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脚フェチな彼の訓練9

 結論から言えば、俺は融合を諦めた。

 あーだこーだと4人で話し合いもしたが、これといったヒントもつかめず、

『急いては事を仕損ずる、と申しますれば』

 というお光の一言で踏ん切りがついた。

 悪足掻きはやめて、まずは夜にでも先輩に相談してみようという事になった次第だ。

 その代わりと言ってはなんだが、俺はもう一人、付喪神を顕現させる事にした。

 他でもない。喜由だ。

 その結果はと言えば――

「ほら、喜由、プリン。プリンだぞ? 好きだろ? ほらプッチンってしてやるよ。面白いだろう?」

 見事にチビ喜由が爆誕した。

 耳と尻尾が無くなった人間の姿で、チビ光世と同じ年頃、背格好の。

 あの頃の、マジ天使だった頃の喜由だ。

 その喜由が、数年の時を経て帰ってきたんだ。

「お帰り!! お帰り喜由!! ほら高い高いしてやる!! おいで!!」

「えーんあにじゃがきもいよー」

「総一郎殿、それくらいでおやめになったらいかがですか。このように喜由殿も嫌がっておいでではございませぬか」

 ととと、と逃げ出した喜由が向かった先には、いつもの剣道着姿に戻したお光が控えていた。

 喜由はお光に抱き上げられてしがみついている。

 ちなみに喜由の服装はと言えば、家には合うサイズの服が無かったという事で、妖力を使ってミニサイズの体操服を作り出して、それを着込んでいる。

「おいお光。そうやってしがみつかれるのは兄である俺の役目だ。早く喜由を渡せ」

「わたさないでーおみっちゃんどのー」

「渡しはしませぬ故ご安心を、喜由殿。誰が渡すものですか。斯様に……斯様に可愛らしい喜由殿を!!」

 そう言いながら、コアラのように自分にしがみつく喜由を、お光もガバリと抱き締めた。

「お前!! それ絶対私情挟んでるだろ!! それは俺の妹だぞ!! 返せ!!」

「返すものですか!! いかに総一郎殿の命であろうとも、この喜由殿だけは!! この可愛らしい喜由殿はそれがしのものにございます!!」

「いたいよーおみっちゃんどのー」

「喜由!? 大丈夫か!? お光!! お前力入れ過ぎなんだよ!!」

「ああっ、申し訳ございません! 大事ございませんでしたか? 喜由殿」

「あんまりぐりぐりしないでー。かみぐちゃぐちゃになるよー」

 慌てて力を緩めたお光が、今度はぐりぐりと喜由の頭を撫でまわしている。

 許せん。

 何て羨ましい真似を。

「いい加減にせぬか二人とも」

「いてっ」

「あいた」

 リビングで言い争う俺とお光の間に入り、それぞれの頭にチョップをかましながら、光世が止めに入ってきた。

「ほれお光。喜由めを儂に寄越せ」

「しかし……」

「しかしもかかしもあるか。喧嘩両成敗じゃ。この場は儂が預かろう」

「えーんおねえちゃんどのー」

「よしよしもう大丈夫じゃ。ここに居ると碌な事が無さそうじゃ。しばし二人から離れているとしよう」

 チビ喜由を抱えたまま、リビングを抜けて階段に向かう光世。

「そうじゃ、儂が髪を梳いてやろう。その後はままごとなどどうじゃ? 人形など用意して。そこもとは何を所望じゃ? おお、確か飴玉もあったのう」

 とんとんと階段を上りながら、そんな事を言っている光世。

 あいつも結局喜由を独占したいだけだったんじゃないのか?

 ぐぬぬ、と言わんばかりに光世の後ろ姿を見送った俺は、仕方無くそのままソファに腰を下ろした。

 お光も諦めた様子で、すとんと座り込んだ。

「トンビに油揚げをさらわれた気分だな……」

 思わずポツリとこぼすと、はす向かいで俯いて座るお光も、コクンと無言で頷いた。

「しかしあるばむで拝見した事はございましたが、こうして目の当たりにすると、真実愛らしいお子にございますね。喜由殿は」

「ああ。誇張無しで天使だからな。モデルの話が引く手あまただったらしいし」

「それがしとしたことが、つい我を忘れてしまいました」

「まあ仕方無いだろう。傾国の美女とやらだったんだろ? 昔のアイツ。子供の頃から人を惑わすんだろうな、きっと」

「ああ、確かに…………」

 自分で言いながら思い出していた。

 妖怪の頃のアイツは、その美貌で権力者を誑しこんで、贅沢三昧の毎日を過ごして国を傾かせたんだった。

「時に総一郎殿、結局融合の件はいかがされるおつもりですか?」

 急にマジメなトーンでお光が聞いてきた。

 深々とソファに背中を預けていた俺は、首をぐっと起こしてお光の方を向いた。

「取り急ぎ先輩に尋ねてみようと思う。何かヒントくらいはもらえるかも知れんからな。それでダメなら黒井さんだ」

 本当なら最初から黒井さんに聞きたいところではあったが、バタバタしていて連絡先を聞くのをすっかり失念していたのである。

「折角良い感じだったのになあ……でもまあ、確かに焦っても仕方無いしな。流石に連中も今日はもう襲撃して来ないだろうし」

「奇襲があったとしても、今のそれがしと姉上であらば、賊に後れを取る事はございません」

「確かにな。2対1だし」

 とは言ってみたものの、懸念が払拭されず落ち着かないのも事実だ。

 打つ手も無くまんじりと時を過ごすのは、存外ストレスを感じる。

 結局のところ、俺は融合した後のお光と光世の姿を想像して、気を紛らわせるくらいしか出来なかった。


よろしくお願いします。

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