脚フェチな彼の進化8
「へたれだなー、ホント兄者はダメだわー」
「おい、他人のベッドの上で源氏パイ食うなよ。こぼれるだろ」
その夜、学校での一連の出来事について、喜由も交えて検証する事になった。
「仕方無いだろう? そう気安く女子の身体に触れられるもんか。ヘンなとこ持たないように気を遣うし、そもそもどこをどう持ってもセクハラ扱いされそうだし」
「その発想が既にエロいんでござる。気ぃ失ってるおにゃのこ運ぶだけじゃん。何でセクハラとかって方向にいくかなあ」
「いや、だってそうじゃないか。後で何言われるか分かったもんじゃないし……」
「よっぽど乳とかケツとか触りまくりでもしなけりゃ無問題だっつの。もっとこう、ビシッと男の子! ってとこ見せて欲しかったにゃー」
「もういいって。そんな事より敵の親玉が出てきたんだぞ? そっちの方がよっぽど大問題じゃないか」
さっきからこの調子で、本筋の話が中々進まない。
まるで他人事だと思って暢気なものだ。
「さよう。そのあたりにしておけ、きゆよ。いまはそれどころではない」
「……あの者、まるで底が知れませんでした。あのまま戦っていれば、どのような結末になっていた事やら」
ぶっつけ本番だったとはいえ、融合はものの見事に成功した。だと言うのに、2人とも表情は冴えない。
かくいう俺も、手放しに成功を喜ぶような気分では無かった。
「まあそんなしみったれた面しなさんなって。上手くいったんでしょ? 融合。なら良かったじゃん。不幸中の幸いってヤツでござる」
そう言って、ベッドの上であぐらをかきながら、源氏パイをポリポリかじっている喜由。
お気楽な発言だが、確かに一理ある。
手放しで喜べないからと言って、何の成果も無かったという訳じゃ無い。それに、滝夜叉姫も去り際に“当分現れない”とも言っていた。
新しく手に入れた力を元に、レベルアップを図る時間は十分にあるという事だ。
それにそもそも、あの時の融合は、完璧じゃなかった。
「どったの? 兄者。おみっちゃん殿の脚凝視したまま固まっちゃって。フリーハンドで暴発でもしちゃったでござる? レベル高杉で草不可避」
「んな訳あるか。いくら俺でもその域には達していない。少し考えてたんだ。なあお光、光世。試してみたい事があるんだ。一肌脱いでもらえないか?」
「ふむ。わいせつなことでなければかまわぬが」
「総一郎殿が仰ると、どうも普通の言葉でも卑猥なものに聞こえて仕方がございません」
「んで? どんなロクでも無い事思いついたんでござる?」
散々な反応だった。
こいつらの中で俺はどういうポジションなんだろう。
「……まあ良い。あの時の融合、完璧じゃなかっただろう? ほら、光世がチビのままだったし。それでも巴御前を圧倒出来るくらいだったんだ。だとしたら、だ。あの魔界転生ヴァージョンのお前達だったとしたら、どれくらい強くなるんだろうか」
「成程……それはごもっともにございますね。あの場では戦いに集中し特段意識はしておりませんでしたが、確かに姉上殿が万全であったならば、更なる強さを得られていた事は間違いございません」
「おもしろい。ためしてみるかちはじゅうぶんにあるのう」
「だろう? その力を確かめてみてからでも、今後どうするかを考えるのは遅く無いと思うんだ」
思った以上に2人の食いつきは良かった。
これは期待出来そうだ。
「よし、じゃあ善は急げだ。喜由、こないだみたいに結界頼めるか?」
「だが断る」
「おい頼むよ。結構事態は深刻なんだ」
「挨拶代りのスカンディナヴィアンジョークでござる。ういうい、やってやろうじゃないの。その代り今日の9時からの降臨、兄者のオーブで周回決定な?」
「ぐ……折角もう少しで10連回せるとこまで貯めたのに……」
「元々その為のサブ垢だ。あきらめろん」
最近喜由がハマっている無料のアプリゲームに、ヤツのサブ垢育成を任されてやるうちにうっかりハマってしまった俺。
どうでも良いが何でコイツはタブレットPC2台も持ってるんだ?
「はいはいそんなのどうでも良いから移動するよー。ほれお姉ちゃん殿だっこだー」
「おいよさぬか。あかごあつかいするでない」
ベッドから身軽に降りた喜由は、チビ光世を抱え上げスタスタと部屋を後にした。
「では参りましょう、総一郎殿」
「おう」
お光と俺もその後に続いた。
現在時刻は8時15分。
夏至も近付いて日もかなり長くなっているが、流石に表はもうすっかり暗くなっている。
この時間、既に両親は帰宅してガレージは空いていない。
俺達は家に面した道路で試してみる事にした。
「もう用意は良いのか?」
「オッケーイでござる」
「よし、じゃあまずはお前の顕現の解除からだ」
この間と同じ要領で喜由から俺の霊力を回収する。
ポンと頭に手を置いて、顕現を逆再生するイメージ。
「戻れ、喜由」
次の瞬間、俺の手は柔らかな毛の感覚に包まれた。
「こんちきちーん。狐っ娘きゆたそアゲイーン」
何故かテンションが高い喜由をスルーして、次にお光と光世の手を取った。
「何やら胸が高鳴る思いにございます」
「うむ、わしもおなじくじゃ」
どこか上気したような表情を見せるお光と、つぶらな瞳を輝かせる光世。
実は俺も気分が昂ぶっている。
予感しているからだ。
途轍もない事が起こる、と。
しかしその思いをグッと胸の内に秘めて、2人の顕現を解いて鍔と懐刀を手にする。
そのまま十分な霊力を持って、改めてお光と光世を顕現。
黒装束に身を包んだ、凛々しい2に二が姿を現した。
「良いか? お光、光世」
「いつでも結構です、総一郎殿」
「是非も無し」
「うー、何かワクワクするねーい」
1人ガレージの下で尻尾をパタパタと振る喜由に苦笑いして、俺は再びお光と光世の手を取り目を閉じた。
あのグラウンドでの感覚を、記憶の中から呼び覚ます。
大典太光世、その完成形。
鍔と刀が一つになる。
そのイメージがくっきりと頭に浮かび、その言葉を口にした。
「一つになれ、大典太光世!」
よろしくお願いします。




