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脚フェチな彼の試練3

 現在時刻は午後6時を少し回ったところ。

 俺は通学路の県道を、一人自転車を漕いでいる。

 結局あの後、血の涙まで流しながら葛藤する俺を不憫に思ったのか、先輩の追求はそれきりとなった。

 そのまましばらく雑談で時間を潰して部活は終了。

『しばらくの間、君の家の周辺が要警戒区域に指定される事になりそうだ。万が一を考えて、暗くなってからの外出は極力控えるようにしてくれ』

 帰り際に、先輩はそう言っていた。

 未だに先輩の所属する“組織”がどういった体系であるのか詳細は教えてもらってはいないが、どうやら俺の家の周りを、先輩始め先輩の仲間たちがパトロールする事になったらしい。

 一難去ってまた一難だ。

 そもそも根本的には何も解決していない。

 取り敢えず今日のところは難を逃れたものの、明日も明後日も先輩とは学校で顔を合わせる事になる。このまま知らぬ存ぜぬを通す事は不可能だ。

 しかも次にあの甘い誘惑で迫られたら――間違い無く陥落してしまうだろう。

 というのは冗談にしても、だ。

「参ったな…………」

 赤信号で自転車を停めながら、俺はポツリと零した。

 目の前の交差道路を、家路を急ぐ車がビュンビュン走り抜けていく。

 俺はその車列をボーっと眺めながら、あれこれ考えていた。

 先輩が取り逃がしたという妖とは、十中八九2号(命名・喜由)の事だろう。

 そしてその逃亡犯は今現在俺の家に潜伏していて――もうこの時点で色々とアウトなんだが――その事を何とか隠し通さなくてはならない。

 先輩や黒井さん達は、喜由の、九尾の狐の復活を警戒していて、2号はその復活をこそ目的としている。

 その為に、2号は最後の1人を捜そうと主張するが、喜由は難色を示している。

 仮に喜由がその気になったとしても、既に先輩達からマークされていて、そう簡単に事が運ぶとは思えない。

 八方塞である。

 そこまで考えて、俺は盛大に溜息をついた。

「あっ」

 と、それと同時に俺の横を自転車が通り過ぎて、いつの間にか信号が青になっていた事に気が付いた。

 慌ててペダルに足をかけたが信号は点滅を始めてしまい、俺は諦めて次の青信号を待つ事にした。

 その後もあーでもないこーでもないとうんうん唸りながら自転車を漕ぎ続け、気が付けば自宅前にまで辿り着いていた。

 ガレージに自転車を置いてトボトボと玄関へ、は向かわずに俺はそのまま家の周りをぐるりと一回りした。

 これといって怪しいモノも不審な人影も見当たらない。

 まあ学校周辺の霊的な仕掛けなんかにも気が付かない俺だ。実際に何かあったとしても、多分素通りするのがオチだろう。

「この辺りも今後の課題だよな……」

 ブツブツと呟きながら、今度こそ玄関へ。

 ドアを開けると喜由のスニーカーが目に入った。

 何となくその光景に安堵の溜息を洩らし、家に上がってリビングに続く引き戸を開けた。

「あ、おかえりなさいおにーに」

 ソファにちょこんんと座ってテレビを見ていた2号が、俺におかえりの挨拶をしてくれた。

「……ただいま……ただいま! 2号!!」

 気が付けば、俺は2号に駆け寄って、涙ながらにその小柄な身体を抱き締めていた。

 おにーに。

 小さい頃、喜由は俺の事をそう呼んでいた。

 見た目はまんま幼い頃の喜由だから、俺は2号に自分の事をそう呼ぶように言っておいたのである。

 効果はテキメン。まさにあの頃の妹そのままである。

「あのさ……ロリはロリでキモいけど、感動の涙流しながら妹の分身抱き締めてるってのも見るに堪えないんだけど……」

 頭の後ろの方から、冷ややかな声が聞こえて来た。

「痛いよおにーに」

 ついでに腕の中の2号からもクレームが。

 俺は仕方無く腕をほどいて立ち上った。

「妹に対する惜しみない愛情を表現する事に、何を非難される事があるだろうか」

「愛情くれるなら金をくれ、でござる」

 これである。

 全く、時間とは何とも残酷なものだ。天使を容易に小悪魔へと変貌させてしまう。

「どっちかってーと女狐の方が的を射ているかと」

「勝手に他人の心を読むんじゃあない。それより丁度良い、話があるんだ。部屋に来てくれ」

「オッケー。ってか今おみっちゃん殿とお姉ちゃん殿と一緒に兄者の部屋に居るんだけどね。ベッドの上で食べる源氏パイ取りにきたとこでござる」

「わざわざベッドの上で食べるを付け加える必要は無い。2号も連れて来てくれ」

「あいよー」

 喜由の返事を聞いて階段を上がる。

 その言葉通り、部屋にはお光とチビ光世が居た。

 現在家にはチビが2人いるという、実に心が浄化される環境が整っている。

「んで? 話って何でござる?」

 荷物を置いて部屋着のTシャツとスエットに着替え終わったところで、丁度喜由と2号が部屋に顔を出した。

 チビが2名とはいえ、合計で5人も部屋に入ると狭くなってしまう。

 学習机の椅子に俺が座り、床のテーブルのところに喜由とお光、そしてベッドの上にチビ2人という配置で収まった。

「他でもない、お前と2号の事だ。実はちょっとマズい事になってる」

 俺はそう前置きして、先輩とのやり取りについて説明した。

 が、

「色仕掛けに耐えて良く頑張った! 感動した!」

「総一郎殿、拙者少々見直しました」

「しかし、あるじどのがうそをついているというせんもいなめぬところではないか?」

 3人はどうでも良いところに喰いついてきた。

「そこじゃないだろ。マークされてんだっての。危機感ゼロか」

「挨拶代りのボリヴィアンジョークでござる。ってかそんなの初めて聞いたんだけど。良く逃げ切れたもんだね、2号」

「知らない」

「何だそれ。何が知らないんだ?」

「別に追いかけられてない。普通に電車で来た」

「電車ってお前……じゃあ…………」

 しれっとした様子で言い切った2号。

 予想外の回答に俺や喜由は勿論、お光と光世も言葉を失っている。

 事態は想定していたよりも、遥かに逼迫していたようだ。

 最後の分身も、近くまで来ている。


よろしくお願いします。

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