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脚フェチな彼の放課後デート

 事務所を出たのは午後6時半を過ぎてからだった。1時間ちょっと話し込んでいた事になる。そう言えば事務所を出ようとソファを立った時、あちこちの関節がポキポキと鳴ったんだった。

 帰宅時間を迎えて人出が増えた駅前の雑踏の中を、先輩の後に続いて自転車を走らせる。

『時間があるならもう少し話さないか?』

 という先輩のお誘いを、ありがたくお受けした次第だ。

 そのまま俺達は福乃井唯一のデパート、辺銀ペンギン百貨店近くのチェーンのカフェへと向かった。

 店内に入ると、中々の客入りで賑わっていたが、スムーズに空席を確保する事が出来た。

「ほう、光世君を手籠めにしろ、か」

 席に着いてキャラメルラテを栗に運びながら、さらりと先輩が言う。

「先輩。手籠めなんぞとは一言たりとも言っておりませんが」

 俺もカプチーノを一口すすって先輩の言葉に指摘を入れる。

「ふふ。まあしかし、ニュアンス的にはあながち的外れでも無いと思うけどね?」

「それは、まあそうですけど……」

 事務所で黒井さんに出された課題。

 それは、光世を野良の付喪神ではなく、自分の霊力で顕現させた付喪神として使役してみろ、というものだった。

「案外スムーズにいくんじゃないのかい? 上手くやっているんだろう? お光君とも妹君とも」

「それはそうですが、けど、俺と上手く行っているのかと問われれば、自信を持ってイエスと答えるには躊躇するところです」

 俺が本音を漏らすと、先輩はふむ、と頷いてラテを飲んだ。

 そう。

 あのバトルの後いきなり居候する事になった光世。

 しかし、突然の事にも関わらず、喜由の力で両親はまたしても丸め込まれてしまい、仙洞田家は6人家族として特段の問題も無く回っている状況だ。

 影響と言えば俺とオヤジのおかずが一品減って、かつ食卓がダイニングテーブルから客間の座卓に代わったという事くらいか。

「これは純粋な興味もあって聞くんだが、お光君や光世君は普段どう過ごしているんだ? そもそも人の姿を保っているんだろうか?」

「お光に関しては、当人の希望もあってほぼ顕現した状態で過ごしてますね。日中は掃除や洗濯、庭の草むしりなんかの家事をこなしながら剣術の稽古をしてるようです」

「ほう、それは随分と感心な事だな。お母上もさぞかしお喜びの事だろう」

「まさしく。それはもう大喜びで、出来の良い娘が増えて何よりだと、お光の事を手放しで褒め称えてますよ」

「ふふ、だろうね。で? 光世君はどうなんだい?」

「アイツは……良く分からないんです。飼った事は無いんですけど、猫みたいって言うか。お光の稽古相手になったり家事を手伝ったりする事もあるそうですが、ふらりと出かけては夜遅くに帰宅する事もあったり」

「ふむ。猫、か。言い得て妙だな」

「野良猫を飼い馴らすなんてどう考えても骨が折れそうで…………」

「まあそれでもやってみる事だよ。所長の言う事だ、何かが起こるというのは確定的だからね」

 先輩が確信を持った風に言い切る。

 でもそんな先輩の言葉に、俺は今更ながらその“所長”について何も知らされていない事に気が付いた。

「先輩、その事なんですが……黒井さんとはどういった人物なんですか? 正直先輩の仕事上の上司である、という事以外には何も知らないんですが」

 カプチーノを一口飲んで問い掛けた。

「ああ、そういえば何も説明していなかったな。すまない」

「いえ。でも、やっぱり特別な能力をお持ちなんですよね? 印象に過ぎませんが、随分と強そうな感じでしたけど」

「そうだな。仙洞田君の印象通りだと言っておくよ。強いよ、あの人は」

 やっぱり、だ。他人の能力につじて強弱を知るどころか、有無を知る事さえ出来ない俺だけど、それでも肌で感じる“何か”はあった。

「先輩が断言するくらいですし、相当なんでしょうね」

「相当だね。何せ世界で4番目に強いくらいだから」

「は?」

 瞬間、店内のざわめきがすーっと消えて行くような錯覚を覚えた。

「4番目、ですか? え、何かの大会とかあるんですか?」

 音が戻って来たのと同時に、ストレートな疑問をぶつける。

「いや、そうじゃない。余り他言するのは憚れる話なんだが、まあ仙洞田君は本人と関わった以上聞く必要があるだろう」

 やけにもったいぶるような言い回しで、自分を納得させるように話す先輩。

 カップを持ち上げて一口飲み込んで、そして話始めた。

よろしくお願いします。

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