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脚フェチな彼の妹2


「喜由、年頃の男子の部屋に無断で立ち入るなと何度言ったら分かるんだ。およそ女子中学生が目にするには余りにも憚れるような卑猥な代物がどこに転がっているか分からないと、常日頃から言って聞かせている筈だが」

 あれから数分後、リビングからお光と妹を自室に召喚した。そしてクドクドとお説教を垂れているのであるが、

「はいはい拙者が悪かった拙者が悪かった。お、おみっちゃん殿、こっちが兄者の最初の頃のアルバムでござる」

 全く聞いていない。まあ普段からこんな感じではあるが。

 事の真相は単純明快なものだった。学校から帰った妹が、俺の部屋にマンガ(乙嫁語り)を取りに無断で侵入し、そこに暇を持て余して午睡を貪っていたお光が居た、という訳だ。

「やれやれ…………」

 場所を移しても、さっきと同様楽しそうにお光とアルバムに夢中になっている妹。ベッドの脇、部屋のほぼ中央にある小さなテーブルで肩を寄せ合いながら。俺の事を一瞥もしようとしないその様子を、溜息交じりに見やる。

 妹の喜由は、我ながら実に平均的なフツメンである俺に全く似ず、誰もが目を奪われる程の美少女だ。一重で薄くやや垂れ目な俺に対し、妹はくっきりとした二重まぶたのくりくりで少しつり上がった目。硬質で純和風な黒髪を短めでキープしている俺に対し、妹は柔らかくサラサラで天然の茶髪を背中まで伸ばしている。身長は女子の中でも結構低い方らしいが、童顔で可愛い系な妹にはそれも更なるアドバンテージとなっているようだ。

 そんな、小柄で童顔で可愛くてしかも胸が大きい妹は、しかし俺よりも空気を読むのが教科書を読むより苦手で、良く言えばマイペース。悪く言えば傍若無人。

「おお、これは何とも愛らしい。このような愛らしい赤子が、歳を経て斯様な人物に成り果てるとは……時の流れとは何とも残酷なものにございますなあ」

「ひw どw いw 何という毒舌キャラwww あまりに的確なご指摘に、拙者失禁しそうでござるwww」

 それこそ学校でもこの調子らしく、しかもまだ恋愛にはそこまで興味が無いと公言しているようで、モテてはいるものの男の影は皆無だ。勿体無いと思う反面、兄としてどこかホッとしているところもある。ちなみに友達も多いらしい。俺と違って。

「ってそんなのはどうでもいい。おいお前らいい加減人の話を聞け」

 しかい、お光・喜由ともに俺の言葉をスルー。

「喜由殿、これはいつ頃の写真でございますか?」

「どれどれ? ふむん、これは拙者が産まれる少し前の家族旅行でござるな。兄者が二つか三つかの頃で、那須高原という場所に行ったそうでござる。この写真を撮った時の母者の腹の中では、父者とのセックルによって生命を授かった拙者が蠢いていた筈でござるよwww」

 微妙にセクハラ成分を含む嫌な解説をする妹であるが、お光は意に介していないようで、俺に見せるような軽蔑の眼差しを喜由に向けてはいない。この扱いの差は何なんだ。

 いや、この際そんな事はどうでもいい。

「おい、いい加減にしろ。こっちは珍しくマジメなんだ」

 少しイラつきながら、二人にキツめの言葉をぶつけた。

「おふぅ。おみっちゃん殿、我が兄がお怒りのご様子。ここは一つ言う通りにした方が賢明かと思われ」

「左様にございますな。しからばこれらはまた後程」

 わざとらしく怖がる振りをする妹と、悪びれもせず同意するお光。腑に堕ちないものを感じるが、ようやくまともに話が出来るとして目をつぶってやろう。

「さて、喜由よ。改めて聞くが、お光がここにいる理由については、一通り本人から聞いたんだな?」

「イグザクトリィでござるwww しかも兄者が執拗に性的関係を迫った挙句、カウンター喰らってボコられた事についても赤裸々にw おまww 手籠めにしようとした娘っ子に逆にやられるとかどw んw だw けwwww 妹として本気で恥ずかしい限りでござったわwwwwww」

「…………聞いてるなら話は早い。という訳でだ、当分の間お光をここに置こうかと思っている。しかしオヤジやオフクロに知られると何かとうるさいだろう。そこでお前にも協力してもらいたいと思うんだが」

「喜由殿、僭越ながらそれがしからもお願い申し上げる。なるたけご迷惑をお掛けせぬよう致しますゆえ」

「コポォwww 兄者とその愛人からお願い申し上げられたでござるwwww 拙者いきなりの大w 出w 世wwww」

「喜由、マジメな話なんだ。頼む」

 終始人を小馬鹿にするような喜由の態度だが、妹の性格を良く知る俺にとっては何の問題も無い。これで恥ずかしがり屋なところがある妹は、マジメな話をすると、照れ隠しにもっとふざけた態度を見せるからだ。胸ばかり大きくなって、中身はまるで小学生のままである。

「喜由」

「…………やれやれ、こんな時だけマジメになるとか兄者は卑怯だお。でも、そんなウンコみたいな顔で頼まれたんじゃイヤとは言えないお。ってかそんな心配杞憂だっつーの、つーの。喜由だけに。この手の話、最初から親に言う訳ないお? もっと喜由の事信頼してもらいたいもんだお」

 急におとなしくなったかと思うと、ぶっきらぼうにそう言って、つんと横を向いてしまった。垣間見える横顔は、頬が赤く染まっている。

 ふっ、まったく。憎たらしいところも多々あるが、やっぱりコイツは可愛い妹だ。

「そうだったな。悪かった、喜由。今度何か奢ってやるから勘弁してくれ」

「……じゃあお寿司が食べたいお。回ってない方の」

「む、それは高校生にとってかなりハードル高くないか?」

「握りたてのいなり寿司が食べたいお」

「コンビニで十分じゃねえか」

「後もう一つ」

「え、まだあるの?」

「たまに家に友達呼んだ時、その子の足ガン見するのやめて欲しいお。次の日学校で“今にも古龍種にトドメを刺されそうな追い詰められたハンターの気持ちが良く分かった”とか言われてとっても辛い思いするんだお? 自重しろこの脚(足)フェチロリシスコン野郎」

「っく……ぜ、善処しよう…………」

 バレていたのか……女子中学生の靴を脱いだ貴重なソックス足やタイツ足の数々を間近で拝める至福の一時だというのに………………

「まあでもビックリしたでござる。まさか兄者が付喪主だったとは」

「いやその通りだ。俺自身まさに寝耳に水――」

 何……だと……!?

「おい喜由、今お前何て言った?」

「あれ、違った?」

「いや、違……わないが。え、お前付喪主とか知ってたのか?」

「質問を質問で返すんじゃあねえ!! このド低脳がああああああ!!」

「待て喜由、時に落ち着け。先に質問を質問で返したのはお前だ。って、それはどうでもいい。少し本気で聞きたいんだが、お前その話どこで聞いたんだ?」

「どこでって、ここで?」

「ここ、って家でか!? って、ああ、ネットで調べたのか」

「ネット、違う。聞いた、ここ」

 何故か片言になる喜由は、右隣に座っているお光を指差した。

「総一郎殿には申し上げておりませんでしたか?」

「聞いてねえよ。もっと早く言えよそういう大事な話は。そうと分かってれば色々調べたり考えたり出来ただろうよ」

「まあまあその辺にしとくっすよ、にぃに。おみっちゃん殿だって悪気があった訳じゃない筈っすよ?」

「いやしかしだな……ってお前もちょっとはキャラ統一しろよ」

「こまけぇこたぁ気にすんなって! 先は長ぇんだしよ! これからいくらでも話なんてする時間あんだろうが! あ!?」

「え? あ、ああ、うん。まあ……」

「だったらいいじゃん。明日は明日の風が吹くって言うくらいだしさ。さ、おみっちゃん殿続き見よ?」

「おいおい勝手に話終わらせるなよ」

「ならば喜由殿、先程のご家族の写真の続きはどちらにございますか?」

「お前もかよ」

「あ、それね、実はその旅行の後兄者ったらしばらく体調崩してしまったのでござる。まあ元々身体は弱かったとは両親の申し分にござるが」

「何と。そのような事が」

「しかも結構長引いて、結局小学校に上がるまで病院を行ったり来たり。そのせいで拙者も満足に両親から相手にされず寂しい思いをしたでござるよ」

「それは不憫な……幼き頃よりはた迷惑な御仁でございましたか…………」

「まさしく。しかもそのせいで碌に他者と関わる事も出来ず、結果ご覧の体たらく。人と人との繋がりも満足に築けず今日に至り、友人の一人も持てないという有様にござる。身内でなければ後ろ指さして大笑い出来るのでござるが…………」

 二人して不審者を見る目つきを俺に向けてくる。軽くムカついたのでシカトしてやるが。

「ふんだ。そうだ、これこれ。ささ、おみっちゃん殿これをご覧に。兄者の貴重な全裸の写真でござる。まだ三・四歳当時のものでござるが、可愛いおチソチソでござろう?」

「ほほう、これは可愛らしい」

「そうでござろう? ちなみに今もこの当時とあまり大差なく、可愛らしい蕾のままにござる」

「ぷっ」

「こらああああああああ!! 黙って聞いてりゃ何人様のアソコを勝手に粗チソ認定してやがんだ!! お光も笑ってんじゃないよ!! 何が“ぷっ”だ!! お前そういうの本気で傷つくんだぞこの野郎!!」

「ムキになって反論されるところがいかにも疑わしいものにございます」

「ほら兄者って小悪党タイプだから、追い詰められると聞いてもないのに自分でホントの事ベラベラ喋っちゃうんでござるよ」

「ムカつくううううう!! 見てもないクセに勝手な事抜かしやがって!! 自分がちょっとばかし乳デカいからって偉そうにすんな!!」

「ふーんだ、見なくても分かるっつーのー。それにちょっとばっかしじゃないっつーのー。かなりデカいっつーのー。男子の視線釘付けだっつーのー。悔しかったら見せてみろっつーのー。つーのー、つーのー」

「喜由殿。そのように申されて、総一郎殿が万一その気になられたらどうされます。それがし、斯様な粗末なモノを目にしたくはございません」

「へへ……もうおせえよお光ぅ…………久々にキレちまったぜ……? うらあ!! そこの乳ばっかり育ちやがったクソ生意気な妹と共に括目しやがれ!! 見ろ!! これが仙洞田総一郎様のご神体じゃあああああああああああ!!」

 勢い良くベッドの上に立ち上がって、部屋着のジャージに手を掛け一〇〇均で買ったボクサーパンツと一緒に一気にずり下ろそうとした瞬間、

 ガチャリと開く部屋のドア。

「ちょっとご飯だって呼――」

 オフクロだった。

 全ての時が止まる。

 よし、ここは落ち着いて考えよう。そうか、話し込んでいる内に結構時間が経っていたんだな。オフクロがいつの間にか仕事から帰ってきていたようだ。晩飯の用意が出来て階下から俺達を呼んだものの、一向に姿を見せない俺達に痺れを切らした。階段を上がれば何やら俺の部屋から騒々しい声が聞こえる。ははん、さては何やら盛り上がっていて聞こえなかったんだな、仕方の無い兄妹だ。まあそんな風に考えていたんだろう。

 よもや部屋の中で兄が妹と、妹と同年代の剣道着姿の少女にイチモツを見せつけようとしているとは、微塵も、一ミリも、これっぽっちも想像していなかっただろう。

 この静寂を破ったのは、母だった。

「ソウ、来い」

 一言だけ言って、部屋を後にしたオフクロ。ちなみにソウとは母が俺を呼ぶ時の呼び名だ。

 俺はガクガクと震えながら、覚束ない手つきでズボンから手を離し、そして喜由とお光を残して部屋を出た。

 その後の事はあまり思い出したくない。ただ、傷が目立たないところを狙うのは、イジメっ子や虐待する親の常套手段だよなあ、と実感したとだけ言っておこう。


よろしくお願いします。

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