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脚フェチな彼の進化5

 膠着状態だ。

 お光と光世、2人が見せる神速のコンビネーション攻撃も、必殺には至らない。

 技術云々では無く、実戦で鍛え上げられた見事な動きで、巴が2人を翻弄し続けていた。

 絶え間なく甲高い音が響き渡り、時に爆音が轟くグラウンド。

 2対1で膠着しているという状況は、実質俺達が圧されているという事に他ならない。

「くそ………………!」

 両の拳を握り締めながら、丁度対面側の端にいる大豆生田の様子を窺うと、まるで3人の戦いには興味を持っていないかのように、スマートフォンを一心不乱にいじっていた。

 余裕綽々とも取れるその態度に、俺の苛立ちは更に増してくる。

 その時、一際大きい鋼を打つ音が聞こえた。

 慌てて視線を向けてみると、お光と光世の斬撃が、同時に巴の薙刀で防がれたところだった。

『2人掛かりでこの程度か? 修業が足らぬと見えるな』

 聴覚をお光とリンクさせると、巴の声が聞こえて来た。

『ぬかせ。これしきでわれらがちからをみぬいたともうすかよ』

『新陰流を見縊るな!』

 巴の挑発に、光世とお光が反発する。

 いわゆる鍔迫り合いの状態になっているが、2人のプレッシャーをものともしない様子で巴が受け止めていた。

『ほう、面白い。ならば……見せて貰おう!』

 一瞬薙刀を引いて、一気に押し返した巴。

 堪らず弾き返されたお光よ光世が体勢を崩した。

 そこに、薙刀の凶刃が襲い掛かる。

 横薙ぎの一撃を、お光は身体を低く屈めてやり過ごし、光世は後ろに跳んでかわした。

 お光は低い体勢から一気に踏み込んで、逆袈裟の斬撃を繰り出して、一旦間合いから外れた光世もワンテンポ遅れて巴に斬りかかる。

 再び激しい戦いが始まった。

 少しでも気を抜けば、即座に致命に至る攻撃の応酬。

 手数では勝っているお光と光世、それでももう一息のところで攻めきる事が出来ていない。

 その様子を見ながら、俺は理解していた。

 この状況を打破する方法。

 それは、一つしか無いという事を。

――融合

 同化、という手も考えた。

 しかし、この場に居ない喜由も含めた3人を顕現させている現在、恐らく霊力もほぼ限界まで消費している状態だろう。

 仮に同化をしたところで、一瞬でガス欠になるのは目に見えている。

 そもそも、2人の同化なんて出来っこないし、今の俺には同化自体が捨て身の特攻だ。選択肢に入れる余地すらない。

 となれば、残る手立ては唯一つ――

「融合……するしかない」

 出来るのか?

 ポツリと呟いて、しかしその考えが頭にこびりついて離れない。

 普通に考えれば不可能だろう。

 成功した事が無いという以前に、まだ実際に試した事すら無いんだから。しかもまだぼんやりとしかイメージがつかめていない始末。

 けど、やるしかない。

 雲をつかむみたいな話だけど、クモの糸をつかむ事くらいはやらなければ。

「落ち着け…………」

 言葉にする事で、自分に言い聞かせる。

 大きく深呼吸。

 のんびりしている時間は無い。

 こうしている間にも、激しい剣戟の音は続いていて、時にお光と光世の苦悶の声も聞こえてくる。

「……焦るな」

 もう一度呟き、グッと目を閉じた。

 心臓は激しく鼓動して、全身から汗が噴き出してくるのを感じる。精神的にギリギリになっている事実は否定出来ない。

 でも、だからこそ、やってやる。

――チャンスは一度

 それを逃せば、負ける。

 自分で自分にプレッシャーをかけて、崖っぷちに追い込んだ。

 イメージ。

 何の飾り気も無い白鞘の刀と、こしらえから外された鍔。

 その二つが重なり、一振りの立派な拵を纏った刀に姿を変える。

 大典太光世。

 かつて剣豪・柳生十兵衛が所有して、数々の修羅場で夥しい数の悪鬼を屠った退魔の剣に。

 その姿が脳裏に浮かんだ瞬間、確信した。

――いける

 と。

 同じタイミングで、鉄を討った音が響いて目を開けた。

 視線の先、およそ50m。果敢に剣を振るうお光と光世の2人の姿が、重なったように見えた。

「来い!! お光!! 光世!!」

 気が付けば、俺は声を張り上げて2人を呼んでいた。

 お光と光世、巴までもが俺に視線を向ける。

 刹那の逡巡も無く、2人は踵を返し一直線に俺の下へと駆け寄ってくる。

 瞬く間に大きくなるお光と光世の姿。

「あるじどの!」

「総一郎殿!」

 2人とも、既に俺の意図を理解しているようだった。

「いくぞ!!」

 目の前に辿り着いた2人の手を、つかむようにして握る。

 右手にお光、左手に光世。

 しかし意識を集中させようとしたその時、異変を感じたのか、巴が大きく薙刀を振りかぶる姿が見えた。

 ソニックブームが来る。

 直撃すれば一たまりも無いだろう。

 けどこの時、俺は酷く冷静だった。

 周りの全てがスローに見えてもいる。

 俺は2人の手を握り締めて、その言葉を発した。

「一つになれ……大典太光世!!」


よろしくお願いします。

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