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脚フェチな彼の進化

「済まなかったな、仙洞田君。連絡出来ずに」

 週が明けて月曜日。昼休みの部室で先輩と二人で昼飯を食っている。

 昼食は部室で先輩と食べる事がほとんどだ(べ、別にクラスで一緒に食べる友だちがいない訳じゃ無いんだからねっ!)。

 先に部室で待機していた桜木谷先輩が、俺の顔を見るなりそう謝罪してきた。

「いら、こちらこそすみませんでした。お取込みだったんですよね?」

 荷物を机に置いて、椅子に腰掛けながら俺が答える。

「いやその通りなんだ。ちょっとした捕り物があってね、県内をあちこち走り回っていたんだよ。土曜の夜から始まって、結局日曜の夕方までかかってしまったんだ。正直今日は学校を休もうかと思うくらいクタクタになった」

 苦笑いを浮かべつつ、先輩は自分の肩を揉む仕草を見せた。

「そうだったんですか……それは大変でしたね。また能力犯罪ですか?」

「いや、今回のはバケモノ自体が相手だった。そんなに強くは無かったんだけど、まあ逃げ足が速くてさ。実は恥ずかしい話、結局取り逃がしてしまう始末でね」

「先輩がですか? そんなに……黒井さんはご一緒じゃなかったんですか?」

「うん。今回はボク一人さ。黒井さんは別件で海外に行ってるんだよ」

「え、ホントに? 海外ですか?」

 意外な事実だった。

 てっきり地元密着型のローカルな仕事だと思ってたのに、案外グローバルなんだな。

「あの人の場合は、ボクらの組織での仕事以外にも、MJ12のメンバーとしての役割なんかもあるからね。特別だよ。勿論ボクには海外出張なんて話は回って来ないよ」

 涼しげな笑みとともに、俺の疑問に答えてくれる先輩。

 そのまま優雅な所作で、ペットボトルのお茶を一口飲んだ。

 お光と光世の融合を断念した土曜日。

 あの後夕方になってから先輩に連絡を試みたものの、電話・メールのいずれにもレスは無く、明くる日の日曜日に、

『手が離せず連絡出来ず済まない。詳細は学校で』

 という短文のメールで返信をいただいていた次第だ。

 1日何も出来なかったが、チビ喜由を存分に堪能出来たから特に気にはしていなかったが。

 余談だが、何と喜由はあの日、その姿を両親にも晒してしまった。当然大騒ぎになるところだったが、しかしそこはヤツの力であっさりと父も母も丸め込んでクリア。

大いに甘やかされて小遣いまでゲットして、チビフォームを存分に活用していたのである。

寝る前に元に戻したが、

『これいいわ。兄者、今度からちょくちょくチビにしてよ』

 とまでのたまう始末。前世での超絶モテ気期の記憶が蘇ったとか。先行きが不安になった日曜の夜だった。

 閑話休題。

「で? 融合の話だったな。上手く行かなかったのかい?」

「いえ、それ以前にどうすれば良いのかさっぱりで……何をどうしたものかと。何か切っ掛けになるようなものでもと思って先輩に連絡したんです」

「ふむ、そう言う事か……済まないな仙洞田君。ボクにもちょっと分からないな。付喪神については黒井さんからの受け売り程度の知識しか持っていないからね」

「いや、先輩が謝る事なんてありませんよ。能力が違うんですから」

「ただ少し思ったんだが……仮にお光君と光世君の融合が出来たとして、その時の姿は、君はどう思い描いているんだ?」

「融合後、ですか?」

 その先輩の指摘に、ハッとさせられた。

 そう言われてみれば、考えた事が無かった。

 結果を求めていた筈なのに、いつも間にか、その手段に気を捉われ過ぎていたらしい。

「成程、どうやらそこまで考えが居たっていなかったようだな、仙洞田君」

「お恥ずかしい話、先輩に指摘された通りです。俺は融合そのものに気を取られて、大義を見失っていました」

「もう1つ付け加えるとすれば、だ。そもそも君は、顕現した後の彼女達の姿に捉われ過ぎじゃないのかい? 人としての姿に。確かに融合とは複数の付喪神を一つにする事からも知れないが、要は別々の“器”同士を合体させるという事だろう? だったら、人間同士を融合させるイメージに固執しなくても良いんじゃないかな? まあ素人の意見ではあるんだけどね」

 そう言って微笑んだ先輩は、弁当箱から綺麗に巻かれた卵焼きをひょいと持ち上げて口に運んだ。

 目から鱗が落ちたような気分だった。

 確かに、俺は“顕現した”お光と光世をどうやって融合させるか、という事ばかり考えていた。

 二人が合体するというところから、ぶっちゃけエロい事しか思い浮かばなかった事は、流石に先輩には言えなかったが。

 けど、今の話を聞いて一気に視界が開けた。

――そう言う事か………………

 糸口が、つかめたかも知れない。

「ふふ、どうやら何か思いついたみたいだな」

「え、分かりますか? 顔に出てました?」

「まあね。君は結構顔に出やすいタイプだから。自覚してなかったのかい?」

「いや全然……ちなみにどんな顔してました?」

「ボクの脚を良い角度で眺めている時の顔」

「何……だと…………!?」

 どうやら俺は、少しポーカーフェイスの練習をした方が良いらしい。


よろしくお願いします。

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