脚フェチな彼の訓練6
「こんちきちーん! どう? 喜由たそ@妖怪ヴァージョンは」
確かに言った通りだった。
ケモ耳美少女。
肩よりも長い真直ぐで柔らかな茶色の髪は、ぐっと長くなって腿あたりまで伸びている。そして何よりも、その頭頂部に生えている、大きな茶色の耳。そしてお尻の辺りには、フサフサとした尻尾が揺れている。
「でも何で体操服のまんまなんだよ」
静かに喜由の頭から手を放しながら、思わず口をついてその言葉が出ていた。
外見が劇的に変化していながら、その一点で何か色々と残念な気分になる。もうちょっとこう、例えば巫女さんみたいな恰好とか和を基調にしたファンタジックな恰好とか、そういうのを想像してたのに。
とはいえ、逆に気持ちが落ち着いた事には間違いは無い。
「服は拙者の妖力を介したものじゃないからね。まあ変えようと思えば楽勝なんだけど、それは今後のお楽しみってところでござる」
「そっか、って言うか……………………」
本当に、生えてるんだな。耳と尻尾が。
思わず俺は、喜由の周りをグルグル回りながら観察していた。
「どう? 兄者。可愛いもんでしょ? 特別にお触りもオッケーだぜ?」
「え、いいの? じ、じゃあ早速、って……おお、これは…………」
「ふっふーん、もっさもさでしょーん?」
「き、喜由殿、それがしも、その……」
「ばっちこーい。今日は出血大サービスじゃーい」
喜由の言葉が終わらない内から、俺とお光は尻尾をもふもふと触り始めていた。
何という触り心地だろう。見た目通り柔らかくてふさふさとしている。冬とかに首に巻けばさぞかし暖かい事だろう。
しかし、ここで一つの疑問が湧いてくる。
「なあ、尻尾3本しかないぞ? “九尾”じゃないのか?」
「前言ったじゃん。魂魄分割されたって。今の拙者は完全体じゃないからね。だから3つ」
「ふーん」
「しかしこれは、何とも肌触りの良いものでございますね。こうしていつまでも感触を楽しんでいたくなってしまいます」
お光の言う通りだった。
確かに習慣性がある代物だ。
「ほれほれ、また後で触らせてやっからさ、兄者。ボチボチ本命行ってみようぜ?」
「お、おおそうだな。でもその前にもう一つ聞きたいんだが、良いか?」
「何でござる? この際何だってオーケーさ。ちなみに今日のオイラっちのパンツはピンク地に花柄のデザインのやつな」
「いやパンツはどうでも良いが、その耳だ。頭に耳があるだろう? 元の耳はどうなってるんだ?」
長年の疑問だった。
マンガとかアニメなんかでは、良く動物の耳がついたキャラクターが登場するが、その部分についてはっきり描写されている作品に出会った事が無い。単に俺が知らないだけなんだろうけど。
「耳? 無いけど?」
ほれ、と言いながら喜由が髪をかき上げて見せてくる。
確かにそこにある筈の耳は無く、ただ髪の毛が見えるばかりだった。
「メガネかけらんないんだよね。だからほれ」
そう言って両耳を手で覆うような仕草を見せて、そのまま両手で両サイドの髪を持ち上げると、
「こうやって普通に耳を付ける事もある」
耳が再現されていた。
「耳なんて飾りです。エロい人にはそれが分からんのです」
「お前それ好きだな」
長年の疑問ではあったが、ネタが割れてもそこまでの感動は無かった。それよりもメガネをかける必要性がどこにあるのかという、新たな疑問が生じてしまう始末だ。
「さあさ、気が済んだところでいってみようでござる~」
しっしっ、と俺をあしらうように喜由が言う。
仕方無く、俺は喜由から少し距離を取って立った。
そして左手に持ったままだった光世(懐刀フォーム)を水平に突き出すようにして構える。
「どう? 兄者。身体の調子」
「ん? そう言われれば……」
いつもより、軽い感じがする。まるで担いでいた荷物を下ろしたような感覚だった。
今ならいける。
自然とそう思えた。
そのまま静かにイメージしようとした途端、
「うわっ!」
左手から光が溢れ出した。
その上ふわりとした風ではなく、さっと吹き抜けるような風も起こっていた。
慌てて目を開けると、そこにはスラリと背が高い光世が立っていた。
「主殿、お見事ではあるが…………この出で立ちはどういうつもりじゃ?」
デジャヴを覚えるセリフだった。
しかし、今度は全然チビなんかじゃあない。
ただ、いつもより少々露出度の高い服装ではあるが。
剥き出しになった肩と腕、そして強調された胸の谷間が実に扇情的で、くびれた腰と適度なサイズのヒップにも目を奪われる。
しかし、何よりも俺の目を釘付けにしてやまないのは、その網タイツに包まれて美しいラインを惜しげも無く晒している、両の脚だ。
「兄者……お前どういうつもりだよ…………」
俺が溜息交じりに光世を見つめていると、呆れたような喜由の声が聞こえてくる。
「総い――クソ野郎殿。もっと真摯に取り組むべきではございませぬか?」
続いて聞こえて来たお光の声。見た訳じゃないが、恐らく俺の事を、道端に放置されている犬のフンでも見るかのような目で見ている事だろう。
しかし、そんなもの“屁”でもない。
それ程の価値あるものだった。
「主殿、せめて言い訳くらいは聞いてやっても良いぞ?」
光世の、バニーガール姿は。
よろしくお願いします。




