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脚フェチな彼の妹8

「なあ一つ聞きたいんだが、お前の本体って石ころなんだよな? でもこないだとかお前から俺の霊力を回収したら、石ころじゃなくて狐耳の姿になった。あれってどういう事なんだ?」

 俺は、敢えて喜由の葛藤とは関係の薄い話を切り出した。

「んん?」

 怪訝に思ったのか、喜由も壁に向けていた顔を、少しこちらに向ける。

「どういうって……別に大した事でも無いけど……100の内99の霊力だけ返すようにして、残りの1と足りない分を妖力で補ったからケモ耳っ娘になったってだけ」

「100%回収したらどうなるんだ?」

「石に封印されちゃう。殺生石から抜け出して他の石に逃げ込んだっていったけど、実はその石ってのも殺生石の欠片なんだ。結局封印が解けた訳じゃないから、いくら上手に石から逃げ出しても、封印の呪縛からは逃げ切れない。力尽きた時点で石に強制送還されるのさ」

「そっか……それってあれか? お前が元の力を取り戻してもって事か?」

「それ聞いてどうすんの?」

 俺の話の意図が掴めないからか、喜由がチラリと顔をこちらに向けて苛立ちの混じったような声で返事をする。

「別にどうも。どうなるのか気になってな」

「…………多分そんなに大きく変わる事は無いと思う。むしろ封印の効果が強くなるんじゃないかな。柳生さんとこのとドンパチやった時は貯め込んでた妖力で強引に抜け出したけど、兄者と会うちょっと前くらいからは気が付くと石の外に居たってことが割とあったんだ。あれって死にかけで力もカスカスだったから封印の効果が薄くなってたんだと思う」

「ふーん。じゃあこうやって自由に外を歩き回ったり出来なくなるって事か」

「多分ね。封印突破出来るくらい力を充電しなきゃね」

「そうか」

 俺が納得したように答えると、喜由はふんと鼻を鳴らして、またゴロリと壁に向かって横になった。

「総一郎殿…………」

 俺達のやり取りを見ていたお光が、心配そうな表情を見せながら俺の名を呼ぶ。

 そんなお光を、俺は無言で頷いて制した。

「なあ喜由」

「んー?」

「お前さ、元に戻れよ」

「はあ?」

 今度は横になったまま、ぐるりと壁の方から身体を俺の方に向ける。

「何でよ」

「別に、理由なんて無い。ただ、やっぱり元々一つだったっていうんなら、元に戻るべきなんじゃないかと、ただそう思っただけだ」

「けどそうしたら、あたしは大妖怪になっちゃうんだよ? そしてらどうするの?」

「どうするもこうするも無いだろう。どうにか先輩達を説得して、何とか衝突だけはしないように努力するさ」

「いやそういうんじゃなくてさ、白面金毛九尾っていったら札付きなワケ。いくつもの国を潰してきた性悪の大妖怪なの。そんなのになっちゃうんだって言ってんの」

「仮にそうなったとしても、お前は俺の妹だ。オフクロが腹を痛めて産んだ仙洞田家の一員だ。その事実が失くなったり変わったりする事は無い。だったらお前、俺としても先輩とは仲違いしたくなはないし、説得するしかないじゃないか」

「…………………………」

「最悪俺の霊力を全部回収すれば石に封印されるっていうんだったら、逆に好都合だ。先輩だって危険性が低いって納得してくれるだろう。だから……って、喜由?」

 話している途中で、喜由が黙ったまま俯いている事に気が付いた。

 思わず喜由と顔を見合わせるが、困惑した表情が返ってくるだけ。

 しばらく様子を窺っていると、喜由は体操服の袖でゴシゴシと顔を擦り、鼻をすすりながら顔を上げた。

 その表情はどこか晴れやかな笑顔だったけど、目が紅く充血している。

「へへっ、まったく兄者はブれないなあ。分かったよ。だったらお願いしちゃう。あたしの分身、助けて下さい」

「おう、任せとけ。必ず見つけ出してやる。なあ、お光」

「無論です。ですからどうぞ涙をお拭き下さい、喜由殿」

「なななな泣いてんちゃうわ!? あくびやあくび!! ふあ~あ!! あ~ねむ!!」

 懐からハンケチを取り出したお光に、喜由は顔を真っ赤にして言い放ちながらマッハの速度で俺の布団に潜り込んでしまった。

「まあ兎に角お前は家で2号と留守番しててくれ。俺は早速これから探しに出かけるから」

「今から? もう夜遅いのに?」

 掛布団越しに喜由が返事をする。

「こうしている間にも、3号が先輩達に追い詰められているかも知れない。1秒でも早く見つけないとな」

「総一郎殿の仰る通りです。ご心配には及びません。それがしも同行致します故」

「わしもおる」

 その時、部屋のドアがガチャリと開いてチビ光世が姿を見せた。

「にごうはねた。このままそっとしておくが良い」

「そうか、助かった。じゃあ行こうか」

「まてあるじどの。のうきゆよ。どこぞかたわれのゆくえにこころあたりはないか? このままやみくもにさがしまわっても、いたずらにめだつうえにときをろうひするだけじゃ。おもいつきでもかまわぬ。なんのあてもないよりはとほどたよりになろう」

 光世に言われてハッとした。

 確かに、何の手がかりも無い今の状態では、一体どこから探していけば良いのかも分からない。あてずっぽうの勘だとしても、何かしらのヒントが得られる可能性だってある。

「……多分、だけど……案外近くに居るんじゃないかな。最悪見つかっても、捕まる前に元に戻れればokだし」

「近く、か。成程な……」

 それでもまだ捜索範囲は広い。

「それと、やっぱり隠れやすいところかな。昼間でもあんまり人が寄り付かなくて、身を潜めてられるような場所」

「昼間でも人が寄り付かない、か」

 結構絞られてきたかも知れない。数は少ないがいくつか心当たりがある。

「よし、十分だ。行こう」

 俺の言葉に、お光と光世が頷いて応えた。


よろしくお願いします。

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