍者にビビッていると、正源司達を見据えたまま、光世とお光が俺に問い掛けてくる。
2人の後ろ姿からは、全く退こうという気配は伝わって来ない。
既にやる気十分になっているようだ。
心臓がバクバク鳴っている。
正直怖い。
いつもだったらビビッて腰が引けているところだけど――
「お光、光世。分かってるとは思うが……力を貸してくれ。喜由の為に」
「無論です」
「是非も無し」
ここは絶対に退けない。
俺は腹を括って正源司を睨み返す。
「正源司、俺は別にお前の邪魔をするつもりなんてない。俺はただ単に迷子の妹を探しに来ただけなんだからな。そんなゴツイい忍者をけしかけられる覚えは無いが」
「成程。それが答えか。安心しろ。殺しゃしねえから」
正源司の殺気が更に膨らんだ。
「お、そう言えば1つ聞くけどよ」
「何だ?」
「お前の頭のソレ。そんなのつけるの流行ってんのか? 福乃井って」
「!? こ、これは……! し、趣味だ!! 悪いか!!」
「いや、別に悪かねえよ……趣味は悪いとは思うけどな。ま、人それぞれだしな」
殺気を孕んだ鋭い視線から一転、俺の意味不明な言い訳を聞いた正源司は、どこか憐みを含んだ目で俺を見ている。
何とも言えない気持ちになってくる。
「さて、茶番はここまでだ。こっちも暇じゃねえんでな、手短にいかせてもらうぜ?」
「そう簡単にお――」
正源司の挑発に応じようとしたが、俺は途中で言葉を失った。
気が付けば、
ほんの目と鼻の先に、
苦無を振り上げた忍者の姿があったからだ。
よろしくお願いします。




