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脚フェチな彼の進化4

 グラウンドの中央で3人の付喪神が対峙している。

 薙刀を中段に構える、女性としては比較的大柄な巴御前。

 対するは、正眼の構えを見せる中学生程度の身長であるお光と、上段に構える小学校入学前くらいしかない光世。

 まさに大人と子供、という構図だ。

 胸の内で徐々に大きくなってくる不安を必死で掻き消そうとしていると、何の前触れも無くお光と光世が動いた。

――早い!

 二人は同時に、それぞれ右と左に跳んでいた。

 左右からの挟み撃ちか。

 二手に分かれたお光と光世の動きに、巴が反応して顔を左右に振った。

 時間にして1秒にも満たない僅かなものだろう、その巴の反応。そこに、刹那の隙が生じる。

 やはりチビ光世よりお光を警戒するのか。巴の目線はお光に定められて薙刀を持ち上げていた。

 その間隙を突いて、死角に入った光世が一気に斬りかかる。

 しかし、

「おああああああああ!!」

 気合の発声とともに、巴が勢いよく身体を捻って薙刀を振り抜いた。

 次の瞬間、轟音を伴った衝撃波が小さな光世の身体をいとも簡単に吹き飛ばす。

「光世!?」

 木の葉のように宙を舞う光世に視線を奪われた直後、今度は金属音が鳴り響いた。

「くぁっ!」

 間髪入れずに繰り出された巴の一撃で、虚を突かれた格好のお光は大きく体勢を崩されていた。

 下からの攻撃だったのか。刀が空に向かって弾かれて、お光は仰け反った状態で完全に身体が開いてしまっている。

 その隙を、当然巴は見逃さない。

 斬り上げた薙刀を、お光の脳天に向けて真直ぐ振り下ろした。

「っく!」

 しかしその致死の一撃を、お光は斬撃の勢いに逆らわず後方へ跳躍する事で何とかかわした。

 必殺の一撃をかわされた巴は、すかさず更なる追撃を、繰り出す事は無かった。

 振り下ろされた薙刀は、勢いそのままにぐるりと振り回されて、お光とは真逆の背中側に切っ先を向けて止められている。

「ぐ………………!」

 そしてその刃が向かう先には、上段の構えから今にも斬りかかろうという体勢に入っている、光世の姿があった。

 俺は展開の速さに追いつけず混乱するばかりだったが、ミニサイズの紺色の剣道着はあちこちが綻びているものの、大きな怪我が無さそうな様子に胸を撫で下ろした。

 が、そんな悠長な事を言っている状況では無い。

 お光よ光世の動きは完全に読まれていた。

 むしろ、巴の誘いに二人が乗せられてしまった、と言っても良いかも知れない。

 最初に見せた、お光に攻撃をしかけようとした動き。あれがトラップだったんだろう。

 2対1程度の数の不利なんかものともしない胆力。時には万単位の人間が入り乱れる戦場に身を置いてきた、経験のなせる業なのか。

「ちぃっ!!」

 苛立った様子の光世が、目の前に突きつけられた薙刀の切っ先を刀で打ち上げると、それを合図に再び斬り合いが始まった。

 光世に続いてお光が袈裟懸けに刀を振り下ろすと、身体を捻りながらそれを避けた巴が、回転の力そのままに薙刀を振り回して反撃に出る。

 その斬撃を大きく後方に跳んでお光がかわすと、入れ替わりに光世が巴の背後から急襲。

 しかし巴はそのまま身体を回転させて、背後の光世に向けて斬撃を繰り出した。

「くっ!」

 思わぬ反撃をもらった光世は、素早く屈んでその一撃をかわす。

 奇襲を十分な体勢で迎撃した巴。

 しかしそのまま光世に追撃は加えず、薙刀を勢いよく背後に突き出して、光世とは真逆の方向に石突の攻撃を繰り出していた。

 ガキン、と鉄がぶつかる音が響く。

 背後に向けられた巴の打突は、死角から攻撃を見舞おうとしていたお光を狙ったものだった。

「見えてるのか……!?」

 思わず声に出してしまっていた。

 光世とお光が見せる、巧みなコンビネーションからズバリ死角を突く攻撃を、ことごとくかわし、いなし、防いでいる巴。

 まるで事前に示し合わせていたかのように。

 その流れに図らずも動揺する俺とは対照的に、それでもお光と光世は果敢に攻め続ける。

 特に光世の方は、身の丈が幼児レヴェルしかないにも関わらず、達人と称して全く違和感の無い剣捌きを見せて、万全では無いハンデを感じさせない。

 しかし、

「光世!!」

 いくら動きが常と比べて遜色が無くても、パワー不足は歴然としていた。

 一たび巴の攻撃をまともに受ければ、いとも簡単にその小さい体は吹き飛ばされてしまう。

 そうなると、イコールお光と巴の一騎打ちの戦いとなり、数の有利も消えてしまう事になる。

 その繰り返しになっていた。

 2対1。

 この状況は、俺達に有利とはなっていない。

 むしろ、お光が光世をかばうような動きが目立つようになってきていて、戦況は悪化しつつあると言っても良いかも知れない。

 そして、巴もそれを十分に理解しているのか、好機と見える場面でも、決して深追いしてくる事が無い。

 このまま戦いが長引けば、俺達が消耗してしまうのは火を見るより明らかだ。

 俺の胸の中では、ジリジリと焦燥感が募ってきていた。


よろしくお願いします。

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